鬨の声を上げますか。①
ラムアルとはすぐに話をした。
俺達、白薔薇の目的が何だったのか。
そして、魔力結晶の製造方法を知っていること。
援軍を呼ぶため、俺が先行すること。
ラムアルが次期皇帝になるのなら、あの書簡はもうラムアルに引き継がれると思っていい。
知ってて良い内容のはずだった。
皇帝になる権利が有るはずの次男ジャスティは、後方の馬車でオドールに監視されながら過ごしている。
ラムアルはそんな弟を、情けないと言った。
「ジャスティは死ぬまで幽閉よ。皇帝を刺したなんて、クーデターものだしね」
そうはあっても弟だ。
処刑はしないと彼女は困ったように笑った。
ただ、ひとつ気になることがある。
確か、もう1人……四女がいるはずだったろ?
俺達は見ていないし、ラムアルも口にしないんだよな。
どこにいるかわからず、生死も不明。
そう思うと、ラムアルは不安で口に出せないのかもしれない。
けど、この先を考えると、ラムアルとの皇帝争いになったりしたら不安材料にしかならない。
…聞いてみるべきか?
頭を悩ませていると、彼女はディティアに向き直る。
「とにかく…ディティア。ディティアはそれでいいの?」
「えっ?」
「…ハルトをひとりで行かせるのは、了承済みなの?」
「それは…、うん。それが、今は最善だって思うから」
「……そうなの?……うーん。…ん?」
ラムアルは何故か考え込み、ふと顔を上げた。
「…………」
目線の先に、フェンが座っている。
「……あんた、戦う眼だね」
「がう」
「うんうん。よしわかった」
俺とディティアは顔を見合わせる。
何だ?
「ハルトにはフェンが同行する。ディティアには、その、あ、あたしがいる!それを前提で、あたしは、その案を認めるわ」
「!?」
驚いて、フェンを見る。
「フェン!いいのか?結構飛ばすつもりだけど」
「がう」
銀色の艶めく毛並みが、フェンの動きに合わせてもふもふと揺れる。
俺は、言葉を失った。
知的な瞳が、私がいるんだから大丈夫と言っている。
「ディティア、その。貴女は強いけど、あたしだって強いから!だからこっちはあたし達で何とかしましょ?……そりゃ、ハルトと行かせてあげたいんだけど、あたしだけじゃ冒険者達の指揮はとれないと思うんだよね…だから、正直一緒にいてほしいと思う」
ラムアルはディティアに向き合って、戸惑ったような声をあげた。
どういうわけか、ディティアはラムアルの崇拝対象になっているように思う。
高栄養バーを食べたあの時から、2人の空気は柔らかい。
「……うん、わかった」
ディティアは笑うと、ラムアルの手を取る。
「約束したからね」
「……ディティア!ありがとう」
感動の雰囲気が漂う中、俺は、おずおずと切り出した。
黙っていても時間が過ぎるだけだ。
「……なあラムアル、ごめん…聞いて良いかわかんないんだけどさ。お前、もう1人、妹がいるよな?」
「うん?あー、いるよ。シャルアルっていうんだー。この子がまた、ちょっとひんやり系なんだけど、可愛くって!」
「えっ?…えっ、と、…」
ディティアを見ると、なんとも複雑な顔。
ラムアルはにまにまと頬を緩めながら、妹自慢を始めた。
ところで、ひんやり系ってなんだ。
「今回のことも、ひとりひんやり見ていてね。けど、協力はするって言って、それっきり見てないんだよね」
「は、はあ??」
思わず返す。
「ふふ、うちのシャルは隠密行動に長けてるの!気配消すのすっごい上手で、あたしもよく驚かされるくらいだったなあ」
「いやいやいや、ちょっと待てラムアル。帝都出て来ちゃったけど大丈夫なのか?妹」
慌てて聞く。
妹自慢が聞きたいんじゃなく、妹はどうしてるんだ?って聞きたいわけで。
ラムアルは頷いた。
「シャルは大丈夫。危険察知はあの子の得意分野だからね。どこかに身を潜めてると思うな。だから、早く帝都を取り返してシャルとも合流しないと」
言いながら、少しだけ遠くを見つめる。
小さな声で呟いた言葉を、俺も、ディティアも、目を閉じて聞いた。
「ルルとリリ、ガルディとトラスティも…早く弔ってあげないと、ね」
******
時刻は夕刻、今日はここらでキャンプを張るとなった辺りで、俺とフェンは動くことにした。
少しだけ仮眠は取らせてもらったし、体力気力共に充電出来た気がする。
馬はフェンが選んでくれた。
何頭か集めたところで、フェンが何事かを囁くようにもごもご鳴くと、一頭が歩み出たのである。
やばい、フェン、なんか格好良いぞ。
出てきた黒い馬は、蹄を鳴らして荒く息を吐く。
さっさと乗れと言われてる気がした。
そこに、ディティアが用意してくれた荷物を持ってやって来る。
「……ハルト君、これ、お水。それと、高栄養バーはまだあるよね?」
「うん。ありがとうディティア」
「わかった。……少しは休めたみたいで良かった。それじゃ、こっちが普通の食糧ね。フェンのは、こっち。……ハルト君をお願いね、フェン」
「わふ、くぅん」
フェンはディティアにすり寄ると、思う存分に甘えた。
その身体は、既にディティアに迫る勢いだ。
「大きくなったな」
笑うと、ディティアはフェンをもふもふしながら笑った。
「うん、でもまだまだ大きくなるんだよね。ふふ、フェン、どんどんおっきくなってね」
「がう」
「……よし、それじゃあ行くとしますか」
夕闇に染まりつつある空を見上げてひとこと。
昼の襲撃から、ダルアークの姿は見当たらない。
内心は、自分に目が行くよう期待していた。
俺を見て、俺に気を取られれば、ディティアやラムアル、帝都民達は楽になるはず、と思ったから。
「……フェン。ありがとうな」
「わふっ」
「頼んだよ、ハルト」
ラムアルも来てくれる。
「任せろ!それじゃ、行くよ」
「…………ハルト君」
馬に跨がった俺に、ディティアが拳を突き出す。
「……ん」
その拳に、自分の拳をコツンとあてた。
「いってらっしゃい」
「おう、早く合流しような!」
「うん!」
こうして、俺とフェンは走り出す。
俺達白薔薇の故郷、ラナンクロストへ向けて。
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