走ることに決めたので。⑤
かしゃん、かしゃんと。
鎧を鳴らしながら、兵士達が近付いてくる。
前に出て来てくれた冒険者のメイジ部隊をディティアに指揮してもらう。
ファルーアがいれば、威力アップ重ねてぶっ放してもらうのに。
彼女も同じ事を思ったのか、メイジ部隊を前に出し、魔法を撃った後に下がらせることにしたみたいだ。
後ろにいる前衛達は、怒りに満ちた眼をしたラムアルが指揮するようだ。
……大丈夫かな。
すると、ラムアルはオレンジ色の髪をかき上げて、レイピアを掲げた。
「相手は元兵士達だよ。恐かったら下がっていい!けど、戦える人はあたしのために手を貸して!」
『おおっ』
俺の心配は、徒労だったらしい。
ラムアルは、怒っているけどちゃんと冷静だ。
「ハルト君!メイジ部隊にバフお願い!」
「任せろ!…威力アップ!威力アップ!!」
ディティアの声に、広げたバフを投げる。
10人くらいは入ったか。
何度か繰り返して全員の威力アップをはかる。
「おっけー!」
「では皆さん、ありったけで撃って、左右から下がってもらいます。後ろの皆さんはメイジ部隊が下がったらラムアルに従って前へ!…………いきます、撃って!!」
ごおっ
魔法が放たれる。
さっと散開するメイジ部隊の間から、前衛が飛び出してきた。
「行くよ!」
ラムアルが先陣を切る。
……ラムアルの戦いをちゃんと見るのは初めてだった。
肉体強化バフを飛ばしながら、眼で追う。
彼女は……ひと言で言うなら豪快。
細身の剣にもかかわらず、大きく繰り出される一撃が敵を蹌踉めかせる。
そこをすぐに2撃目が追撃。
敵が吹っ飛ばされた。
ボーザックの戦い方よりも力任せで、グラン程、力に頼ってないって感じかな。
あれなら安心だろう。
ゾンビ化した兵士達はそう時間が経たない内に殲滅され、後には亡骸が残された。
交戦中には気付かなかったけど、兵士達は皆、首の後ろに魔力結晶があった。
もしかしたら、無理矢理埋め込まれたのかもしれない。
そんな風に思って、鬱々とした気持ちになる。
ディティアは冒険者達に怪我が無いか確認して、怪我した者をヒーラーに誘導してくれた。
「…………」
そこかしこに倒れる亡骸。
その中で、ひとりだけ鎧の違う者がいる。
ラムアルは横たわるうつぶせのそれを、凝視していた。
「ラムアル?」
「ああ、ハルト……これ見てよ」
「……?」
俺は、倒れた亡骸に近付いた。
まだ動き出しそうな生々しさに、眼を逸らす。
それでも、その背にナイフで突き刺された手紙へなんとか視線をはわせ、今度は逸らせなくなる。
「……っ」
『魔力結晶を造る知識を持つ者を差し出せ。そうすれば帝都民達の移動に手は出さない』
唇を噛み締める。
…………この襲撃の狙いは、俺達、白薔薇…?
「魔力結晶を造るって、なんだろう」
ビクッと身体が震えた。
顔を上げたラムアルは、汚れた頬をこすって、首を傾げる。
「ハルト、何かわかる?」
「それは……」
ぐるぐると混乱が募る。
ラムアルは知らないんだっけ?
俺達が何故ここに来たのか。
何故、皇帝に謁見したのか。
俺達の持つ情報は、ギルド間でも限られた人しか知らないと思ってたけど、実際はどうなんだ??
「?、大丈夫ハルト?」
遠くで、ラムアルの声がする。
草の匂いが遠のいて、視界も暗くなった。
もし、もしも。
知られていたら?
皇帝が殺されるより前に、俺達の情報が伝わっているとしたら?
俺だったら、捕まえるための罠を張る。
俺達白薔薇がのこのこやって来るまでに、じっくりと策を練る。
どれ程の強さなのか、わからないからだ。
魔力結晶の実験に、皇帝が取り込めればそれでよし。
すぐに姿を消したのは、そうじゃなくとも帝都は混乱するとわかっていたからか。
馬鹿そうな次男坊をうまーく乗せておくも良し。
ダルアークの下っ端と思しき奴等をゾンビ化させて回っていたのも同じで、ただ混乱を招くのが目的だったとしたら。
……完全にやられていた。
俺達は、帝都民達を人質に取られてしまった。
「ハ、ル、ト!!」
「っ、あ、ごめん……ラムアル」
肩を揺すられて意識が引き戻されて、音と匂い、色が戻る。
炎色の髪をはらって、ラムアルは腕を組んで仁王立ちした。
「……今は聞かない。とりあえず、ディティアと話しておいで?……オドールも呼ぶ?」
「!、ラムアル……ありがとう。必ず話すから待ってて。まずはディティアと話す。あとフェンも連れてくから、何かあったらすぐ呼んで。止まるか、進むかは任せる。でも、どっちにしても安全じゃなさそうだ」
「わかってる、だから進むわ」
彼女は、そう言うと容赦なくナイフを引き抜いた。
酸化して赤黒くなった血のついたそれと手紙をこっちに差し出すと、彼女は真面目な顔で言う。
「これ、何か情報があるかもしれない。持っておいて」
「あ……ありがとう」
ラムアルはふふふっと笑って、パンッ、パンッと手を打った。
「メイジ部隊!この人達を畑に返すわ!手伝って」
******
「これっ…まさか、私達を追ってきたの?」
「ぐるる」
馬車をひとつ借りて、俺達は顔を突き合わせた。
使わせてもらったのは、食糧が積み込まれている馬車。
箱形の荷台には屋根までしっかり付いていて、小声ならそうそう聞こえないはずだ。
けど、念のため五感アップをかけておく。
フェンも一緒に荷台にあげて、あらためて現状を話し、手紙を見せたところで、ディティアが息を呑んだ。
「どこから情報がもれたのかな、ラムアルは知ってたの?」
「それが、知らないみたいだ」
答える。
「ラムアルも知らない…そうすると、皇帝が誰かに話すことは無かったのかな」
「ジャスティは?」
「多分きいてないよね。知ってたら何か言ってきそう」
「確かに。お前達のせいだー、とか言われそうだよな」
茶化してはみたけど、笑えない。
俺達が標的だって可能性は、排除出来なかったんだ。
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