表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/847

走ることに決めたので。④

帝都民達の動きが止まる。

そこにあるのは、緊張と、驚愕と……畏怖。


仁王立ちになって、レイピアを身体の中心で両手で持ち、その切っ先は地面に突き立てて。


ラムアルが、眼を閉じて立っていた。


すう、と息を吸うのが聞こえる。


『我は皇帝ヴァイセンの娘にして、次期皇帝であるッ!従わぬ者は構わん!ここから早々に去れッ!』


す、すご……。


どこからそんな声が出るのかってくらいの肺活量。

空気を震わせたラムアルの声は、千人を超える帝都民達の動きを止めても尚、余りある程。


暗くなった空の下、彼女の炎のようなオレンジ色の髪が映える。


『皇帝ヴァイセンは敵の策略に堕ち、今や魔物と化した!まずは安全のために避難するッ!残りたい者は残れ、これ以上の猶予は与えん!女子供を優先的に馬車へ、歩ける者は歩け!時間毎に休憩を取らせる故、今宵は交代で歩く!』


皇帝は、魔物と化した。


その言葉をいとも簡単に……実際は簡単じゃなかっただろう……言ってのけ、ラムアルは突き立てていたレイピアを抜き、掲げた。


『我はラムアル、皇帝ヴァイセンを継ぐ者!!愚民共!我に従い我に続け!!』


……訪れる、静寂。

ラムアルは凛々しく口を引き結び、堂々と立っていて。


……ぱち、ぱち、ぱち。


そこに手を叩きながら出て来たのは、オドールだった。


「よく言った。ギルド長オドールは、貴殿を認めよう」


ぱちぱちぱち。


ディティアが拍手を乗せる。


ぱちぱちぱち。


俺も、夢中で手を叩いた。


やがて、拍手がゆっくりと伝わり、誰からか歓声が響き出す。


ヴァ、イ、セン!

 ヴァ、イ、セン!!


ふうー……と息を吐き出して、剣を下ろし、ラムアルはぎこちなく笑った。

「やっぱ、皇帝の真似ってむずかしいや」


******


夜通しになったけど、順番に休憩させることで順調な道程となった。

協力してくれる冒険者もかなりの人数になっていて、護衛も問題ない。


俺は五感アップのバフを見張りの冒険者に常にかけながら、長い列を行ったり来たり。


ラムアルは、馬で列を回りながら、歩く帝都民達に声をかけ、疲れていないか気を配っている。


ディティアには、無理を言って休んでもらった。

明るくなれば、畑の真ん中は敵を探すのには苦労しないし、夜が明けたら代わってもらう約束で。



空が白くなり始め、眠っていた作物達が日の光欲しさに葉を広げ出したところで、ディティアがやって来た。


「ハルト君、交代だよ」

「お、丁度いいとこに。流石にちょっと疲れたよ」

笑ってみせると、彼女は両手を肩の辺りで握って、ぐっと眉をひそめる。

「警戒は任せて!だからちゃんと休もう。ラナンクロストはまだまだ先だよ」

「そうだなー。多分国境まで行っても、いきなりこの人数を収容するのは無理だろうし…。王都までかかるかな」

……そうなると、ひと月……いや、ふた月は見ておくべきかもしれない。

例えば馬を先行させて、馬車をたくさん引き連れてくればもう少し早くなるか。


こんな時、グランがいたらどう決断を下すかな……。


「……ハルト君?」

考え込んでいた俺をディティアがもう一度呼ぶ。

「あ、ごめんごめん。それじゃ交代!頼むな、ディティア」

「うん!少ししたら配給始めるから、それまで寝ていて」

それから、と。

彼女は付け足す。

「ハルト君、ひとりじゃないよ。もう少し、私に寄り掛かっていいよ」

「え?」

「私も、白薔薇の一員なんだから!」


……!


にこりとしてから、颯爽と駆けて行く彼女の背を、思わず眼で追い掛ける。


参ったなあ……。

本当なら、俺が励ます立場だよな?これ。


でも、おかげで少し、落ち着いた気持ちになれる。


そうだ、ひとりじゃないんだ。

グラン達だって、3人もいるんだから。


ディティアに感謝して、休憩するための馬車に乗り込んだ。


深呼吸すると、草の匂いが、胸一杯に広がった。


******


移動中、周りの畑から作物達を拝借出来ることに気が付いて。

一気に食糧確保が楽になった。


フェンが狩りをしてきてくれることもあるし、魔物と遭遇して食糧として活躍してもらったりもする。


全てが順調で、帝都民達にも余裕が生まれ始めた。


同時に、身体の弱い御老人や体力の無い子供専用に馬車を配分し直すことも上手くいって、俺達冒険者にも安堵感が広がる。


避難を始めて、1週間。



問題は起きた。



俺達の緩んでいた気持ちに、つけ込まれてしまう、最悪の形。

敵は、そんなに甘くなかった。


「ねえ、あれなーに?」


先頭の馬車で外を見ていた子供が、前方を指す。


その時俺はたまたま傍に居て、指先から前へと視線をすべらせた。


……?


最初、何かわからなかった。

前方で、きらきらと日の光を反射する何か。


「あれ、帝国兵じゃないか?」

「おお、じゃあ味方?」

「そういえば、見かけなかったけど皇子じゃないか?」


帝都民達が期待をはらんだ声で告げる。

けど、その言葉に、俺は一気に血の気が引いた。


帝国兵??

だって、城にはひとりとして残ってなかったじゃないか……!

それに、皇子がいないことは俺には充分すぎる程にわかってる。


じゃあ、剣を構えているあの隊列は、誰が、どうやって、指揮をとってるんだ?


「ディティア!ラムアル!!……五感アップ、五感アップ!」

2人を呼んで、すぐに自分にバフを重ねる。


そう、バフすらも明るい時間だからと怠ってたんだ!


感覚が研ぎ澄まされる。

確かに、兵士達が横参列になってこっちに向かってくる。


けど、あれは、あのゆらゆらとした動きは……。


「ぐるるるる」

畑からフェンが飛び出して、隣に並ぶ。

牙を剥き、毛を逆立てるその姿に、確信した。


「止まれ!!皆馬車に!戦える冒険者は前へ!」

手を上げて馬車を制する。


「ハルト君!」

「ハルト!」


ディティアとラムアルも前へ来てくれた。


「やられた……あいつ等、城の兵士だった人達みたいだ」

「だった……」

ディティアが、目を見開いて呟く。


「……」

ラムアルが、怒りに満ちた眼で前方を見据える。


今や、兵士達はバフが無くてもはっきり見えている。


「ダルアーク、だったっけ」

ぽつんと、彼女がこぼす。


「ああ」

答えると、ラムアルはゆっくりとレイピアを抜いた。


「……潰す、必ず。何年掛かっても」



本日分の投稿です。

ギリギリ間に合った、でしょうか。

遅くなってすみません。


21時から24時を目安に、毎日更新しています!


今日もありがとうございました。

初めましてのかた、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ