走ることに決めたので。③
戻った時、仲良く高栄養バーをかじるふたりを見て、笑ってしまった。
「あっ、ハルト君!」
「ハルトーおかえりー」
手を振るふたりに、荷車を引いていた手を放して振り返してあげる。
あの一画だけ、明るい雰囲気で満たされていた。
仲直り出来たどころか、それ以上の成果があったと見ていいな。
うんうん。
……良かった。
険しい顔してたディティアも、今は柔らかい笑みでラムアルに笑いかけている。
少し安心した。
………ぐう。
「…あー、俺も腹減ったな……」
安心したからかな。
「わ、ごめんハルト君、食べよう!これから忙しいもの!」
慌ててバーを出そうとするディティアに笑って、俺は自分のバックポーチから、同じものを出す。
「あるよ、時間も無いし、急いで食べちゃおう」
「うん!」
……そこで、ディティアがラムアルを助ける決意をしたことを聞く。
バーの少しもさもさした食感を口いっぱいに味わって、俺は考えた。
皇帝を倒すのは必須だ。
間違いなく、大規模討伐になる。
ラムアルは冒険者だし、認証カードもあるだろうから依頼は受けられるはずだ、後はそのための準備がいるな。
それなら、尚のこと早く合流しないと……と、俺は密かに頷く。
さっき戻った時は、まだグラン達は戻ってなかった。
バフも、とっくに切れているはずで、そうするとどっかで動けなくなってるだろう。
見付けられる場所だといいんだけど、案外城の中に潜んでる可能性もある。
それなら、やっぱり今は一般人をラナンクロストに連れて行くしか出来そうにない。
「……ハルト君?」
「んあ、ああ、ごめん。口の中もさもさするよな、水が無くても食べやすいバーへの改良でも求めるか!よし、食べたな?」
俺のひと言に、ディティアは少し微笑んで頷いた。
「うん」
「ええ」
「じゃ、再開!」
******
途中でさらに荷車を見付け、たんまり食事を載せて何回か往復した。
皆で分け合う必要があるから、分担して運ぶことにして、リュック等に詰め替える。
馬と馬車も集まり出して、門とギルドを往復させて移動を開始。
全員を馬車や馬に乗せることは出来ないけど、それでもかなりの人数を乗せることが出来そうだった。
そもそもここは馬が多いし、帝都内も馬車が通っていたから台数が確保出来たのも大きい。
思ったよりは楽に移動出来そうだ。
「フェンリルのおかげですっごい楽だった」
馬を集めてくれたパーティーが笑ってくれる。
一緒にいたフェンが誇らしげに尻尾を振る。
「良くやったフェン!」
もふってやろうとしたら、すっと避けられて、尻尾でひとたたき。
全く、ホントぶれない奴だなあ。
「よし、夕方には全員を移動出来るだろう」
ギルド長オドールは、ギルドを封鎖する手配を始めた。
ここには冒険者の情報や預金がある。
荒らされないよう、厳重に罠を張るらしい…。
「ふおおっ」
「って、うぇえっ、って言うかオドールが罠はるの!?」
気合を入れだしたご老体に思わず突っ込む。
「こう見えてメイジだからな!」
「おおっ、大剣使いとか言われるよりは納得出来る」
「うるさいわ!」
怒られた。
俺は各部屋に誰もいないのをちゃんと確認して、いろんな箇所に鍵を掛けて回った。
******
そして。
「これで最後だな」
最後のひとりが馬車に乗る。
残ったのは、オドールと俺、ディティア。
ラムアルは先に門に行かせて、皆をまとめる役目を任せていた。
フェンも馬を見てもらうために、門に待機。
空は赤らんでいて、心なしか空気が冷えたような気がする。
誰もいなくなった街は、何故か埃っぽいにおいに思う。
…………。
来ないとわかっている人影を、辺りに探す。
聞こえない呼び声に、耳を澄ます。
「……ハルト君」
「うん。……よし」
ぎゅっと、咽がつかえるような苦しさを、何とか飲み下す。
今は、まだやることがたくさんある。
俺は、ギルドの扉の横にでかでかと貼り紙をした。
『ラナンクロストへ帝都民を連れて行く。
合流求む。
最高のバッファーと、最強の双剣使いより』
「……や、やっぱり最強はやめようよハルト君」
「じゃあ何にする?最恐とか?」
「!、ひ、酷い!!」
「ははっ、冗談だよ」
「行くぞ、お前達」
オドールが馬車から呼ぶ。
「わかった!」
1度だけ、街を振り返る。
何処かにいる3人に、早く来いよ、と呟いた。
******
おー……こりゃ、すごい数だなあ……。
恐らく千を超える人数が、門の外で待機していた。
まだ半日、それでも恐ろしい程に疲弊した顔がずらり。
ラムアルを探すと、人集りの中心で演説してる。
聞いてると、帝都が危険なこと、一時的な措置であることを何度も繰り返していた。
けれど、帝都民からすればわからないことだらけで、突然起きた混乱を受け止められない人が多い。
無理も無いけどな……。
何度も詰め寄られ、その度にラムアルは真っ向から向き合った。
それを見ている内に、俺も何かしなくちゃなと思う。
……その時だった。
〈オオオオオオーーーォォーーー〉
空気が震えた。
話し声が、さぁーっと消えていく。
灯りの消えた街は暗く、月明かりで蒼白く浮かび上がっている。
ずっと、遠く。
……城の方から。
聞こえる。
身が竦むような、咆吼。
〈オオォォォーーーーー!!〉
皇帝ヴァイセンの叫びだって。
俺にもわかった。
そして、タイミング悪く、地面が唸る。
ごごご……
「じ、地震だ!」
誰かが叫んだ。
ぐらあっ!
「きゃあーーー!」
「うわああぁーーーっ」
そんなに大きな揺れではなかった。
それでも、咆吼と相まって、民衆のパニックは伝染する。
「落ち着いて!大丈夫、敵は遠い!」
必死に声を上げるけど、皆が帝都から離れようと走り出してしまう。
これじゃあ護衛なんて……!
先頭に出て止める?
俺で止まってくれるか?
……くそっ!
その時だった。
『愚民共!!我を誰と心得る――ッ』
鼓膜を突き破るかのような音で、その声は、轟いた。
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