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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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112/847

走ることに決めたので。②

「ハルト君は、荷車を運びに行ったよ」

「えっ、ひとりで?」

「えーと、うん…」

「そ、そうなんだ」


起き上がって、ラムアルは保存食を集め始めた。


よし。

深呼吸ひとつ。


「……ねえラムアル」


私は、一緒に集めながら話し掛けた。


干し肉のにおいがして、そういえばお昼まだだったなーと、ぼんやり思う。 

戻ったら帝国民の人達にも食事を出してあげないとなーなんて、すごく落ち着いて考える事が出来た。


「な、な、何かなっ、疾風」


ラムアルは怯えてるみたい。

何となく小動物を想像して、苦笑。


ハルト君から見たら、私もこんななのかな?


私よりも背の高いラムアルは、視線をいろんな方向に向けている。


私は自分のポーチから、ナンデスカットの高栄養バーを取り出した。


「これ、食べよう」

「え?」


手渡すと、ラムアルは更に狼狽えた。

とりあえず引っ張って外に連れ出して、商店の軒先にあったベンチに座る。


「……これね、ノクティア王都御用達の、有名なお菓子屋さんが作ってくれた高栄養バーなんだ」

「うん……」

「食べられるような気持ちじゃ、ないと思う。でも、今は無理にでも食べてね。これからしばらくは、私達、走らなきゃいけないから」

「……そう、だね。おなかは全然空いてないけど……」

「あのね、私、大規模討伐依頼で、他のパーティーメンバーを全員失ったの」

「………」


ラムアルは、高栄養バーを色々な角度から見詰めていた視線を上げた。

ルビー色の眼が、私を映す。

その美しい宝石みたいな瞳は、ひどく困惑した色をしていた。


「だから、わかる。私にとって、家族だった仲間が……皆、亡くなったから」


ラムアルは、口をもごもごと動かしていた。

何か言い掛けて、言葉にならなかったのかもしれない。


一瞬だけ眼を伏せた後、彼女は決意を秘めた顔を上げる。


「疾風……あ、あたし……!」


「ラムアル。もういいよ、貴女は知ってたんだよね、大規模討伐依頼で私に起こったこと。……それでも、本当に謝らなきゃいけないのは私だから」

「え……」

「ごめんね……酷いこと言って。……こんなことになるなんて、思わなかった。ごめんねラムアル……私は、その辛さを共有出来るのに」

「疾風…」

「私はね、ハルト君に会って、白薔薇の皆に救ってもらったの。まだ、心はずーっと痛いけど」

「………あのさ」

「うん?」

「あのさ、疾風…!あたしさ!……ハルトにも、言ったんだ。……心の痛みは、ちゃんと治るって!」


びっくりした。

言い切られてしまった、治るって。

それが、すごく衝撃的だった。


「時間はかかると思うし、ずーっと気持ちは残るよ?でもさ!治るよ!……じゃないと、帝国はもう立ち直れないしさ。あたしね、嫌いって言われて……初めて動揺したんだよ。誰もあたしに嫌いって言う人、いなかったもん」

「えっ、そ、それは」

「今ならわかる、どれだけ酷いこと言ったか。こんな気持ち、知らなかったから。……でもさ、もうそうなっちゃったから。……あたし、帝国のために、皇帝と戦うって決めたの」


真っ直ぐな眼に、私は、きっと驚いた顔をした。


誰の助けも無いのに、こんな風に言えるなんて…想像出来なかったんだ。


「あたしを助けてくれる?……ディティア。あたしが、皇帝になって帝国を救う。それを……こんな気持ちを教えてくれた貴女に頼みたいんだ」


胸が熱くなって。

鼻がつーんってなって。


溢れてくるものを、堪えられなかった。


「ラムアル……」


これが、皇族なのかな。

前を向いて常に走って、民衆を導く存在。


頼られたことはたくさんあった。


でも、国民全員を背負うような責任は無かった。


「え、あの、ディティア…?」

「ごめんねラムアル…何だかね、私…貴女の強さを初めてちゃんと見たから…最初も否定しちゃったけど…」

「えええ?いいよいいよ、今更だよ!だって、あたしは皇族でディティアは一般人で…あれ?そうするとディティアに助けてって頼むのは違うような?」

「…ふ、ラムアルって本当に変だね。…大丈夫、私がちゃんと助けるから。…走りきるよ、私も」


…私は、走ることに決めた。

溢れてくる雫を拭って、しっかり頷いてみせる。


「ディティア…うん、ありがとう!」


ちゃんと、ラムアルと心が通じ合った気がした。


******


本日分の投稿です。

毎日更新してます。


21時から24時を目安に、更新中!


どうぞよろしくお願いします!

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