走ることに決めたので。①
そうと決まれば、すぐに動くことにした。
まずディティアとフェンを呼び、分担について伝える。
……引き合わせた時、ディティアとラムアルのぎこちなさは凄まじかった。
「あっ、し、疾風!……あの」
「えっ?………あ、ええと」
「あ、あたし、ちゃんと責任を…」
「うん、そう…なんだ」
「……」
「………」
見てられなかったのか、その間にフェンがするりと入り込んで、わふ、と鳴く。
「…フェンリル…」
それを見たラムアルが、眉をハの字にした。
「……こんなに、綺麗なんだ……本当のフェンリルって」
きっと闘技場のフェンリルのことを言ってるんだよな。
俺は、聞こえなかったふりをした。
「さあ!行くぞ、食糧集めだ!……フェン、悪いんだけど、あっちの人を手伝ってくれるか?馬と馬車を集めるんだ」
「がう」
フェンは大人しく従ってくれた。
けど、俺が手をのばすと、いつものようにパシリと尾で叩かれる。
……ホント、可愛くないな-。
思いながら、少し緊張がほぐれたような気がして。
ありがとな、と。心の中で呟いた。
******
「あの、疾風」
「何?」
「……こ、こっちに商店があって!」
「あ、うん」
ぎこちなさすぎる。
うち捨てられた荷車を見付けてそこに日持ちのする食糧と水を載せて、商店を回る。
念のため声掛けもしてるし、レジにラムアルのサイン付きで、日付と商品を使うことを書いた紙を置いていった。
街はひっそりと息を潜めている。
あれだけいた人は何処に行ったんだろう。
五感アップをかけ、耳を澄ましても、誰の気配も、息遣いも、捉えることが出来ない。
……廃墟のような空虚さだけが漂っている。
「皆、逃げたのかな」
思わずこぼすと、ラムアルが頷いた。
「たぶんね。馬も見かけないし、農家の働き手は自分の畑とかに避難したかも」
「そっか。途中で合流出来るといいけど」
「そうだね。魔物もいるし」
危険を避けるために、街の中心にある城には近付かないでおく。
ぐるりと一周する形で、食糧を回収して歩いた。
その間、ラムアルはどうしてもディティアに何か言いたいらしく、話しかけては言い出せずに撃沈することを繰り返してる。
そろそろ見飽きて……もとい、大変そうだから、手伝うべきかな。
「なあ、ディティア」
ラムアルが店に駆け込んでいったから、ちょうどいいやと思って話し掛けた。
「うん?何、ハルト君?」
「えっと、そろそろ荷車がいっぱいだから一旦戻ろうと思うんだけど」
「あ、そっか。じゃあ一緒に…」
「ここでラムアルと、食糧を集めておいてくれるか?」
「……え?」
驚いた顔。
俺は捲し立てた。
「バフ使ってさっと運んでくるから。一緒に押したり引いたりするよりは早いと思うし。一人分のバフならまだ余裕が…」
「そ、それは…でも危険じゃないかな!?」
「無理はしないから!それじゃ、後頼むな」
俺は肉体強化に速度アップを重ね、荷車を引く。
ぽかんとしているディティアには申し訳ないけど、ここから先はラムアルの手助けが必要だろうし。
早く仲直りしてもらわないとな。
俺が見た感じでは、ディティアはたぶん、もう大丈夫だ。
ちらちらとラムアルを窺ってるし、それに、優しいから。
目の前であんな酷いことが起こったラムアルに、ディティアが酷いこと言うとは思わない。
頑張れよ、ディティア。
******
ハルト君ってば。
ハルト君ってば……!!
何て言うか、見透かされてる。
ラムアルに、もう苛立ったりはしていなかった。
むしろ、あんなことになって……。
『私は、貴女が嫌い。人の命は、簡単に取り戻せるものじゃない。楽しそうに殺した数を競うとか、頭おかしいんじゃないかな?…誰かを失ってみればいい!!』
自分の言い放った言葉は、ちゃんと覚えてる。
なんてことを言ってしまったんだろう。
誰かを失ってみればいいなんて、私が言ったから…。
そんな風に思ってしまうくらいに、罪悪感でいっぱいだった。
うう、どうしようかなあ。
おろおろしていると、店の中に入っていたラムアルが声を上げた。
「保存食があった!運んじゃおうー」
さっきまではハルト君が受け答えしてくれてたけど、彼は風みたいにいなくなったし。
いつも助けてくれるファルーアも、ボーザックも、グランさんもいない。
……大切な人達がいなくなるのはもう嫌だ。
でも、今出来ることをしなかったら、きっと皆に呆れられちゃう。
「ねぇ、ハルトー?」
「……」
よ、よし。
私は、店に踏み入った。
「ら、ラムアル……」
「うえっ!?疾風??わっ、わあーー!?」
「ちょっ、うわわ!!」
がしゃーーん!!
ラムアルが抱えていたたくさんの保存食達が、派手な音を立てて崩れた。
持てるだけ持とうとしていたみたい。
彼女のオレンジの髪まで、すっかり食糧で埋まってしまったから、私は慌てて駆け寄った。
「ラムアル…!?大丈夫!?」
品物を必死で退かすと、保存が効くように干された野菜やお肉が入った袋の下、ラムアルが目をパチパチしている。
「えっ?え??ど、どういうこと?」
「とりあえず、ほら、起きれる?」
手を伸ばすと、恐る恐るって感じで、ラムアルの手が伸びてきた。
……剣をどれだけ振ってきたのかわからない大きな手に、たこが出来てるのを、握ったときに知って。
強く在ろうとしてたんだなって思う。
……私も、ちゃんと伝えないと。
私は、握る手に、力を込めた。
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