表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/847

心の痛みは治りますか。⑦

勢いのまま部屋を出ようとした、まさにその時。


「待て」


前に立ったのは、オドールだった。

腕組みをする小さな老人は、眼をぎらぎらさせてこっちを見ている。


「ギルド長、通してくれ。ちゃんと2人は連れて来たからもういいだろ?」


言い放つと、思いの外苛立ちが声に出た。

オドールは、ふんと鼻を鳴らす。

「お前は馬鹿か。逆鱗のハルト。冷静になれ」

「ば、馬鹿って……」

思わず、口篭もる。

どうしてかはわかんないけどさ、一気に、頭が冷えてさ。

俺は、ふうーっと息を吐いた。


グラン達を助けるのに、感情だけで動くのは得策じゃ無いって事くらいわかってるしな。


「……馬鹿って、何で?」

聞き返すと、オドールは頷いた。


「……話が本当なら、冒険者は何をするべきだと思う」

「何をって…」


皇帝がゾンビ化して、城にいて。


……そういえば兵士達はどこに行ったんだろう?

ジャスティに指示を出していたダルアークの行方もわからない。

まだ、ゾンビ化した奴等もいるかもしれない。


それなのに、街には多くの帝都民達が残ってる……。


「お前にラムアルとジャスティを託した仲間は、何を思う」

「…………」

唇を噛み締めた。

グランならどうするかくらい、すぐに想像出来たからさ。


「一般人を逃がす……帝都はもう、かなり危険だ」

「そうだ」

「……ハルト君」

ディティアが俺の名を呼んで、俺の腕を掴んだ。

眼を合わせると、彼女は真っ直ぐに見返してくる。


「……最善を尽くそう。私も、一緒にいるよ」


ゆっくりと、頷く。


「グラン達にはバフもかけた。もしかしたら、もう何処かに逃げたかも。五重にしたから、バフが切れたらしばらくは動けないから…まだここに来られないだけだ。だから、俺達がやらないと」


俺が言うと、ディティアも頷く。


敢えて、心配だとか、そういう不安は口にしないでおいた。

グラン、ボーザック、ファルーア。

お前達が無事だって、信じるからな…!


ラムアルとジャスティをオドールに任せ、俺は逃げるための準備を進めることにした。


オドールは、細くて今にも折れそうな程なのに、重たく響く声で、俺に言う。


「仲間の思いに応えるのも、良いパーティーの鉄則だ。合流したら、自慢するんだな」

「……うん。……すみませんでした」

オドールは俺の言葉に驚いた顔をして、微笑む。

「急にしおらしくしおって。……嫌な決断をさせて悪かったな。こっちは任せろ」

嫌な決断って聞いて、ぎゅっと、肺が縮むような、心臓が掴まれたような、苦しい気持ちになったけど…俺、グランに怒られたくないし。


会ったとき、心から自慢してやろうって、そう思う。


俺達は、部屋を出た。


「ここからなら、ラナンクロストとの国境までは街も無いみたいだし。一般人を連れて移動する手段と食料を確保しよう。馬車と馬を集めたらいいか」

地図を広げ、さっと確認する。

「ギルドにいない人達も集めて、人数も確認がいるね」

「そしたら、残ってくれた冒険者にも協力してもらおう」

俺達は広間へと急いだ。


******


「……皇帝が?」

ディティアに五感アップをかけてフェンと警戒にあたらせ、集めた冒険者に現状を伝える。

内容が内容なだけに、一般人には聞こえないように配慮した。


驚愕にまみれた表情で、帝都出身の男が呟く。

「ま、まだ城にいるのか?」

「わからない。俺の仲間も……まだ戻ってないから。それでも、一刻も早く、帝都を出るべきだと思う」

「そんなにか?」

ベテラン冒険者は眉間にしわを寄せる。

「うん、相当やばい。ダルアークとかいう集団がどうしてるかもわからない。少なくとも、ここは安全じゃないよ」

「まあ、ラナンクロストならマシだろうな。あれだろ?王国騎士団とかってのもいるだろ?」

別のベテラン冒険者のひとりの言葉に、苦笑する。


こんな時なのに、あの爽やかな空気を感じた気がしたんだ。


「王都まではかなりの日数あるから、あんまり期待は出来ないんじゃないかな。それでも、ここから離れた方がいいのは絶対だ。それに、逃げっぱなしにはならないよ。きっと、大規模討伐依頼が出る」

俺は思ったままを告げた。


……大規模討伐依頼。

あの武勲皇帝を倒すための、大きな依頼になるはずだ。


ひやりとした感覚に、手を握ったり開いたりしてみる。


大丈夫。


俺は前を向いた。


「集めるのは、食糧と水、馬、馬車だ。長旅になるけど、荷物を取りに戻す時間は無し。あとは王都に散らばった人を出来るだけ集めるべきだ」

「そしたら、主要の避難場所は俺達が回るよ。道端でも声かけて行く。俺達帝都民だし!」

ありがたい申し出をしてくれた帝都民パーティーに、俺は頷いた。

「どれくらいかかると思う?」

「半日はほしい。徒歩移動だともう少し……たぶん全員が門に行くまでに夜になる」

「わかった。……夜中はゾンビやレイスが活発になるから、冒険者掻き集めて護衛しよう。今日の依頼に関わった俺達以外にもいるだろ?」

俺が言うと、ベテラン冒険者達が頷いてくれる。

「そうだな。広間にもいたはずだ」


「馬車と馬は馬小屋と馬車屋をあたるか。俺達でやるよ」

断ったら後味が悪いって言っていたパーティーもそう言ってくれた。

俺はそっちにも頷いて、付け足す。

「俺達のフェンリルを同行させるよ。馬は彼女に任せれば絶対着いてきてくれる」

「フェンリル!さっきの、やっぱりそうなの?うわー、俺初めて見た」

驚いた男に、他の冒険者が少し笑う。


「あとは食糧か……泥棒みたいになるけど、店のを集めるしかないかな」

俺が言うと、後ろから声がかかった。

「それは平気。あたしが一緒に行くから」

驚いて、振り返る。


オレンジ色の髪。

腰に下げたレイピア。


「ラムアル!?」


彼女は、真っ赤に腫れた目元を何度もこすりながら、少し居心地悪そうにしていた。

他の冒険者達も、ラムアルのことは知っているみたいで、重い空気が流れる。


それを断ち切ったのは、他でもない、彼女だった。


「……ごめん、ハルト…。あたし、混乱してた。……考えた、ディティアやグランに言われたこと」

「……うん」

「犠牲は厭わないって、すごく軽く発言してた。ううん、本当にそう思ってた。でも初めて…こんな形で家族が死んで…とにかくごめん。だから、あたしが前に立たないと。そうでしょ?」

その言葉は、誰が聞いても胸が抉られるような悲痛なものだったけど。

俺は、彼女に手を伸ばした。

「ありがとう、ラムアル」


彼女はおずおずと、最後にはしっかりと、俺の手を握った。


「あのね、ハルト。あたし、ディティアに証明しようと思う」

「ん?」

「心の痛みは、いつか治るって。……嫌いって言われたの、ちょっと堪えたからさー」

ぎこちなく笑う彼女に、俺は苦笑してみせた。


「そうだな。いつか、きっと」


そして、願わくば。

双剣使いが痛みを感じなくなるために、手助けがしたい。


そう思った。



本日分の投稿です。

毎日更新しています。


21時から24時を目安にしてます!


いつもいらっしゃってくださる方&初めましてさんも、本当に感謝です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ