大きな依頼、受けませんか。①
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作業は夜通し行われた。
鍛冶士は皆、疲弊しながらも、己の集大成とも言うべき逸品を打ち上げた。
「白薔薇の大盾じゃ」
「断絶の大剣、だ」
「…轟の龍眼杖」
出された武器達。
それは、どれも白く、つるりと磨かれていた。
龍眼の結晶は金色で、神々しい。
鍛冶士達がそれぞれ名前を付けているのが、特別感を増してる。
その名前をグラン以外が気に入ったかはわからないけどな。
そして装備には工夫が凝らされていた。
大盾は薔薇の花びらの形に。
大剣は柄の付け根に薔薇の細工。
杖は龍眼の結晶の土台に蔓と薔薇が象られている。
「うわ…すごい、綺麗だ」
思わず、言葉がこぼれた。
グラン達はそれぞれが自身の片割れになるその武器達を手に取った。
「…軽いのに、なんだろう…何でも切れそう」
ボーザックが大剣をひと薙ぎ。
「すごいわ、魔力の流れがある」
ファルーアもくるりと杖を回す。
「……ああ、これが、新しい白薔薇の大盾」
グランは美しい曲線を描く盾の表面を撫でた。
「それだけでもお前さん達の強さはかなり底上げされたじゃろ。あとは使い込んでさらに馴染ませ、育てるのじゃ」
バル爺さんは疲れ果てた顔をしながらも、凜と告げる。
その日、ニブルカルブは歓声に包まれた。
******
俺とディティアの革鎧もすぐに出来上がった。
ついでに、海都オルドーアのギルド長マローネの提案通り、端切れをブレスレットにしてもらってある。
鎧はオフホワイトに染色し、皆の装備と揃えることにして、ディティアは胸元、俺は肩当てに、それぞれ薔薇の細工を入れてもらった。
「軽いな」
「うん、すごく動きやすいかも……けど、なんか強そう」
「強度ありそうだ」
俺達は身体を捻ったりして、具合を確認する。
「なんかお揃いっぽいな!」
ふと思い立って動作を確認している彼女に言うと、驚いたように飛び上がる。
「お揃い……っ、も、もー!ハルト君!ボーザックがいたら無神経だよって言うんだからねー!」
「ええ、俺、何か変なこと言った?」
「わからないなんてもっとびっくりだよ…」
ぷーっと頬を膨らませているディティア。
俺はずいぶん和んだ気持ちになって、ふふっと笑うのだった。
******
「おかえり2人とも。素敵な鎧に仕上がってるじゃない!早速依頼を受けたいって、グランがはしゃいでいるわ」
宿に戻ると、ファルーアがカウンターでお茶していた。
「ああ、じゃあ俺、ギルド行ってくるよ」
「あ、今日はグランとボーザックも一緒に行きたいみたい。ティア、私達はお茶してましょう?革鎧も見せて」
「わあ!うん、じゃあケーキとかも食べようよファルーア」
2人が嬉しそうにメニューを見始めて、俺は完全に忘れ去られたようだ。
仕方ないのでグランとボーザックを呼んでギルドへ向かった。
ギルドは冒険者が数人だけ。
規模もだいぶ小さかった。
「認証持ちの依頼は……あんまり多くないね」
「鍛冶士の街だしなあ、冒険に来るより武器や防具の新調が目的なんだろうよ」
「だなー。認証持ちの依頼も鉱石の採取が多いし…俺、もう鉱山は嫌だ」
「ぶふっ、ふふ、ハルト大変だったしねぇ、くく…っいて!」
無言でボーザックの後ろ頭を叩いてやった。
「どうせなら討伐がいい…試し斬りしてぇし」
「えー、グランの盾は斬らないじゃん。試し斬りなら俺の……あいたっ、いった!ぐ、グラン!加減してよー!」
グランもボーザックの肩に一撃。
「にしても、討伐だと……この3つみたいだ」
俺は討伐依頼を並べて見せた。
グランとボーザックが頭を突き合わせて覗き込む。
食糧の確保
討伐対象、ビッグホーン
依頼数、1~
鉱山の安全確保
討伐対象、ブラックドーマ
依頼数、10~
鉱山の安全確保
討伐対象、偽龍ヒュディーラ
依頼数、1~
「……偽龍ヒュディーラって何?」
「龍ってことはドラゴン?」
ボーザックと俺で首を傾げる。
グランが首を振った。
「偽物の龍って書いてあるだろ。そいつらは首が2本ある蛇だ。大きさも1メートルくらいだな」
「なるほど。……このブラックドーマってのは、間違いなく奴な気がするんだけど…」
俺がぶるりと身を震わせると、グランが嫌な顔をした。
「そいつはパスだ。この中だったらビッグホーンがそこそこか」
俺だってパスだよ。
俺達はとりあえず、ビッグホーンの依頼を持ってカウンターへ向かった。
「はい、ビッグホーンの討伐依頼ですね!では、認証カードのご提示をお願いします」
あ、そういえば認証カードがいる依頼は、名誉勲章を貰ってから初めてだ。
俺達は目配せして、首に提げていた銀色のカードを取り出した。
「こっ、これは!!」
ギルド員の素っ頓狂な声に、依頼を見ていた冒険者がちらりとこっちを見てくる。
「ご、ごほん。失礼しました、まさか名誉勲章をお持ちだとは。…うう、しかも貴方達、白薔薇の皆様ですね?」
「ああ。……もうそんな情報まで入ってるのか?」
「はい。各ギルドには一斉に通達がありました。そりゃ飛龍タイラントですからね、こんな小さなギルドですら相当な話題になったんですよ?」
「そりゃ……すげぇな俺達」
「有名ですよもちろん。ああ、そうすると龍の角と革の持ち込みって話は貴方達でしたか…」
ギルド員はそわそわし始めると、少しお待ちくださいと席を立ってしまう。
ちなみに、ちゃんと男だとわかる普通の人だった。
「わあ、予想以上の反応だったよ。俺、ちょっとびびった」
ボーザックが背もたれに寄り掛かる。
俺もカウンターに肘をついて同意した。
「ところで、どこ行ったんだ?」
グランがギルド員の消えた先を見ていると、彼はすぐに戻ってきた。
「お待たせしました。……実は王都から依頼が入ってまして。…良かったら大きな依頼を受けませんか?」
「大きな依頼?」
カウンターに広げられた紙に目を通す。
「…遺跡調査…古代都市?」
「ええ。この紙以上の詳細は、すみません、僕では分かりかねるのですが。王都の近くに遺跡があるんです。最近その地下に大規模な古代都市跡が広がっているのが見付かって、その調査依頼が出ました」
「へえ…難しい依頼なのか?」
グランが髭をさする。
「聞いた話では、どうもレイスやらがたくさん出るそうで、認証カード持ちの皆さんへの依頼に分類されています。地震も多いみたいなので、身の安全を考えて行動するよう注意書きがありますよ。今回も地表の1部が崩れて発見に至ったそうです」
地震かあ。
飛龍タイラント発見の時も、地表が崩れたのが原因だった。
そう思うと、俺達には運があるかもしれない。
「どうでしょうか?ここで受けていただくと、街から支度金や食糧が用意されますよ」
俺達は顔を見合わせて、ディティアとファルーアの意見を聞きに、1度宿に戻った。
ビッグホーンの依頼は、とりあえずキャンセルして。
******
「王都ね……あの貴族の塊みたいな街、苦手なのよね」
ファルーアがため息をつく。
ディティアもあははと乾いた笑いをこぼす。
それでも、受けないと言わないあたり、依頼には興味があるのかも。
「俺達、王都に行ったのいつだったっけ?久しぶりだからまたあの偉そうな感じもいいかもよー。それに、俺達今、有名じゃん?」
ボーザックが笑う。
「んー、確か結構最初の頃に行ったからな、4年前とか?」
俺が答えると、ディティアは首を傾げた。
「私達は1年前くらいだったな」
「どっちにしても久しぶりか。…俺は受けてみてもいいかと思ってるが、どうだ?」
「まあ、名誉勲章もあるし貴族の対応も違うかもしれないわね」
ファルーアが金の髪を優雅にはらって言った。
…ファルーアも充分貴族の容姿だよなあ。
「ディティアはどうだ?」
「私も構わないです。けど、遺跡調査はあんまり経験が無くて」
どんなものなんだろう?と続ける彼女に、俺達全員が黙る。
……俺達は遺跡調査依頼を受けたことが無い。
「ちなみにティア、前はどんなのやったの?」
一瞬の沈黙の後、ボーザックが聞いてくれた。
「えっと、樹海で見付かった遺跡調査だったよ。魔物の巣になってて、そこで地図を作るの。……詳しいことは遺跡調査に詳しい専門家がするんだけど、その護衛依頼には手を出さなかった」
「ああ、確か2~3年前に見付かったやつよね?噂では古代の魔法都市だったとか」
「そう。あちこちに魔法の罠があって……あそこで護衛するのはかなり難しいと思ってる」
なるほど。
「今回も魔法都市だったら罠もあるかもな。依頼書には調査としか書いてなかったから、詳細は王都に行かないと聞けない…か」
グランは息をついて、俺達を見回した。
「とりあえず受けるぞ。支度金も出るって話だし、野宿用品と薬関係をチェックして王都に向かおう」
俺達は大きく頷いて、早速備品のチェックを始めたのだった。
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