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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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108/847

心の痛みは治りますか。⑤

俺の呼び掛けに、ラムアルが、右向きに振り返りかけた。


その瞬間。


ぱしっ……


「うあ!?」


彼女は変な声を上げ、反対のディティアに向き直る。

ディティアの手が、ラムアルの左手首をしっかり掴んでいた。


その、必死な表情に。

たぶん、皆、言葉を失ったと思う。


「私は、貴女が嫌い。人の命は、簡単に取り戻せるものじゃない。楽しそうに殺した数を競うとか、頭おかしいんじゃないかな?…誰かを失ってみればいい!!」

その言葉は、彼女にしては酷いものだった。

誰かを失ってみればいい、なんて、普段の彼女は絶対に言わない。


胸の辺りが、ズキッと痛む。

ディティアの心の痛みを、垣間見た気がした。


「………」


ラムアルは、無言で、ただ眼を見開いていて。

心の底から、驚いてるように見えた。


そこに。


「ラム姉さん、こいつ何?」

「何でそんなに怒ってるの~?」


後方に控えていたルルとリリが飛び出してきた。

明らかな殺気というか…射るような空気を発している。


けれど、今のディティアには、それが邪魔だったんだと思う。


「あ」

「……う、あ」


ルルとリリの。

その表情が、一気に凍りついた。


ディティアが、飛び出してきたふたりの空気に充てられて、すっと眼を細めたのだ。


動いたら、やられる。

そんな気持ちになった。


俺ですら、背中が冷たくなる。



「おい、そこまでだぞーディティアー」



その厳ついのに妙に優しく放たれた言葉に、空気が緩んだのはその時。


ディティアの表情が、自分で作った気まずい雰囲気に、みるみる困惑に変わった。

「……あ、グランさん…うひゃあ」


グランの大きな手が、ディティアの頭をわしわしする。


「敵を見誤るな。それに、さっきの台詞は戴けないぞ」

「………!は、はい…ごめんなさい」


…グラン…。


ディティアはしゅんと、肩を落とす。

グランは彼女の頭をもう一度わしわししてから、突っ立っているラムアルを見た。

「皇族だろうが、人の命を弄ぶ発言はどうなんだ。そんな常識も教えてもらえなかったのか?」

「……人のって、でも、あたしが言ったのはゾンビの…」

「ついさっきまで生きていた、人間だ。自業自得だとしても、殺されるまでじゃねぇと俺は思う。俺達は、楽しく倒すなんてことはしてねぇぞ」

「……」

「……はいはい、そこまでよ。さ、とりあえず行きましょう?ティアも、いいわね」

「あ、うん…」

ファルーアが手を叩いてまとめてくれて、俺達は再度歩き出す。


ルルとリリはすっかり怯えて、尻尾を巻いた犬みたいになった。


ラムアルは、口をへの字にして、何か考えている。


ボーザックと眼が合うと、肩を竦められた。


静かな街を、俺達は歩いた。



******



「ぐ、おおおオオ」



……吼える、武勲皇帝。


謁見の間に入った時には、既にそれは始まっていた。



何で。

何でだ、これは何だ?



目の前の光景が信じられない。


白い部屋には紅に金糸の絨毯。


そして、おびただしい血が撒き散らされ、目の前で吼える巨躯への恐怖を煽る。


転がっているのは2人の男、そして、離れた場所で剣を構え、真っ青な顔で傍観している男。


それが、皇帝の息子達であることはすぐにわかった。


転がる2人は真っ赤に染まり、あちこちがあらぬ方向を向いていて……最早、動かない。




「ぐう……ぐああぁアア」




皇帝ヴァイセンは、今、眼を血走らせ、荒く息をしながらも、剣を支えにして立っている。



「皇帝……?皇帝!!」

「どうしたの~!?」


「!、待って、ルル、リリ!!」

ラムアルの制止を待たずして、飛び出す双子。


「う、おおおおおおおオオオオ」


「っ!!」

ラムアルが、声にならない声を上げる。


……本当に、一瞬。


ヴァイセンを支えていた大剣が、振り抜かれた。


「―――ッ」


息を呑んだのは、誰だったか。


2人が、床に打ち付けられて弾む。

鮮血が飛び散った。


「オオオオオオオオ」


「ルルっ、リリーーー!!」

駆け寄ろうとするラムアルを、ファルーアが制する。


皇帝は振り抜いた剣をゆるりと掲げた。


「ハルト!バフだ!」

「っ、肉体強化!肉体強化!肉体硬化!!」

グランの声に弾かれるように、バフを広げる。

グランとボーザックが大盾と大剣を構え、腰を落とした。


皇帝が、突っ込んでくる。


「うおおお!」

「はあーーーっ!」


ガコォッ


気合と共に、皇帝の一撃を2人が受け止めた。

バフをあれだけ重ねたのに、力が拮抗して見える。


「……ッ、ぐ、おお」

「くうう」

ギシギシと重たい音を立て、皇帝と対峙するグランとボーザック。

「ファルーア!!」

「ええ、燃えなさい!!」

俺が呼ぶと、既に準備していたファルーアの杖から炎の球が弾き出された。


ゴオオッ


グランとボーザックの上を飛び、球が皇帝へ炸裂。

そこで2人が飛び離れた。


ルルとリリは、もはや少しも動かない。


そして、燃える皇帝が蹌踉めいた一瞬に、俺は見た。


背中に脈打つ、巨大な血結晶。


「ハルト!ディティア!!そいつとラムアルを連れて逃げろ!」

それを見たグランが怒鳴る。

「な、グラン!?」

「黙って聞け!俺達に速度アップを五重にしろ!!振り返るな!」

「そんな、グランさん!?」

「行ってハルト!俺達も隙を見て逃げるから!」

ボーザックも叫んだ。

その後ろで、ファルーアが火の玉を幾つも作り上げる。

「皇子と皇女を逃がしてからじゃないと逃げられないわ!急いで!!」

「駄目ファルーア!そんなの!」

「ディティア!誰も死なない最善はそれだ!行け!!」

「………!」

俺は、グランの言葉に、一瞬だけぎゅっと目を閉じた。


……確かに、皇帝を止めるのにグランとボーザックの力がいる。

ファルーアなら、目眩ましも出来るだろう。


皇帝は、強すぎた。

勝てないのは、わかりきっている程に。


「ギルドで合流だ、いいなグラン!」

「おお!」


「待ってハルト君!駄目、そんなの…」

俺は、ディティアを無視。

呆然と立っている皇子を無理矢理引っ張って、やはり呆然としているラムアルの頬を叩く。

「っ、は、ハルト…」

「行くぞ、ぐずぐずすんなよ!…ディティア!!」

「や、駄目、だって……」

ディティアの声を掻き消すように、皇帝が吼える。


「速度アップ!速度アップ、速度アップっ」

俺は全員にかかるよう、バフを広げる。


「速度アップっ、速度アップ!!」

最後の2回は、グラン、ボーザック、ファルーアに。


「ハルト君……」

「ディティア!俺だってさあ……!!けど!!」

「っ、う、うう」


俺は皇子を引っ張り走り出した。

ラムアルも、何とか付いてくる。


そして、しんがりをディティアが。


悔しかった。

勝てないとわかっているのが、この上なく。


31日分です。

毎日更新してますが、遅くなってしまいました……


今日中にもう1話更新します!

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