心の痛みは治りますか。②
残ったパーティーは俺達の他に3組。
ひとつは、最初に半信半疑で声をあげた3人。
ひとつは、帝国民の4人パーティー。
ひとつは、たまたま通り掛かったベテランパーティー。
それぞれ、確固たる意志を持っていた。
「起きるかもってわかってて自分達だけ逃げるのは…後味悪い」
「帝都が危険なのに、ここで立ち上がらないとさー」
「ちょうど暴れたかったところだ。大規模討伐依頼も最近受けてなかったしな」
それに、それぞれが自分達はやられないと自信を持っていた。
「最後の条件は、死なないこと。死ぬ気で生き抜け、いいな」
オドールに言われて、全員が頷く。
パレード開幕まで、あと1時間。
出発前に、俺達はフェンに会っていく。
「行ってくるな」
手を出したら、尻尾でぱしりとひと叩き。
俺は笑って、言ってやった。
「戻ってきたらもっふもふの刑だからな?」
******
俺達はパレード会場の広場へ向かった。
けど、人混みには加わらずに、まずは辺りをぐるりと回る。
広場は催し物がある時のために、すり鉢状になった珍しい造りだった。
中央には円になった白くてつるりとした石の舞台があって、たぶんそこで踊りとかをするんだろう。
今日はそこに5人の演奏家がいて、明るい曲を演奏している。
斜面に沿って中央を向いて備え付けられた椅子には所狭しと人が座り、8本ある通路にも人がごった返している状態だ。
何だかんだ不安を吐露しつつも、帝都民達は期待に満ちた眼をして集まってきていた。
だから、五感アップは使えない。
こんなに人がいたら、いざって時の音に反応出来ないと思う。
人の声が多すぎてさ。
だから反応速度アップと速度アップを重ねておく。
周りにはちらほらと、眼の落ち窪んだ奴等が見える。
帯剣はしてないように見えるけど…着ている服の下に隠してる可能性もあった。
「いるね」
ディティアは、今日は何だか緊張した雰囲気。
俺は、まだ言うほどの緊張は感じていなかった。
もしかしたら、平和に終わるかもしれない。
まだそんな期待があるのかもな。
「ティア、貴女大丈夫?」
ファルーアがそっと肩を叩くと、ディティアは驚いた顔をした。
「え?何か変かな、私?」
「そうねぇ、触ったら切れそうよ?」
「ええ、そんなに?」
ふふっと妖艶な笑みをこぼして、ファルーアはディティアの髪を撫でた。
「何があっても、やれることをやりましょう?いいわね。私達はパーティーよ」
「ファルーア…。うん、ありがとう」
グラン、ボーザックとも目配せして、俺は頷く。
彼女のためにも、俺達のためにも、今日は踏ん張りどころな気がする。
そして。
「待たせたな」
決して大きくはない声が、広場に轟いた。
ヴァ、イ、セン!
ヴァ、イ、セン!!
歓声の中、通路の1本を使って皇帝ヴァイセンが下りていく。
金の刺繍の紅いマントをはためかせたその後ろに3人の…あれは息子達だろうか?…が、付いて歩いていた。
ヴァイセンの後ろの男性が持つ、大きな紅い石に、俺は自然と視線を走らせる。
「でっかー」
ボーザックが呟いたのが聞こえる。
人ひとりがやっと抱えられる程の大きさ。
あんなでかい結晶は見たことない。
血結晶…あれはどれ程の血を固めたものなんだろう。
「おい、ハルト」
グランに言われて視線を上げる。
彼の指す方向に、オレンジ色の長い髪を無造作に靡かせながら、ラムアルが立っていた。
俺達の位置からはほぼ対角だ。
中央の舞台に皇帝ヴァイセンが上がる。
ざわざわと人が揺れた。
「我が帝国の国宝である」
ヴァイセンはそのまま、息子に魔力結晶を運ばせて、残りの2人が広げた布にそっと下ろさせた。
「いいか、我が帝国民よ。今日はこいつを売って、盛大に暴れる予定だ。なぁに、こいつはまだ小さい方だからな。帝国は揺るがん」
太く、聞くだけで脳に響くような声で皇帝ヴァイセンが続ける。
わあーっと歓声が上がった。
「買ってくれる奴がここに来る。おい、何処かにいるんだろう?」
(ねぇ、まさかあの真ん中で攻撃するつもりなのかな)
小声で、ボーザックが聞いてくる。
(俺に聞くなよ…けど、そんな雰囲気だ)
油断なく、周りを見ておく。
すると、するすると影のような動きで、一人のローブ姿が中央に近付いていった。
黒いローブはそいつをすっぽり被い、男か女かもわからない。
その姿を見ながら、俺は首を傾げた。
「…?」
何か違和感がある。
…浮いてる…?
そのままそいつは舞台に上がった。
ヴァイセンがつまらなそうな顔をしているのがわかる。
「…我を誰と心得る?」
ひゅっ……ごとんっ
……一瞬だった。
ローブ姿が真っ二つになって、墜ちる。
そして、そのローブの中に……。
「……レイス?」
思わずこぼす。
帝都民達が、静まり返る。
「我が国への反意と見る。覚悟しろ愚民ッ」
吼える、武勲皇帝。
その表情は、まるで、歓喜に満ちているようだった。
そして……。
「あ、きゃあーーーっ!!」
「うわあぁあーーっ」
彼方此方で悲鳴が上がる。
広場の外側、どうやって……何処にいたのか、レイスが次々と現れたのである!
既に広場は大パニックに陥り、逃げようとする人がごった返し、怒声が溢れた。
逃げ惑う人と、迫るレイス。
「とにかく片付けるぞ!」
グランの声で我に返る。
「ストップ、グラン!……浄化!!」
バフを広げるまでは一瞬。
範囲バフを覚えていたことに、心底よかったと思う。
俺達はそれぞれレイスに向かって走り、剣を振るった。
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