強さとは何ですか。③
「それで?次はどうするのかしら。リーダーさん?」
ファルーアが、金の髪を頬の横でくるくるしながら言う。
グランが少し考えてから言った。
「ギルド長の言っていた、もう1人コンタクトをとる相手がいるってのは覚えてるな?」
「あー、俺忘れてたー」
フェンと戯れ始めたボーザック。
……ごめんグラン。
俺も忘れてた。
「大丈夫ですグランさんっ、私達が覚えてました!」
ファルーアにくっついて言うディティア。
ファルーアはグランと視線を合わせずに遠くを見ている。
ファルーア、忘れてたな。
絶対。
「……お前ら……。まあいい。とりあえずもう1人ってのにコンタクトをとる」
「会ってどうするんだ?」
聞いたら、グランは髭を擦った。
「皇帝についてを聞こう。……そもそも誰だか知らねぇが」
こうして。
セッティングをオドールに任せ、俺達はその時を待った。
幸いまだ昼前。
パレードまでは3日ある。
俺達は、どう動いていいかわからない状況に、やきもきするしかなかった。
******
その日の夕方には、ギルド長から返事が来た。
時間と、店を指定してある。
宿からそう離れてなかったんで、徒歩で向かった。
「……帝都の人達は、何て言うか……まだ魔力結晶の粉については知らなそうだね」
五感アップをかけての情報収集は怠らないでいるけど、やっぱり不安の声ばかり。
ディティアがそっと話し掛けてきて、俺は頷いた。
「皇帝の言うとおり、蔓延させるわけにはいかない代物なんだろうな、きっと」
「うん。……飲んでみる勇気も無いし」
「駄目だ。あれは飲めるものじゃないよ。それくらいわかってるだろ?」
見下ろすと、見上げた彼女と眼が合う。
すごく驚いたような顔をした。
あれ、きつく言い過ぎたかな?
「ご、ごめん……?」
思わず言うと、ディティアが眉をひそめた。
「えっ!?何でかな、私が謝る場面だよね!?」
「いや、なんか驚いてたから」
「あっ、ううん!それは……眼が合ったから」
「ん……??」
「いや。何か唐突で、びっくりしちゃって??」
彼女はちょっと待って、と言って、自分のこめかみをぐりぐりし始めた。
「な、何だろう、説明は難しいんだけど……」
その姿が可愛かったんで、俺は笑った。
「そっか?ならもういいよ」
気にしない気にしない、と頭をポンポンすると、グランが振り返った。
「ハルト-、警戒中なんだからやめてやれー」
「え?」
バフもあって、聞こえてたみたいだ。
見たら、ディティアは顔を伏せてしまっている。
「耳真っ赤だな」
「っ、ハルト君、デリカシーなさ過ぎる!!」
怒られた。
******
「やあやあ!白薔薇だね?」
レンガ造りのバーは、1階が食堂、2階がカウンター席のバー、その奥が個室になっていた。
俺達は個室に通されて、6人掛けの丸テーブルに座る。
少し早く着いたけど、食事はオドールが手配してくれていたのか、どんどん運ばれてくる。
とにかく食べていると、約束の時間通りに長いオレンジの髪の女性がやって来た。
ぱちりと大きな紅い眼で、ファルーアくらいの背丈。
女性にしては背が高い方だけど、幼い容姿のせいか年齢は予想できない。
革の鎧に、弓矢を担いでいるし、冒険者……?
「そうだ、白薔薇だ。……あんたは?」
「おお!?オドール、あたしのこと話してないんだね。……じゃあとりあえず、マスター!果実酒-!……皆は何飲む?」
彼女は慣れた感じでお酒を頼み、まずは乾杯しよう!って笑う。
快活な笑顔に、なんとなくほっとした。
そして。
……お酒がきて、乾杯した直後。
「あたしはラムアル。皇帝ヴァイセンの長女よ」
「ぶふっ……」
噴いたのはグラン。
「ちょっと大盾のお兄さん、やめてよー!」
「ごほ、ごほっ……うおぉ、わ、悪ぃな……」
「いやいや、驚くだろ、仕方ないだろ!?」
思わず突っ込むと、ラムアルはふふふっと笑った。
「まあそうだよね!ふふっ、えーと、大盾のお兄さんがグランだったね、疾風のディティアに、不屈のボーザック……は、大剣だから貴方だね?それからメイジのファルーア……、へえー!お兄さんが逆鱗?」
彼女はちょうど隣になった俺を、まじまじ覗き込んできた。
太陽みたいな……爽やかな匂いが鼻をくすぐる。
「すごいバッファーらしいじゃない」
「いや、まだまだだけど……」
思わず苦笑する。
ラムアルはにこにこして、俺の杯に自分の杯をぶつけた。
「良いね!これから強くなる眼だよハルト」
からんっ、と、氷が鳴った。
……。
…………。
杯を空け、飲みながら、ラムアルはまず皇帝一家の話をした。
皇帝ヴァイセンと、亡くなった妻には7人の子供がいる。
長女のラムアルから順に、長男、次男、次女、三女、三男、四女となるそうだ。
息子達は皇帝自らが鍛練し、娘達は勉学に励む方針だったが、娘達は拒否。
強かった母に倣い、鍛錬して冒険者の資格を持っているそうな。
皇帝は偉そうだなんだと言われているが、子供には甘く、特に妻と娘達には頭が上がらないらしい……。
「そ、想像出来ないね」
ボーザックが頭を抱える。
「今回のこともざっくりオドールに聞いてるよ。あ、オドールのために言っておくけど、ギルド長は国に介入してないからね。今回は事が事だけにギルドも黙ってられなくて、いち冒険者のあたしに依頼があったとでも思ってよ」
「帝都の東側の件か」
「そう。さすがに魔物狩りすぎて他の魔物が飢えて人を襲うってのは帝国にとってもギルドにとっても困る。マスター!おかわりー」
どうでもいいけど、酒が水みたいに無くなっていく。
「それ、大丈夫なの?」
聞くと、ラムアルはおかわりを嬉しそうに受け取って笑った。
「うん!依頼の後はやっぱり1杯やらないとね!」
「1杯どころかいっぱいに見えるけどな…」
思わず言うと、彼女はもっと笑った。
「あははっ、あたし達の出会いにもかんぱーい」
楽しそうに飲みながら、話は移る。
「まずは変な集団について、何か聞いてるか?」
グランが聞く。
「うん。皇帝からは底が知れないって聞いてる。旧市街に棲み着きだしてるみたいだね。魔力結晶の粉末与えて経過見てるみたいだけど」
「……そんなことまで皇帝と話してるのか?」
唖然とした。
「まあね!ギルドでも怪しい奴等の動向は気にしてるでしょ?魔力結晶の粉のこともね」
「そうだな。ギルドから調べるように言われて皇帝に聞いたが同じ答えだ」
「あれ、皇帝そんなことまで話したの?気に入られたね?」
今度はラムアルが唖然とする番だった。
俺は思わず笑ってしまった。
「やっぱりグラン気に入られてたんだ」
「うるせぇ」
「この人、物凄く喧嘩腰だったのよ?」
俺とファルーアでグランを弄ると、ラムアルはきらきらと眼を輝かせた。
「やるねグラン!この国じゃ皇帝に喧嘩腰だなんて誰もしないよ!」
「わーぉ嬉しそうー」
ボーザックが拾う。
「じゃあ、まあいいか。……あのね、あたしは他の妹達と、魔力結晶を与えた奴等の様子を調べてんだ。皇帝がそこまで話したなら、特別に教えてあげる。オドールにも話してないんだから感謝してね」
うーん。
何だか、どんどんややこしくなってきたなぁ。
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