強さとは何ですか。①
ガンッ……
ギルドに戻り個室を取って、グランはお茶を一気に飲み干した。
「胸くそ悪い」
吐き捨てると、テーブルに投げるように置かれた魔力結晶の粉に一瞥をくれる。
「魔物同士の戦いだから、皆あんなに熱気があるのかな」
ボーザックも、肩を落として項垂れている。
その足元で、フェンが「くぅん」と鼻を鳴らした。
「ごめんねフェン、大丈夫だよ。……でも、どう思う?」
「どうって?」
俺が聞き返すと、ボーザックはフェンの頭を撫でながら答えた。
「魔力結晶を埋め込んで育てるって言ってたこと」
「ああ……あの言い方だと、造ってるわけじゃなさそうだったな」
「うん。……それに、明らかにゾンビ化したとしか思えなかった」
「ゾンビとして死者を生き返らせる……ってところかしら」
ファルーアはまだ青い顔をしているけど、毅然として言った。
「皇帝は奥さんを生き返らせたいって噂になってるみたいだけど……関係あるのかな」
ディティアも話を続ける。
そこに。
「戻ったか白薔薇」
ギルド長オドールがやって来る。
テーブルに置かれた魔力結晶を見ると、折れそうなじいちゃんは深く頷いた。
「見てきたか……!」
「ああ。詳しくは言えねぇが、造ってるわけじゃなさそうだと俺達は思ってる」
グランが答えると、オドールは椅子に座った。
「それは吉報。どういう状況だ?」
「魔物に埋め込んでやがった。死んだ魔物が、どういうわけか生き返るのを見た」
「生き返る……?」
「オドールさんが見た時はどうされていたんですか?」
ディティアがオドールにお茶を淹れながら聞く。
「魔物を戦わせてたが、魔力結晶を埋め込んだ奴は見かけなかったぞ」
「そうですか……何か条件があるのかな」
「ふむ、埋め込む魔物に制限があるやもしれんな…」
それから、オドールに詳細を伝えて、謁見の申し込みを頼んでおく。
既に喧嘩は売ってしまった。
そのことに、オドールは仰け反って引いていた。
******
謁見は次の日に即、行われた。
今回は着飾る必要も無い。
皇帝が住んでいるのは帝都の中心部。
塀に蔦をはわせた、緑溢れるレンガ造りの城だ。
帝都民はあまり近寄らないのか、どこかひっそりしていた。
……中はそれほど飾られていなく、時折獅子の像が立っている程度。
武勲皇帝の名に相応しく、装飾品よりも甲冑が似合う造りだ。
「皇帝陛下!白薔薇をお連れしました!」
入口からずーっと付き添ってくれた兵士が、分厚そうな扉の前で声を張り上げる。
『入れ』
中から聞こえた堂々とした声に、兵士が扉を引いた。
ぎ、ぎ、ぎ。
金属製の扉が、重々しく開いていく。
中は、白い空間だった。
真っ直ぐに、金糸で縁取られた紅い絨毯がのびている。
……広い。
その奥に、でかい椅子。
そして皇帝ヴァイセンの姿。
「良く来たな」
「おう、邪魔するぞ」
気さくに聞こえるが、既に物々しい空気。
兵士がそそくさと下がるのが見える。
驚いたことに、部屋には皇帝只1人だった。
窓とカーテン、並んだ燭台はあるものの、人が隠れられそうな場所は椅子の裏くらいだろう。
「ひとりか」
「首でも獲るか?」
「ふん、いらねえよ」
護衛など必要ないとでも言いたげな皇帝。
グランはファルーアから書簡を受け取ると、ずいずいと進んでいった。
俺達も、慌てて続く。
「俺達は白薔薇。ラナンクロストからの書状を預かった、ギルドの使者だ」
書簡と一緒に、名誉勲章を掲げる。
皇帝が面白そうに応えた。
「うむ」
「書状を渡す前に、話がしたい。そのつもりはあるか?」
「いいだろう」
「……」
グランは頷いて、1度書簡をファルーアに返した。
「彼の飛龍タイラントを屠りしパーティー、名は聞いている。各国を廻っているそうだな」
「そうだ。……手元にあるのは、魔力結晶についての書状だ」
「……」
ぎらりと、皇帝の眼が光る。
「単刀直入に聞く。魔力結晶を製造しているのか」
「……昨日答えたぞ、愚民」
「答えてねぇ。育てたと言った。……大元の結晶はどうした」
「……」
「答えねぇなら構わねぇ。……賭けに協力していた集団は何だ」
「知ってどうする?」
「害虫なら潰す」
……今日のグランは荒々しい。
俺は、手のひらに汗が滲むのを感じた。
皇帝は獣みたいな眼で、じっとグランを見ている。
たぶん、グランも同じような眼をしてるんだろうな。
「……ふむ、使えるか」
「あぁ?」
凄むグランに、皇帝は立て掛けてあった剣を取り、ゆっくりと立ち上がった。
俺は咄嗟にバフを練る。
「ひとつ、教えてやろう」
皇帝から、圧倒的な威圧感とでも言えそうな空気が放たれる。
「……ハルト」
グランに後ろ手で制されて、バフを消した。
手のひらに滲んだ汗が治まらない。
「あんな者達など、我が身1つで充分よ」
背筋が凍る。
グランが、俺達の前で、その空気を直に受け止めてくれる。
「……協力している訳じゃなさそうだな」
「口が過ぎるぞ愚民。利用しているだけだ」
「なら教えろ、あいつ等は希少価値の高い魔物を狩ってる集団だな?……何をさせてる」
皇帝は大剣を絨毯について、鼻を鳴らした。
「魔力結晶の力を、あいつ等を使って試している」
俺達は、知った。
武勲皇帝、ヴァイセンは。
集団に協力していると見せかけて、人体実験を行っていた。
記念すべき100話目。
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