異世界転移で全てを得るまで三千字
俺、生涯で最大のピンチ。生まれて初めて戦車に轢かれそうになっているんだが。
そもそも俺はイジメによって高校を中退してそれ以降十数年自室から一歩も出ずに引きこもり人生を謳歌していたんだが、ふと本当にふと外に出てコンビニで週刊誌立ち読みとかしたくなって家から出てみた途端にキャタピラー音が聞こえて振り向いてみたらなぜか巨大な戦車が、ってそんなこと言ってる間に俺は死んで気がついたら真っ白な部屋にいて目の前には変なおっさんがいて話しかけてきた。
「やあ、私は神なんだけど、陸上自衛隊の戦車が暴走してそれに轢かれて死んだ君、私のミスで死なせてしまい申し訳なかった。君って人として薄っぺらだから轢かれても漫画みたいにペラペラになるかと思えば案外リアルにいったよね」
「お前のミスかよ。そのせいで戦車が暴走したとか抜かすんじゃねえだろうな」
「いや戦車は某国の工作員が暴走するように仕掛けていたらしくて私のミスじゃない。私のミスは本来家でずっと引きこもっているクズでカスで社会のゴミでどうしようもない君をなぜか外出したくさせるようにプログラムを変えてしまって、そこで運悪く」
「なんでもいいわ。さっさとお約束のチート能力よこして異世界に移住させろクソ神野郎」
「無能のクセに口悪いね君。まあそのつもりだったからいいよ」
次の瞬間俺は知らない世界の知らない町にいて、視界の先では町全体を覆うようにそびえ立つ壁の向こうから巨大なドラゴンが侵入しようとしているではないか。人々が怯え、騎士団らしき奴らが戦っているのが見える。
まずは鑑定スキルであのドラゴンを軽くチェックしてみるか。
赤ドラゴン:HP3200
他の能力もズラズラ羅列されていたが割愛。これだよこれこそ俺の望んでいた異世界、俺はここであのドラゴンをぶっ殺すことを皮切りに最強能力で無双してハーレムを築くんだからな。
ついでに俺のステータスも鑑定しておくが9が嫌というほど並んでいるだけだった。スキルも攻撃から移動まで大充実だから割愛。俺が最強なのは火を見るより明らかだ。
では早速はるか先で騎士団らしいザコがゴミのように吹き飛ばされている現場にテレポートで接近してだな。
「ザコ共は引っ込んでろ。俺がぶっ殺してやる」
「な、なんだ君は! 見慣れない服装だが民間人か! 危険だから下がって――」
「ガトリングガン斉射!」
騎士団長らしい、他の騎士とは装いの違う男が何か言っていたが気にしないで俺は神の野郎から貰ったチート能力を発動して一分間に六百万発の徹甲弾を発射する巨大なガトリングガンを召喚し撃つ。
赤ドラゴンに586937501358062990998479284467409のダメージを与えて倒し奴は肉塊になった。
「格が違げぇんだよクソザコ野郎」
俺はガトリングガンを消して決め台詞を吐くと、その瞬間に町全体は興奮の坩堝と化し、俺は異世界転移一分で英雄となった。
それから俺はこのチート能力で八面六臂の大活躍、ギルドにも入りつつ奴隷を買いつつ学園にもトップで入学、ついでにマヨネーズも作った。年ごとに色々問題もあったが全部ガトリングガンで敵は肉塊に変えてやった。格が違げぇんだよクソザコ野郎。
俺が敵を無残な姿に変えるたびにだいたいそこには窮地に陥っている女子がいたから、助けてもらった彼女らは俺に惚れ、自然とハーレムも作っていた。ついでにマヨネーズも作った。先輩後輩同学年、獣人やエルフ、他校との交流の際に俺の物にした女も結構いたな。場合によっちゃそいつらの元恋人が襲い掛かってきたがもちろんガトリングガンで消し飛ばした。格が違げぇんだよクソザコ野郎。それにしても毎晩毎晩何人もの女を相手にするのって意外と骨が折れるのな、チート能力の自己回復でどうとでもなるが。
そんなこんなで異世界に転移して六年が経ち、俺は学校を卒業すると同時にこの国の王に対して禅譲を迫って俺自らが王座に就いた。ちょっとガトリングガン召喚するだけで王も家来も失禁して俺の言うがままになるんだから滑稽だよ。格が違げぇんだよクソザコ野郎。
俺は内政能力もチートだからな、先代の王よりもずっと優れた手腕を発揮してなおかつ転移前の現代知識も取り入れて法律からインフラから全て刷新してこの国を作り変えてやった。ついでにマヨネーズも作った。この力を前にしても俺に抵抗してくる愚民もいたが全員見せしめとして衆人環視の中ガトリングガンで消してやった。格が違げぇんだよクソザコ野郎。
王となった俺の存在自体が他国にも脅威を与えるらしく周辺諸国は次々降伏、逆らう国は俺自らが乗り込んでいってガトリングガンで男は労働力になりそうなの以外は殲滅、女は若くて俺に従う奴だけ残して殲滅してやった。格が違げぇんだよクソザコ野郎。
二年ちょいで異世界の統一を果たしたのは俺くらいだろうな。あと異世界でマヨネーズ作ったのもな。
そうやって異世界に転移してやりたい放題で九年が経った頃、ふと俺の宮殿の中にいきなり何者かが現れて女に囲まれて楽しんでいるいい気分の俺に水を差すようにこう言ってきやがった。
「少し君を増長させ過ぎた。ちょっと能力を与え過ぎた私の落ち度もあるが、君は与えられた力でいい気になって際限なく強くなり、ひいてはこの世界のバランスさえも崩してしまう。よって転移させておいて勝手だが、君にはここで消えてもらう」
「誰かと思えば俺をこの世界に転移させたクソ神じゃねえか。もうお前にも用はねえ、消えな」
「消えるのは君だよ、腐れニート!」
神は両手を青白く発光させたかと思うとその光を空に放ち、天空から幾多の轟雷を俺に向けて降らせてきやがった。
「神の前にひれ伏せッ!」
「フン」
女奴隷が悲鳴を上げていたが全く効かんな。ダメージはせいぜい十三といったところか。ちなみに俺は経験値倍加特大というチートスキルを持ちつつ敵を殺しまくっていたせいでレベルはカンスト、HPは二十七載を越えている。ついでに神のステータスも見ておくとHPは四十二億らしい。ケタが違うね。他の能力もクズなので割愛。もっと言うと俺の大事な奴隷が巻き添えになるのを防ぐためにそっちにバリアーを張っていたせいで俺の体の方に雷が直撃したがそれでこのダメージとか終わってるよ。
ハッキリ言うが、もう俺はお前ごときとうに超えているんだよ。
「ガトリングガン斉射!」
神に9846729416998637960432332765837595559684011985893020135062のダメージを与えて消滅させた。
「格が違げぇんだよクソザコ野郎」
だがいかんな、神を殺したはいいものの、この異世界の創造主が消えればこの世界は崩壊するが――。
問題ないか。神をとっくに超えている力の俺ならこの世界の均衡も維持することはたやすいしな。唯一の邪魔者とすら言えない変なのも消えたし、ついに神を殺して俺が神となったわけだ。
これでこの世界は完全に俺の物だ。女も権力も永遠に俺の物だ。文句あるザコはかかってこいよ、ガトリングガンで肉塊に変えてやる。
俺が最強にして最高の王者であり神なんだよ。
――と言うのが、三十五歳にして引きこもりの俺が親の死により家賃を払えずに強制立ち退きを食らって浮浪の果てに橋の下で毛布にくるまって飢え死にする今際の際に見た映像で虚像だ。
だがまあ、これで今度こそ異世界で、チートで、ハーレムを――。
続きません。
お読みいただきまして誠にありがとうございます。