一分間彼女
「それで、4時44分になると君は姿を現せるって訳?」
「はぁ…まぁ」
小さな洗濯機にぎゅうぎゅうに押し込められ身動きがとれない彼女を見下ろしながら僕は聞いた。
人や幽霊が入るようには設計されてないその中で彼女は苦しそうに顔を歪ませた。
「そういえば最近夕方になると何か見えてたけど…」
「あ、それ私です」
彼女がちょっと嬉しそうに笑った。
「えーと…その時間に貴方を驚かせてやろうと…えへへ…」
鏡の端、少しだけ開いたドアの隙間、教室の窓…幽霊だと名乗る彼女は毎日同じ時間に僕の前に現れていた。最初はビクビクと驚いていた僕も一ヶ月もすれば慣れっこになっていた。大体4時44分など普段はまだ授業中だし、気づかないことも多かった。そうすると、次の日彼女はより目立つように、僕に見つかり易い場所に出てきてくれるのだった。そして今日、洗濯機を開けたらこの有様だ。
「大体時間指定だったらさ、もうそろそろ出てくるなーってこっちも分かるじゃない。慣れると怖くないんだよね」
「こわっ…!?」
どうやら傷ついたらしい彼女がその顔をより一層青醒めさせた。
「ちょっとどいてて。洗濯物干さなきゃいけないから」
「あ…すいません」
いそいそと彼女が這い出してきた。他人事ながらもっと幽霊らしく出てくりゃいいのにと僕は思った。
「あの…」
残り10秒くらいでスーっと薄くなりながら彼女が申し訳なさそうに呟いた。
「じゃあ、明日もよろしくお願いします…次はもっと怖がらせますので」
「がんばってね」
「はい」
健気な笑顔で明日の恐怖を予告され、僕は洗濯物を干し始めた。
明日もいい天気になりそうだった。