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露呈

その日の夜。

私はなかなか寝付けないでいた。

ここ数日間は薬の影響で意識がはっきりせず、ほぼ一日中寝ていたこともあった反動だろうか。 

目が冴えて仕方がない。


もう何度目なのかも忘れてしまった寝返りをうったとき、

部屋の窓に、何かが軽くぶつかる音がした。

「???」

大木が飛び込んできた様を思い出し、背筋が凍った。

恐る恐る窓を見上げると、そこにはなんと…

「リン!?」

窓の枠の下の方に踵を引っかけ、

窓にほとんどもたれかかるような格好で、窓の外側にリンは、いた。


もしかして、毎晩そこで見張りを…?

医務室で見たリンの様子と、医師の話が蘇る。

私はいてもたってもいられなくなり、ベッドを出て窓へと向かおうとした…が、しかし。

手も足も、なかなか言うことを聞いてくれない。

痺れはもう、大分軽くなった。

それでも、シーツをめくる動作、床に降り立つ動作のひとつひとつが、億劫で仕方がない。

額に汗がにじむ。

その汗を袖で拭い、壁づたいに窓へ向かおうとしたところで、膝から崩れ落ちてしまった。


その音を聞いた衛兵たちが、慌てて部屋へと入ってきた。

「王女様、どうなさったんですか?」

まぁ、そりゃびっくりよね。床に汗だくで倒れてたら。

衛兵たちが私をベッドへと寝かせてくれた。

「あの…

何だか、少し暑くて…

窓を、開けようと思ったの……」

苦しい言い訳を並べてみる。

「そうですか…」

衛兵のうちの一人が、納得いかない、といった調子の返答をしつつも、

窓を開けるよう指示を出してくれた。

「そんなことを頼むのは気が引けて…

でも、逆にお手数をかけてしまって、ごめんなさい」

「い、いえ、とんでもありません! しかし、今度からは、我々をお呼びください」

「ありがとう」

衛兵たちはきびきびとした動きで頭を下げると、部屋を出て行った。


私は、ふっと息をついた。

と、ひんやりとした風が吹き込んでくるのに気付き、首だけ動かして窓の方を見た。

しかし、そこにはもうリンの姿はなかった。


医務室に戻ってくれたのなら、いいのだけれど…

と思っていると。


「お前、何やってんの?」

ふいに上、つまり天井の方から微かな声がして、私は飛び上がった(心臓だけ)。

私が慌てて視線をそちらに向けると、

リンが天井近くから私の前へと、ふわりと降りてくるところだった。

リンは音もなく床に降り立った。

「リン…」

「衛兵たちの配置が乱れたら、敵に好機を与えちまう。窓を開けるくらい、衛兵を一人呼べばいい話だろ」

さっきの一件のことを言っているのだろう。

確かに正論だ。がしかし、私にはそんなことはどうでもいい。

「そんなことより、リンこそ、医務室に戻っ」

声を荒げた私の口を、リンが片手で塞いだ。

「…もう少し利口だと思ってたけど」

無表情なリンの瞳が私を見据える。

「っ……」

首を振ってリンの手を振り払うと、今度は小声で私は言った。

「リン怪我してるんだから、休まないと…!」

―――早く治して私の傍に来て。

あれ? 何だろ、今私の頭の隅で誰かが……


「仕事だから」

冷たい声色が私の思考を途切れさせた。

「じゃ、王女様は静かに寝てろよ」

リンはそう言うと私に背を向け、窓の方へ向かおうとした。

「待って!」

私は痺れの残る手を必死に動かし、リンの服の裾に触れた。

怪訝そうにリンが振り返る。

「何?」

「ずっと外じゃ寒いでしょ。せめて、部屋の中にいて」

「………」

リンが眉間にしわを寄せる。

と、腕を上げておくのが限界になり、私の右腕はベッド脇にだらりと垂れ下がった。

その衝撃に顔が歪む。

リンは面倒くさそうに私の腕をシーツの中へ戻すと、

「…分かったよ。中にいるから、じたばたせずに寝てろよ」

と呆れたように言うと、窓の近くに部屋にあった椅子を引っ張っていって座った。

悟られまいとはしているが、やはり疲労がたまっていたのだろう。

少しでもリンを楽にできたことに安堵し、私はふっと息をついた。

そしてしばらくは、窓から差し込む月光で陰になったリンの姿を眺めていたが、

いつしか私は眠りに落ちていた。




……やっと寝たか。

リンはやれやれといった様子で王女を見やった。


マークに聞いた話が、頭をよぎる。


俺を庇うなんて、

「…変な奴」


つぶやくように言うと、リンはベッドに歩み寄った。

その寝顔は、王女というには程遠く、ただのあどけない少女のものだった。



何で血が繋がっているというだけで王女になれた平民の女を守らなきゃならないのかと、

初めは思った。


だが………



ここでリンは周りが見えなくなっていることに気付き、思考を断ち切った。


その先を考えるのは、また今度にしよう……

そう思いつつも。

「カノン……」

気付くと、そう呟いていた………


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