再会
そのまま気を失ってしまったリンの手を握りしめ、リンの顔を見つめていると、
「王女様」
うしろから不意に声が掛けられた。
ハッとして振り向くと、そこにいたのはマークだった。
「マーク…」
彼は恭しく跪くと、
「王女様、ここにいては危険です。どうか、お戻りを」
「でも、リンが!」
「王女様」
マークは有無を言わせぬ口調で言った。
でも、私も引き下がるわけにはいかない。
「私はリンの傍にいます」
断固とした口調で言い切る。
そんな私に、マークはため息をつきたそうだった。
「王女様、どうか、よくお聞きください。
王女様のお部屋の窓ガラスを、飛んできた大木が割った先ほどの一件は、故意に仕組まれたものなのです」
「え…?」
予想だにしなかった話に私は動揺した。
雷が落ちて割れた近くの大木が飛んできた…としか思っていなかった。
「安全のため、城の近くに、大きな木は植えておりません」
私の考えを読むようにマークが言った。
「でも、雷鳴を聞いたわ…」
「それは、窓の近くに大木を出現させたときに発せられた音だと考えられます」
「出現…?」
「そうです。つまり…」
ここでマークはちらりとリンに視線を向けた。
私は不意にひらめいた。
「触れたものと自分を浮かばせることができる能力をもつリンのように…
えっと… 何か物体を、出現させる能力を持つ人も、いるってこと…?」
「はい。古参の大臣がその手の能力者について詳しく、先刻確認してまいりました」
世界には私の想像もつかないことがたくさんあるようだ。
こんな状況じゃなければ、私はワクワクしていたかもしれない…
まるで、本の中の世界のようだから。
「ですから王女様は、どうか安全な場所へご移動ください。衛兵たちの配備も整っております」
――安全な場所。
そんな場所が本当にあるのだろうか。
私は目の前に横たわる満身創痍のリンを見つめた。
「それなら、リンも一緒に」
気が付くと、私はそう言っていた。
マークが少し顔をしかめるのが分かった。
「お願い」
しばし逡巡した後、マークはやれやれと言った口調で
「承知いたしました。では、衛兵を何名かこちらに回したのち、
王女様とリンを安全な部屋へお連れする準備を整えてまいります」
私は安堵した。
「ありがとうございます」
「丁寧語を私になどお使いになる必要はありませんよ、王女様」
マークは困ったように微笑むと、医務室を出て行った。
しばらくして、医務室のドアがノックされた。
マークがよこしてくれた衛兵たちだろうか?
それとも医師の誰か?
確認しようと私がドアの近くまで行こうとした――
次の瞬間。
衛兵が四人、ドアを蹴破って入ってきた。
乱暴だとは思いつつ、安堵したのも束の間。
その後ろから、見覚えのある格好の男たちが何人も入ってきた……!
みるみるうちに、数日前私を襲った黒衣の男たちが私とリンを取り囲んだ。
そのときと違うのは、
男たちのうち四人だけが衛兵に化けていることと、
顔を隠していないということ。
リーダーと思しき男が不敵に笑う。
「お久しぶりですねぇ、王女様。
この前はそいつのせいで失敗しちまったが」
男は気を失っているリンを顎で示した。
「今度は逃がしませんぜ」
低いだみ声が部屋に響く。
私が恐怖で一歩も動けないでいると、その男の後ろにいた男が、
「リーダー、そいつ、この前の借りもありますし、ちょっと可愛がってやってもいいですかい?」
と、さも嬉しそうに言った。
リーダーは後ろを振り返り、にやりと笑った。
私たちを取り囲む男たちの中の何人かが、リンへと近づき始めた…!
私は奈落の底に落とされたような気分だった。
私がここにいるせいで、リンまで巻き込んでしまう…!
「待って!」
勇気を振り絞って叫んだ。
「この人には、手を出さないで!」
男は、面白そうに私を見下ろした。
「ほぉ、王女様が平民をかばうとはねぇ…」
「この人は仕事をこなしただけよ! あなたたちと同じように……!」
私は男と睨み合った。
一瞬の沈黙の後、
男は私からふいっと視線をそらし、言い放った。
「今は時間がねぇ。王女様かっさらって逃げるぞ!」
(よかった……
リンを助けられる……)
自分が連れ去られること。
連れ去られて殺されるかもしれないこと。
そのせいで希望や権力を失う人々がいること。
その他もろもろのことが頭の中を駆け巡ったが、私にはどうでもよいことに思えた。
リンが、助かるなら、それで……




