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夢のような話

 瞑った瞼に降り注ぐ朝日が、私に起きなさいと急かす。

(あぁ、また今日も長い一日が始まるのね…)

私は気だるげに起き上がり、身支度を整えようと、

いつもベッドのわきの机の上に置いてある櫛に手を伸ばした…が、何もない。

眠気は一気に吹き飛び、目をぱちくりさせると、自分がとてつもなく豪華で広い部屋にいることが分かった。私のアパートの部屋とはあまりに違いすぎて、比べるのが空しいほどに。

朝日を受けて、家具に施された金の装飾がキラキラと光り輝いている。

 私がぽかんとそれらに見とれていると、部屋のドアが慣れた手つきでノックされた。

ドアをノックされたことなどない私は、びっくりして飛び上がった。

「王女様、お目覚めでしょうか?」

女の人の声がドア越しに聞こえた。

「は、はい!」

私は訳も分からず返事をした。

――工場で指示を出された時のように。

「入ってもよろしいでしょうか?」

「はい、ど、どうぞ!」

カチャリ、とドアを開けて入ってきたのは、五人の女性たち。少女から年を召した人まで様々だ。皆一様に白のブラウスに紺色のロングスカート。襟元には凝ったデザインのブローチを付けている。

「お召し替えを」

その中のまとめ役と思しき二十代後半くらいの女性がそう言うと、私は彼女たちによって服を着替えさせられ始めた。

何が何だか分からず、抵抗するのも面倒で私はされるがままにしていた。

さらに髪を整えられた後、豪華な食事が部屋に運び込まれてきた。

 その“お召し替え”とか何とかをされている間、何か話しかけられたような気もしたが全く私の耳には入ってこず、ただ昨日の夜から何も食べていなくて空腹だったので、食べたことがありそうなものを食べることに集中した。


 すると、またしてもドアがノックされ、女性たちの一人がドアを開けた。

入ってきたのは一見して地位の高い召使い…というか執事といったいでだちの茶髪の男性と、

昨日の少年だった。

その二人が入ってきたのと入れ替わりに、女性たちは部屋を出て行った。

いつのまにか食事もすべて片づけられていた。

「あの…」

(誰なのだろうか、この人は。 …それより、ここはどこなのだろうか?)

お腹が満たされると頭が働きだしたようで、私の頭の中には、たくさんの疑問が浮かんできた。


 茶髪の男性は私の前で跪くと、

「私はマークと申します。何なりとご質問なさってくださいませ」

と流暢に言った。

何もかもお見通しだと言わんばかりに、眼鏡の奥の瞳が光った気がした。


マークとの会話(というか彼の説明)によって分かった事実は、こうだ。

私は王家の血を引いていること。

現在の国王と王妃には、たったひとりの息子がいたが、しかしその王子が先日亡くなったため、

私が第一王位継承者となったということ。

よって、これから私はこの城で、王女として暮らし、ゆくゆくはこの国を統べることになるだろうということ。



 夢のような話、とはこのことだろう。

私はどう反応していいのか分からず、ただひとこと、

「そうですか」

とかすれた声で答えた。


 ふと、マークの後ろに立っている少年に目がいった。あからさまに退屈そうだ。

昨日は状況が状況だけに、きちんと見ることができなかったが、改めて見ると、私とほぼ同い年のようだ。

こぎれいな格好はしているが、しかし“品”という点で、マークとは雲泥の差だ。


挿絵(By みてみん)


「彼はリンです」

またしても、私の考えを読むようにマークが言った。

「陛下が、見知った者も一緒の方が落ち着いて話を聞いていただけるだろうとご配慮なさり、同伴した次第です」

(いや、見知ったも何も、いきなり連れ去られただけの関係なのですが)

とはさすがに言えなかった。

それを見透かしたようにマークは微笑し、「あぁ、それと」と先を続けた。

「このリンが、今日から王女様の付き人としてお守り差し上げますので、ご安心を。」

(………はい?)

「付き人……守る…?」

「はい、この者は平民の出なのですが、不思議な能力を持っており、特別にとりたてられた腕の持ち主、どうぞご安心を」

(いやいや、安心できるかどうかは問題ではないです!)

「私…守られる必要があるのですか…?」

おずおずと尋ねると、マークは気まずそうに目を伏せた。

「実は… 王子殿下は、何者かに暗殺されたのです」



 私はどうやら、内部に有力官僚を筆頭とする反対勢力を含む王家の城へと飛び込んだらしい。


国王が誰になろうが、私が王女だろうが、実のところどうでもいいのだが、

とにかく現国王側の人々は私を守りたいらしい。

何百年だか続いた王家の血を絶やしたくない…らしい。


それも、今の国王と私が殺されればどうしようもないことだし、

反対勢力が統治権を握ったとしても国は続くのだから、

大半の人々(国民)にとって、王家の血など、気に留めるほどのことではない。

 

傍観者として見れば、私を守るということ自体、ほとんど無意味に思える。

王子を殺すことができるほど勢力を増しているのに、逆らってどうするのか。

これまで人に迷惑をかけないよう、流れに乗り、決して逆らわず生きてきた私にとって、

この人たちの必死さは、到底理解できそうにない…



だが。

だが、しかし。


私が生きていることが、誰かの心の支えになる。


そんな状況に陥ったことのなかった私は、少し、少しだけ、

うれしい、と思ったのだった―――



―――私が“生きていること”自体に“意味”がある。


“生きる意味”に飢えていた私にとって、それは天の恵みにしか思えなかった。


もう、いつ死んでもいいと思った。

幸せすぎる。幸せすぎて、不気味なほどだ。





限られた人々しか私の部屋には出入りせず、

私もこの部屋から一歩も外には出られない。

傍には、いつもリンが控えている。

そんな日々が、何日も続いた。


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