譲渡
「こ、これは…!」
駆けつけた医師が、驚きの声をあげた。
「コイツに、何が起こってるんだ…?」
リンが問い詰める。
「残念ですが…」
医師は言いよどむ。
「何だよ、早く言え!」
リンの勢いに押され、医師は下を向き、かすれた声で言った。
「国王陛下は、お亡くなりになってしまったようです………」
「!?」
「何…!?」
それを聞いた衛兵が医師に詰め寄る。
「おい! いいかげんなことを言うんじゃ…」
「やめろ」
リンが低い声で言った。
「でもよ…」
「信じたくないのは、俺も同じだ。 だから…」
その声が震えているのに気付き、衛兵は言いかけた言葉を飲みこんだ。
リンは医師に厳しい視線を向ける。
「その根拠を、聞かせてもらおう」
医師は小さく頷くと、
「王女様の、このご様子…
これは、王位継承の儀式に他なりません」
「儀式…?」
「そうですね、儀式というよりかは…
この国を治めてきた、これまでの王たちの記憶を、貰い受けるという…
この国で代々、王が変わるごとに行われてきたこと、なのです」
「記憶を…」
「はい…
国を、よりよく統治していけるようにと、
この国の最初の王が亡くなる時、次の王となる者に、
自らの記憶を与えたのが始まりだとされています…」
「そんなこと、初耳だぜ」
衛兵が訝しげに言った。
「ええ…
本来、限られた者以外には知られていないことなのです。
記憶の譲渡は、決まった部屋で、王が亡くなるときに、王位を渡すと決めた者へと、
秘密裏に行われてきましたので…」
「………」
リンは、黙ってその話を聞いていた。
大方、代々の国王が上手く国を治めてきたのは、
国王自身の力量である、ということにしておきたかったのだろう。
実は記憶を貰ってきたおかげだった…などとは、誰ひとり気づきもしなかった。
そして、王家の血筋への手放しの信頼…
いや、その神聖性への崇拝が根付いていった、ということなのだろう…
そんなものを守るために俺らは奮闘してきたのか…
リンは顔をしかめた。
…いや、待てよ? ってことは…
「じゃあ、もしかして…
そのことを知った奴らが、今王家に楯突いてる…ってことなのか???」
リンの頭に浮かんだ問いを、衛兵が口にした。
確かに、その記憶さえ手に入れられれば、
王になるものが王家の血を引いている必要性は全くない。
だが、今知りたいのは、その答えではない。
「それで、コイツは大丈夫なんだな?」
二人の視線が再び王女へと集中した。
「はい… もうそろそろ、完了すると思います…」
医師の言葉に安堵したのも束の間、
リンはあることに思い至った。
これまで何百年と続いてきた王家の記憶の譲渡が済んだ後、
コイツは以前と同じままなのか…???
記憶を共有するということは、
そこに内在される感情も…心の動きも、考え方も、共有するということだ。
俺はそんなコイツを、受け入れられるだろうか…???
いや、全くの別人として、接するべきなのか…???
「おいおい、ってことは、今反対勢力の奴らは、
ここに向かってるんじゃないのか?」
衛兵の言葉に、リンはハッとした。
そうだ、今はコイツを守ることが最優先だ…




