崩壊
ずっと沈黙したままの私を不審に思ったのか、
ふとリンがこちらを向き、何か言おうとした、その時。
「リン様? お客様がおみえです」
看護婦のひとりが声をかけてきた。
「誰だ…?」
訝しげに訊ねたリンに彼女が答える間もなく、
甲冑を付けた衛兵が一人、彼女の後ろから勢いよく歩み出た。
「リン! 遅くなってすまない!」
まだ若いその衛兵はリンと顔なじみのようだ。
その手には、鞘に収まった剣が握られていた。
「これを、届けに来た」
そう言って彼は剣をリンに差し出した。
リンは軽く目を見張った。
「あぁ… すっかり忘れてたよ。わざわざすまない。ありがとう」
そして嬉しそうに受け取った。
「気にすんなって。 それで、マーク様のことだが……」
ここで彼は声を落とした。
リンの表情が硬くなる。
「助かるかどうかは、まだ…」
「あぁ。それは俺も聞いた…。 ……それで、実はな…」
ここで衛兵は、眉間にしわを寄せ、言いづらそうに俯いた。
「どうした…?」
不安そうなリンの問いに、彼はぎこちなく言葉を続けた。
「ラウル隊長が奮闘なさってはいるんだが……
もう、衛兵隊は崩壊しているといっても過言じゃない」
「……それは、マークを襲った衛兵のような裏切者が、隊内にはびこっている、
ということか…?」
「…そうだ。 もう、誰が味方でだれが敵なのか…
衛兵同士で、疑い合ってるんだよ…」
「………」
私は、その会話を耳に入れまいとしていた。
それが、自分の命に関わることだと、分かってはいた。
でも、だからこそ、知りたくなかった。
考えたくなかった。聞きたくなかった。
けれど。
私の本能は、その会話を聞こうともがく。
それに抗えない、無力な私。
悶々とした感情が、体の中を駆け巡っていた。
これまで、何度も、何度も経験してきた感覚………
しかし。
突如として、私の中に、
今まで見たこともない人々と風景の映像が
怒涛のように、なだれ込んできた。
その量の多さに、押しつぶされそうになる。
あなたたちは、誰…?
そこは、どこ…?




