願い
近づきつつある地面から視線を上げると、リンと目が合った。
リンは苦しさを隠すように微笑み、
煌めくエメラルド色の瞳が、「心配すんな」と言っていた。
私はこらえられなくなって、リンの背中に腕を回して抱きしめた。
そうすれば、失わずに済むのではないかと………
「神様…」
私は生まれて初めて神に懇願した。
失うのが怖いものが、できてしまったのだ…
「馬鹿、神様じゃなくて俺を信じろよ」
耳元でリンが囁いた。
その物言いは怒ったようだったが、なぜか優しい囁きに感じられた。
私は返事の代わりに、リンを抱きしめる腕に力を込めた。
地面まで、あと数メートル―――
突如として、リンの身体が燃えるように熱くなった。
喰いしばった歯から、苦しそうなうめき声が漏れている。
私を擁く腕の力がさらに強くなる。
リン…!
私は心の中で叫んだ。
次の瞬間。
二人の身体は芝生の上に転がった。
身体の所々をぶつけたが、二人とも、生きていた。
「いってぇ…」
私の横でリンがうめきながら起き上った。
「おい、大丈夫か?」
リンが私を起き上がらせようと手を伸ばした。
私はその手を取ろうと左手を挙げようとしたが、なぜか動かせなかった。
不思議に思って見ると、左手は変な方向に曲がっていた。
「…!」
リンもそれに気づき、罰の悪そうな顔をした。
「…折れてるな。…悪ぃ、俺のせいで………」
私は首をぶんぶんと振った。
涙があふれてくる。
違う、あなたのせいじゃない。
元はと言えば私が…
伝えたいことはたくさんあったが、言葉にならなかった。
「っ…」
右手を使って起き上がろうとすると、全身、特に左手に痛みが走り、私は顔をゆがめた。
そんな私を慌ててリンが支える。
「おまっ無理すんじゃ…」
時が止まった。
重ねた唇を、ゆっくりと離す。
私は涙をぽろぽろとこぼしながら、リンを見上げた。
「お…なにす……」
顔が真っ赤だ。
「ご無事ですか!」
不意に掛けられた声に驚いて二人同時に振り向くと、
お馴染みの医師と何人かの看護婦たちが、慌てて走り寄ってくるところだった。
その後、私とリンは、
落ちてゆく私と、それを追いかけたリンを目撃した衛兵たちにより知らせを受け、
駆けつけた医師たちによって、医務室に担ぎこまれて治療を受けた。
二人とも全身に打撲が散在しており、私は左腕を骨折したが、二人とも、生きている。
生きている……
これは奇跡なのか。
神の計らいなのか。
それとも…?
その答えが分かったら、何だかつまらない気がした。
そう思った自分に、私は自分で驚いた………




