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私はコレで煙草を辞めました?  作者: 白い黒猫
第一種接近遭遇
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清酒に学ぶ大人の仕事術

 清酒さんのお陰でネタはかなり集まり、記事の企画書作成のほうは順調に進んだ。

 地元で改めて歴史散歩というデート。街に隠れたアートを楽しむデート。スポーツを楽しむデートという三つの観点からのコース。それに加えあえてお家で楽しむ一日というのを加え提案した。

 その際にそれぞれ提携先と成りうる協力先のリストを挙げ、企画会議でのプレゼンは無事終了した。

 企画そのものは他の商業紙もやっているようなモノ。そこまで目新しいモノではない。しかし複数の企画をたて、前取材もしっかりした上での発表を行った事は評価されたようだった。

 今までは企画も決まっていて段取りも終わった状態で指示を受け取材を行う。あくまでも企画作成のサポートという携わり方だった。

 企画からをメインで行うのはこれが初めてだったので緊張もかなりした。会議が終わっても心臓はまだドキドキしている。

 地元デートという企画そのものは井上先輩があげそれを、先輩が忙しいから私にふってきたモノ。会社に入って次の四月で三年目。

 雑用を中心に頑張ってきた私に会社が与えた試練だというのは理解していた。だからこそこんなにも緊張しているのである。


 清酒さんのアドバイスや協力もあったとはいえ、私自身も頑張って企画を練り組み立てたつもりである。しかし頑張ったというだけが評価にならないのが社会人というもの。

 私の青さの残る企画書がどの程度採用されるかは編集長次第。私は緊張の時間をまだ過ごさないといけない。

『ありがとうございました。

 今日無事会議で企画を無事発表出来ました。清酒さんがいなければここまで行き着かなかったかもしれません、本当に助かりました。

 採用されるかはまだ分かりませんが、やるだけの事はやったのでじっと結果を待ちます。

でも不安です。清酒さんにも散々協力して頂いたのに、ポシャったら申し訳ないですよね――』

 仕事の移動時間を使い清酒さんにお礼のメールを送っておいた。駄目だな……お礼のメールなのに泣きついている。私は溜め息をつく。一時間程した後返信があった。

『お疲れ様! 結果オッケーだったらそのまま頑張るだけ。

 駄目だったらさらに企画を練り直し頑張ればいい。

 どちらにしても、スタートは無事出来た訳だ。おめでとう』

『駄目だったとしても、君は良く頑張ったから』

 そんな優しげな言葉。

『君が頑張って作った企画だから大丈夫!』という気休めの言葉でなかった事に、清酒さんらしさを感じる。

 ボツになっても、企画を練り直しまた再チャレンジするという発想はなかった。新鮮な驚きと、まだまだ終わってないという状況にも気が付き気分もかなり楽になった。

 清酒さんも仕事において、失敗してもそれを土台に頑張ってきたのだろう。恋人としては、まだまだ読めない所もあり分からない。しかし社会人とては尊敬出来るし、学ぶべき所も多い。

 今までもこういったアドバイスをもらい、助けて貰っている。

 社会人になったばかりで自分の事に必至だった。言葉だけを噛みしめその言葉を発している清酒さんを見ていなかった事にも気がついた。

 私も成長して、精神的な意味で大人と大人としての向き合っていけるようにならねばと思う。

『はい! 走り出したら突っ走るだけです。頑張ります!

 今は、清酒さんや井上先輩等の助けもあり、補助輪付きのスタートですけどね。

 でも[わかば]は成長するものなので、青々と立派に茂ってみます』

 返信したら、今度はタイミングが良かったのかすぐ帰ってきた。

『頑張り過ぎて紅葉にならないでね。

 今日、俺は八時には終わりそうだけど、一緒にご飯でも食べない?』

 給湯室の一件から、一週間、私の生活はどう変わったかというと、実はさほど変化はない。

 清酒さんとのメールのやり取りは週ニくらいだった。

 食事の誘い等、何か用事がある時にのみ。それが毎日になりその内容が何でもないような事まで交わされる事になった。

 今日体験した面白い事とかまでを、短いメールで語りあうようになった。これを、進展と言うのかは分からない。

 私の世界に清酒さんが確実に存在感を増したのは察していた。

 私の中で、『このままドンドン行っちゃえ!』という声と、『また傷付くから、止めた方が良いよ! この人はまだ信用出来ない』という思いが沸き起こり揺れる。

『大丈夫ですよ。先日のお礼も込めて、今日は奢らせて下さい!』

 行きたいからでなく、お礼したいだけだと自分に言い訳してメールを返す。

 『会いたいから承諾したのではなく、人として礼節の精神から、一緒に食事するのよ』

 清酒さんに対しても、そういうつまらないパフォーマンス。

『それは、無事企画が成功したときに受けるよ。成功報酬として。今日は普通にデートをしよう。いつもの場所で待っているね』

 さらに一時間程後、会社のトイレでそのメールを見た私は首を傾げる。

 あら? 気が付いたら単なる食事にデートという要素が付加がされているようだ。

 今日は水曜日……まだ付き合って日も浅いので、際どい方向には行く事はないよね?

 ふと鏡を見ると黒のパンツにボーダーの細身のニット。寝癖が酷かったから縛ってコンパクトに纏めた髪。今日はこれに、黒のジャケットとコートを着てきていた。

 可愛いとも、色っぽいとも言い難い。これはそんな展開にはならないだろう。私は溜め息をつく。


 一時間残業した私は、待ち合わせ場所に行く前にファッションビルに飛び込んだ。

 シンプルだけど可愛いネックレスと、いつもより少し華やかな色のルージュを購入する。

 トイレでネックレスを早速身に付け、おニューのリップを使い化粧直しをした。鏡で自分の姿を確認して、まあこんなものかと頷き待ち合わせの喫茶店へ向かった。

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