お酒の後の煙草は美味しいモノ?
清酒さんの顔が顰めるように動き、『ん』という声が聞こえた。
私は清酒さんの顔を近づけ呼びかけてみる。ゆっくりと開いた目が私を認め丸く見開かれた。
私は清酒さんが目を覚ました事で身体の力が抜ける程放心する。そしてホッとしたら涙腺が緩んだようで、涙が自分の頬をつたうのを感じた。
清酒さんが私を見て慌てて起き上がる。
「タバさん!? 泣いてるの?」
私は彼が喋った事も嬉しくて、泣きながら清酒さんに抱きつく。
「もう、このまま清酒さんが死んじゃうんじゃないかと思って、怖かったの」
清酒さんは苦笑して、宥めるように背中を撫でてくれる。
「いや、大丈夫。俺、酒をウッカリ飲んでしまっても一時間くらい寝たらすぐ戻るんだ。それに急性アルコール中毒になる程にまでの量も飲めない体質だから」
私はブルブルと顔を横にふる。
「そんなの、量ではないかもしれないじゃん。私の所為でこんな事になって」
抱き付きながら泣きじゃくる私を清酒さんは優しく抱き締めてくれた。
「いや、恰好悪いな俺。これくらいで潰れるなんて」
私も清酒さんをギュウと抱きしめ返す。
「タバさん、もう泣かないで、大丈夫だから。それにこの……」
胸に顔を押しつけたまま私は首を横にふる。
「もし、このまま目覚めなかったら一生私が面倒みるという覚悟までしてたんだよ!
それくらい心配してたの」
私は少し落ち着き、清酒さんに向き合う為に身体を離し、手で涙を拭う。
視線を上げると『へえ~』と言いながらニヤリと笑う清酒さんの顔がそこにある。
「一生面倒みてくれるんだ」
私はそこで、自分がかなり恥ずかしい発言をした事に気が付く。
「で、でも、もう無効だから! ソレは、せ、清酒さんが生還したから!」
必死で否定する私を、清酒さんは目を細め笑ったまま私を見つめている。
「生還って……でも、タバさん……。責任は感じて、悩んじゃってるよね?
先日の件でおあいこで良いのに」
私はその言葉に首を横にふる。
お酒で酔っぱらって迷惑かけた。お酒に弱いというのを知っていながら飲ませてしまった。清酒さんはどちらにしても被害者である。
深く考えずにワインをそのまま使ったソースの料理を食べさせた、どちらも私が悪い。
「そんな必要ないのに……ならばさ、キスでいいよ?
それで今回の件はもう終わり! もう気にしなくていいから。それでいいよね」
私はその言葉に一瞬悩む。しかしあえてそういう言葉で許してくれようとしている清酒さんの気遣いが嬉しかった。
そっと首に手をまわし顔を近づけ軽くその唇にキスをする。私の後頭部に清酒さんの手がそっと添えられ抱き寄せられる。
お詫びのキスって、ただチュっと触るだけのものと解釈していたが違ったようだ。
唇を軽く触れ合わせ、離れようとしたが清酒さんの手が妨害していて戻せない。
清酒さんの唇が私の下唇を挟むように愛撫してくる。そのまま深いキスへと移っていき、私はそのまま目を開けたまま清酒さんのキスをうけてしまった。
酸欠の為か身体から力が抜ける。
改めて、前をはだけたあられもない恰好の男性に抱きしめられているこの状況に気が付いた。
清酒さんの呼吸を妨げるものを外しておこうとボタンを全て外したのは私……。そんな姿の清酒さんに抱きついたのも私。そもそもそういう状況になる原因を作ったのも私。
しかしこの状況は想定外の出来事だった。
そういう事をするのが嫌な訳ではない。ただ両思いを確認して一週間でコノ状況。いささか早いようにも感じるのは私だけなのだろうか?
「あの、清酒さん……ご飯……途中だったよね? お腹すいているよね? 食べない?」
近すぎる位置にある清酒さんの顔にドキマキしながら私は声をかける。
目を反らすが近すぎて、視界の中から清酒さんが外れることはない。
「それも悪くないけど、それよりもタバさんが欲しいかな」
ニッコリ笑い、再び清酒さんはキスしてくる。さっきのよりさらに深くエロいキスを……。清酒さんの舌と唇に翻弄されて思わずボウっとしてしまう。
私は心臓が口から飛び出す程ドキドキして動揺しまくっている。チラリとみる清酒さんの顔は冷静。しかしいつもとは違って目力が熱いというか、何か色っぽいというか何というかエロっぽい。
私の頬をさっきから撫でている指がいつもより熱い気がする。
「も、もしかして、清酒さん酔っぱらっていますよね?」
私は頭にふと浮かんだ考えを口にして聞いてみる。清酒さんはフフと笑った。
「酔っぱらった勢いで、こういう事をするような男に見える?」
多分そういう人ではないような気がするので私は首を小さく横にふった。
酔ってない証拠に清酒さんお目はトロンとしていない、寧ろ爛々としている。
「でも……お酒を呑んだ後に、煙草が欲しくなるっていうのは本当だったみたいだね。酒も煙草もしないから分からなかったけれど。スゴく煙草が欲しい」
やはり、酔っぱらっているんだろうか? こういう事を言ってくるのは。
「さっ酒に煙草って、メッチャ身体に悪いですよ! 喉渇きませんか? お水とかいりません?」
清酒さんはお酒を呑んだ訳でも、煙草を吸おうとしている訳ではないけれど、そうまくしたてる。
「顔が真っ赤。タバさんの方が酔っぱらっているみたいだ」
話を逸らそうとしたのに、全然清酒さんが逸れてくれない。視線も会話も、私の方に向かったまま。
「私はお酒じゃなくて、清酒さんに赤くなってるの!」
私の言葉に、クスクスと笑いながら清酒さんは顔を寄せてくる。
私は今度は目を閉じてキスを待ってしまう。だんだん抵抗する事の意味もよく分からなくなってきた。
「俺も酒じゃなくて、タバさんでこういう気分になっている。同じだね?」
そのまま直ぐにキスされてしまったので、答えが言えなかった。
キスをされてだんだん身体奧が痺れてくるような感覚が湧き起こる。私は言葉で答える代わりに、腕を上げ清酒さんの背中に回しギュッと抱きし目返す。
私からもキスを返し意志を伝えた。それがちゃんと通じたのようだ。
清酒さんの私の頬や耳を撫でていた手がゆっくりと首へと胸へと降りていく。私の身体はカーペットにそっ優しく横たえられた。
時期早々? そんなのもう関係ないや。互いが求めているなら、他に理由なんていらない。
覆い被さってくる清酒さんを向かえるように腕を前に広げて待ち受けその背中を抱き締めた。