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私はコレで煙草を辞めました?  作者: 白い黒猫
第三種接近遭遇
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転結の曖昧な物語

 ダークブラウンの色を帯びた部屋に珈琲のアロマが広がる。美味しすぎる朝食に胃が満たされた為か、この珈琲の香りの為か、精神はかなり落ち着きを取り戻した。

 清酒さんの表情も最初に比べ和らいだようにも見える。希望的願望がそう見せているなかもしれないけど……。

 私は清酒さんから珈琲を、お辞儀しながら受けとった。清酒さんが自らおとして淹れてくれたもの。

 テーブルとソファーがこの部屋にある。しかし私がソファーの前の床に座っている事もあり、清酒さんもテーブル越しの床に座って向き合った。

 清酒さんが、一口珈琲を飲んでから私を真っ直ぐ見つめる。


「で、何があってあんな状態まで酔っぱらったのか、教えて貰おうか? それとも酔うといつもああなるとか?」


 私は慌てて首を横に振る。

 そもそも記憶飛ばす程酔っぱらったのは初め。半ばそんな状況は都市伝説のようなもので、私にも関係ない事だと思っていた。

 今『あんな状態』とはどういう状況だったのかというのを、聞くのは非常に躊躇われる。

「この度は、清酒さんに大変なご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 清酒さんは目をスッと細める。

「迷惑ってどの部分に対しての言葉?」

 グッと私は、言葉に詰まる。昨夜の私の記憶に清酒さんという要素はまったくない。どう清酒さんと関わり迷惑をかけたか見当もつかない。従って何に対して謝罪すべきか悩む。

「さっきさ、コート着込んでいたってことは、黙って逃げようとしていたの?」

 ギクリと肩を強張らせてしまう。

「清酒さんの部屋だとは分からなかったから……」

 清酒さんは大きく溜め息をつく。

「……どの辺りから記憶がないの?」

 その言葉に私はジッとコーヒーカップを掌で抱え考える。それにしてもお酒って怖い。

 ぼんやりしていて昨晩の事の後半部分が殆ど思い出せない。

 私の事をジッと観察するように清酒さんが見ている。その視線にどんどん追い詰められてしまい、ますます焦り思考が纏まらない。

「ずっと一人で呑んでいたの?」

 私は首を横にふる。

「いえ、今度取材する事になったお店の人と」

 清酒さんは、不信そうに眉を寄せる。

「仕事で呑んだというのに、あんな状態になるのか?」

 確かに、そう思われても仕方がないだろう。泥酔してしまったようなので。

「いえ、それが、チョット私にとって特殊な相手だったので。昨晩だけがおかしかったという感じで……」

 清酒さんの目が疑わし気な感じで、ギロリと私を睨んでくる。

「ほら、清酒さんも良く利用しているパン屋さん、ドゥーメチエの人で」

 清酒さんはマグカップをテーブルに置き、背筋をやや正し腕を組む。この姿勢は真面目に聞こうというものなのだろうか? それとも、もう聞いてられないというポーズなのだろうか? 

 視線は私から離れない所からみると、聞いてくれる気はあるのだろう。私は言葉を続ける。

「その店長さんの妹さんと呑みに行ったのですが……。

 それがいささか……。

 私にとって特別な意味をもつ相手でして、それで何故か半端なく盛り上がってしまい……」

 私はそこまで話をしていて、鈴木玲奈の事をどう説明したら良いのかと改めて悩む。


 鈴木玲奈と私の関係を説明するのは難しい。

 彼女を説明する際に必ず避けて通れない人物がいる。それは鈴木隆史、私の大学時代の彼氏である。

 私がバイトしていたファミレスで知り合い付き合う事になった。

 彼を一言で表現するとお笑い芸人みたいな人。太い眉にギョロ目という愛嬌のある顔で、いつもみんなの中心にいて周りを楽しませている。そんな感じの人物。

 何故か私とはボケとツッコミというコンビができあがっていた。そのままお店の仲間公認のカップルとなりお付き合いを始める。大らかだし明るいし、彼との恋愛は笑いも尽きなくてとにかく楽しかった。


 そんな彼の携帯に、しょっちゅう電話をかけてきたのが『鈴木玲奈』。

 最初見たときは良い気持ちはしなかったが、『ほ、ほら、苗字も一緒だろ! 妹だよ』という彼の言葉に納得して、気にする事を止めた。

 彼曰く『お兄ちゃん子で、甘えん坊で困ったヤツ』という妹。そんなに慕う妹がいるという事で、ますますいい人なのだなと、無邪気に思っていた。

 鈴木玲奈は私の働いていたバイト先にもやってきた。

 兄がやや残念な顔をしているだけに、妹がかなり美人な事を驚いたものである。

 彼は妹がバイト先に来ると照れているのか慌てて、私に紹介もせずに速攻追い払うように帰らせる。その段階で気が付くべきだったのかもしれない。

 でも、おちゃらけているようでも仕事は真面目。仕事仲間にもお客様にも感じよく接する彼を見ていたから。

 人を騙すような人には見えなかった。だからこそ全面で信頼していたし付き合ったし、甘える事もできたのだと思う。


 付き合って一年チョットという時に、鈴木隆史の誕生日を迎えることになった。私は一日一緒にいて彼を思いっきり祝ってやりたいと考える。

 彼は『大学のサークルの仲間にお祝いしてもらうので、日中は駄目なんだ。でも夕方からは会えるから!』と言われてしまう。

 まあ社交的な性格から友達も多いから祝いたいという人も多いのだろう。

 私はそこで誕生日サプライズを計画することにした。早めに彼の部屋に行く。合い鍵で入り手料理を作り待ち構え、二人っきりで盛大にお祝いをするつもりだった。


 スーパーで料理の材料を買い、ケーキ屋さんで誕生日ケーキを用意して彼の部屋に向かった。そして鍵を開けて入った段階で、なんか違和感に気が付く。

 中に既に人がいる? しかも一人ではないようだ。そしてリビングで彼が妹である筈の人と裸で抱き合っているという衝撃な現場を目撃してしまう。

 パニックになってその後の事は覚えてない。気が付いたら、靴も履いてない状況で知らない公園で泣いていた。

 その最悪の思い出が頭に蘇り私は首をブルブルと振る。


「特別な意味のある相手って? 知り合いだったの?」

 清酒さんの静かな声で我に返る。私はその言葉に顔を横に振る。

「元彼の妹だった筈なのですが……」

 私はそこまで言って、気を取り直すために深呼吸する。

「実はその彼のもう一人の彼女だったという感じで……」

 清酒さんは『えっ』と言葉をもらし、目を見開く。

 浮気をして自分を裏切った恋人とその相手が共に鈴木。その事が私を大の鈴木さんアレルギーにしてしまった要因なのだ。

「なんで、そんな相手と呑みにいくの? 盛り上がるって、まさか取っ組み合いの喧嘩とかしたわけ?」

 私は首を横にふり、昨日の覚えているまでの顛末を恥ずかしいけれど話し始めた。


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