恋人達の朝
私はソファーの前で正座して、キッチン部分で作業している清酒さんの背中を見つめていた。
事情が分からず取りあえず謝る私。清酒さんが何か言おうと口を開けたタイミングで、私のお腹が空腹を訴えてしまったのだ。清酒さんも流石に面食らった顔になり、苦笑して大きく溜め息をつく。
「朝飯を食べてからゆっくり話を聞かせてもらうよ。その前にコート脱いで顔でも洗っておいで」
そう言い、洗面所に私を案内して棚からタオルをだし離れていった。
化粧したままで寝てしまった。お陰で凄い有り様になっている顔と頭に愕然とする。洗顔をして髪を一旦ほどき手櫛で必死に整え固く捻って纏めてゴムで結わえた。
このままだと素っぴんを晒してしまう状況。しかし私はその事に気が付けなかった。
ボロボロな姿を何とか小サッパリさせたと言うことで一先ずホッとしたから。
おずおずと部屋に戻ると、肉とチーズの焼ける美味しそうな香りが漂っている。清酒さんはコチラをに背中を向けてコンロに向かってフライパンで何か作っているようだ。
「お手伝いしましょうか?」
そう声をかけてみる。
「座っていて、手伝いがいるほど、凝ったモノはつくってないし」
冷たく素っ気ない口調で断られると何も言えなくなる。
コンロの火を止めて、トースターからパンを二枚だしまな板の上に並べ何かしているようだ。
完成したのか、皿を手にやっと振り向いてくれる。
二枚のお皿をテーブルに置き、直ぐに冷蔵庫の方に向かう。こっちを見てくれない為に視線が全然合わない。
私は仕方がなくテーブルに置かれた皿に注目することにした。
カットしたトマトときゅうりが添えられたサンドイッチだった。
カリッとした感じの六枚切りの食パンに挟まれたものはチーズと牛肉を炒めたモノ。見るからに美味しそうだ。というかこの組み合わせで不味い訳がない。
ふと、視線を感じ料理から清酒さんへ視界を移動させた。口元を弛ませ面白そうなモノを見ているような表情をしている。
しかし私と目が合うと笑みがひき元の怒っているような顔に戻ってしまう。野菜ジュースの入ったコップが私の前に置かれた。
箸やらフォーク等のカトラリーを纏めていれているマグカップがテーブルのまん中に置かれる。やっと清酒さんはテーブルに落ち着く。
恋人二人が初めて迎える朝に作って貰った料理としてかなり良い感じのメニューな筈。しかし嬉し恥ずかしいドキドキした歓びがここには全くない。恥ずかしいとドキドキは確かにあるが、かなり意味が変わってしまった。
「どうぞ」
短くそれだけ言い、清酒さんはジュースを一口飲み、手でサンドイッチを掴み食べ始める。
私は両手を合わせお辞儀して『頂きます』と挨拶する。清酒さんにならいジュースで口を潤してから、サンドイッチを頂く事にした。
美味しい!
チーズの絡んだ牛細切れ肉に黒胡椒の刺激が加わり大人な風味を出していた。またサンドイッチ用のパンではなく普通の厚さのパン。その事が濃い味の具とのバランスもとれているようだ。
「清酒さん!」
突然、名前を呼んだ私にビックリしたように清酒さんは顔を上げる。
「コレ、凄く美味しいです! 私、感動しました」
ブッ
清酒さんが吹き出す。そして『イヤイヤ』と首を横にふる。
「冷蔵庫の余り物だけで作ったモノで、そこまで言って貰えるとは光栄だ」
口調とは違い、顔は苦笑いをしている。立場弁えず能天気な発言をした私に呆れているのかもしれない。私は自分の置かれた状況を思い出し俯く。すると清酒さんはいつもの優しい笑みを浮かべてくれた。
「作ったものを、美味しいと言って貰えたのは嬉しいよ。逆に悄気た顔で食べられる方が嫌だし」
私は頷き、食事を再開する。しかし何だかの迷惑行為の加害者と被害者。話が盛り上がる訳もなく。
私は静かに美味しさを噛み締め、この美味しい朝食を作ってくれた清酒さんに感謝することにした。
コチラで清酒さんが作った料理? のレシピを拍手において紹介しています。もしご自宅でも作ってみたいという方はどうぞご参考になさってください。(そんなの読まなくても、作れると思いますが)