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私はコレで煙草を辞めました?  作者: 白い黒猫
第三種接近遭遇
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謎多き状況

 カーテンが少し開いているようで、そこから差し込む朝陽が眩しかった。

 私はベッドの中でその光の筋を避けるためにふとんを頭まで被った。再び眠りの世界へと戻る事にする。

 この季節の布団の中はまさに楽園。どこまでもやさしくそして心地良く私を抱きしめてくれる。


 ピピピピピピー


 困った事に、目覚ましの電子音という異物がその楽園に飛び込んできた。私は枕元のテーブルにあった黒い目覚まし時計を手にとり、その音を止めて文字盤をみる。

 七時か、そろそろ起きないと……。

 そう思って起き上がろうとして、激しい痛みに頭を押さえた。理由は昨日飲んだお酒なのだろう。二日酔いになる程まで飲んだのって久しぶりである。

 昨日は流石に飲み過ぎたのかもしれないと反省した。

 気を取り直して気合いを入れ起き上がろうとして、昨日が金曜日だった事を思い出す。という事は今日は土曜日、会社はお休みならば、まだ起きる時間でもない。

 目覚ましの所為で、無駄に起こされた事に若干苛立ちながら再び眠る事にする。

 しばらくウトウトしていて、ある違和感に気が付く。

 この目覚まし時計は何?

 枕元に転がったままの黒いデジタルの目覚まし時計を繁々と見つめる。

 時計は七時十五分と私に時間を教えてくれたが、私が感じている違和感の答えは教えてくれない。

 見慣れぬ目覚まし時計によって起こされたという事以上に、何か大変な事になっている自分に気が付いた。今さらだけど。


 ダークブラウンのカバーのかかった掛け布団とベッドマットに黒のフレームのパイプベッド。布団カバーと同じような色に黒の幾何学模様の入ったカーテン。フローリングの上に敷かれた黒の丸いカーペット。

 この部屋が私の部屋でない事だけは確か。

 ベッドサイドのテーブルを見るとビジネス書が数冊積まれている。

 壁に備え付けの棚に目をやると木彫りの猫の人形がCDとかと一緒に置かれていた。

 女の勘ではあるが、この部屋の主が女性ではないと感じる。

 誰の部屋? 此所で何故私は寝てるの?

 私は改めて、根本的な問題点について考える。しかし、軽くパニック起こしている所為だろうか?

 昨日の記憶がゴチャゴチャとなっていて思い出せない。私は先ず自分の服装をチェックしてみる。

 上着はないものの、ニットにパンツは昨日のままで、何か乱されたという形跡もない。とりあえずその部分にホッとする。

 こういう時は慌てたら駄目だ。深呼吸して落ち着いて、ゆっくり思いだそうとすることにした。

 私は自分に言い聞かせ、まずは大きく息を吐いてから思いっきり吸う。それを数回繰り返していくうちに少しは落ち着いてきたようだ。

 昨日の記憶の最後の方が曖昧で、何故此所にいるのかが良く考えても分からない。

 今は寝ぼけている所為もあるのだろう。遡る事で思い出せないならば、物事を順序だてて思い出す。

 記憶も今に繋がって行くはずと考えて、私は記憶を巻き戻す事にした。さて、どこまで、巻き戻せば良いのだろうか? とりあえず私の中で大きな事件ともいうべき事がおこった月曜日まで記憶を戻してみる。


 『近場でデート企画』の取材の打ち合わせに私はあるパン屋さんを訪ねる事にした。

 ちなみに第一弾のテーマは花見。そこで花の名所と共にピクニックの御供として、美味しいパン屋さん等を紹介することにした。

 その一つが清酒さんもお気に入りのドゥーメチエというパン屋さん。店長と電話やメールでのやり取りの末、取材の許可を頂きその打ち合わせを行ったのがその日だった。


 店長は鈴木悟という段階で嫌な予感はしていた。

 日本に鈴木さんという人物は五万といるというのに、私は必要以上に鈴木という人物を苦手とする。鈴木アレルギーなのだ。

 鈴木さんを警戒してしまうのは、私個人の問題でそれでは不味い事なのは分かっている。

 全国の鈴木さんに失礼なのも理解している。理性ではどうしようもない状況だから仕方がない。

 店長の鈴木悟氏は誠実な人というのを絵に描いたような雰囲気の真面目で柔らかい物腰の男性だった。

 恐らくは『鈴木』という苗字でなければ間違いなく私は好感をもって接していたと思う。

 私は内面のドロドログシャグシャした感情を必死に隠し、鈴木悟氏と具体的な取材方法について話し合っていた。

 お客様がひっきりなしに来る中、その合間を縫っての状態。なかなか話が纏まらない。しかし買いに来るお客様の様子。それに対応する鈴木氏やバイトさんの態度。それらからこのお店が本当に良いお店なのはよく分かる。

 そこに外から配達にいっていた店員が戻ってきた。私はその女性の顔を見て一瞬顔から笑顔が引くのを感じた。

 サラサラのロングヘアーをポニーテールに纏めたその女性。ハッキリした目鼻立ちをした華やかな顔の美人。

 相手も私の顔を見て、少し首を傾げる。そして鈴木氏から私の紹介をうけると納得したように頷き、何故か嬉しそうに笑った。

「煙草わかばさんって、あの煙草わかばさんですよね? 青葉大に通っていて、ファミレススカイパークで働いていた、あの煙草わかばさんですよね? 私は鈴木玲奈です」

 私が何も言えず固まってると鈴木玲奈は眉をよせ困った表情になった。

 同姓同名で逃げるには、私の名前は特殊過ぎる。相手がこの世で二番目に会いたくない『鈴木さん』だったとしても。

「覚えてなんてないですよね……」

「いえ、覚えてます」

 というか忘れられる訳もない。

ファミレス(お店)の方に何度かいらしてましたよね」

 私の『覚えているという』言葉に相手が顔をやや強張らせるので、しなくても良いフォローをしてしまう。

「ずっと会いたかったの! あれからどうしているか気になって……」

 私はその言葉を、どう受け取るか悩んでしまう。

『私は、出来る事ならば、一生会いたくはなかったです』

 そうも言い返す事も出来ず、私はただぼんやりとと、笑いかけてくる彼女見つめ返す事しかできなかった。


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