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私はコレで煙草を辞めました?  作者: 白い黒猫
第二種接近遭遇
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自分で破ったルール

 羽毛田(はげた)編集長から井上(いない)先輩と共に呼ばれた。

 先日の私がプレゼンした『地元でデート』の企画を始動させるという話を知らされる。しかも五月から四ヶ月連続掲載企画という。

 私の努力ウンネンというよりも、最初からこのデート企画は決まっていたのを察した。

 私をその担当として相応しいかというというテストの為のプレゼンだったようだ。

 私が探っていた提携先以外の企業やイベントが用意されている。花火大会とか、ジャズコンサート等といったコラボレーションする相手が最初から決まっている。

 プラス私がどれ程の切り口を見いだしてくるかというのが編集長が見たかった所なようだ。

「市の広報部とか、ミューザーホールの担当者は井上くんは過去に何度も会った事がある。タバちゃんの力にもなれるだろうから、手伝ってあげてよ」

 井上先輩は、まだ引き続き私のサポート役として呼ばれたようだ。

「はいはい、いつもタバちゃんには手伝ってもらってるから、そのお礼も兼ねて頑張ります」

 まだまだ、私のお守りをしなければならない先輩。それなのに、そう言って私にニカリと笑いかけてくれる。

 私はその優しさに嬉しさを感じる。同時にもう甘えて頼るだけの事からも卒業しなければと心に強く思う。

 同時に初めて自分がメインで仕事を行う事に、強い緊張とそれ以上の興奮と喜びで心が震えた。

 これからこの会社で頑張っていく為にも、期待に応えなければならない。

「ありがとうございます。みんなに一人前と認めてもらえるように全力で頑張ります!」

 私は言葉でも、二人に自分想いを表現して意志をより強固のものにした。

 二人は、そんな私の真面目な言葉に何故かニヤニヤと人の悪い笑みだけを向けてくる。

 二人からしてみたら、こんな所で舞い上がり張り切っている私が他愛なく面白く見えるのだろう。でも感謝の気持ちとやる気は見せたかったから、そんな表情を返されたとしても構わなかった。


 自分の席に戻ってもまだワクワクなのかドキドキなのか分からないけれど鼓動が早い。

 気分を落ち着かせるために、給湯室にマグカップをもって新しい珈琲を注いでくることにした。

 珈琲をカップに並々と注いでいると、清酒さんの事が頭に浮かんだ。

 ポケットからスマフォを出す。メールで報告しようかとも思ったが、今夜会うことになっているのを思い出す。スマフォをポケットにしまい席に戻った。

 先程までやっていた資料を張り切って仕上げてしまう事にした。企画が始まるとしたらすることもいっぱいある。

 私はメインとなるコラボレーション団体の資料をジックリ読む。まず大雑把にタイムスケジュールを組んだ。

 プレゼンの為にプレ取材をした場所の資料と照らし合わせ、紐付けしていく。

 TODOリストを作成し、自分がすべき事を整理した。気が付くと、終業時間もとっくに過ぎていて六時半になっていた。

 私はそこで大きく深呼吸する。今日はこのくらいにしておくことにする。

 私の都合で勝手に長々残業する訳にもいかないからだ。それに清酒さんとの待ち合わせも七時半なので、そろそろ出たほうが良い。

 会社を出て、私は駅ビルに向かいレストルームに向かう。

 一心不乱で仕事をしたせいか、纏めていた筈の髪もアチラコチラ解れ凄い事になっていて唖然とした。

 私は一旦髪の毛を解きといてから、ブラシで整えてからねじりもう一度綺麗に纏め直す。

 崩れきった化粧もシッカリと直してから、一旦鏡の中の自分に笑いかける。

 よし、大丈夫! 待ち合わせ場所に向かう事にした。


 清酒さんも忙しい人なので定時に終わるという事はなく、だいたい七時半から八時に待ち合わせになる。

 待ち合わせは若葉台の駅近くAttendreという喫茶店。ここはガラス張りである事と店内が見通しが良い事から待ち合わせに最適だからだ。

 喫茶店を見渡しても、清酒さんの姿は見えなかったので、私は空いている席に座り珈琲を注文した。

 手帳を取り出し、デート企画についてのアイデアを書き出し纏める事にする。そんな事を十分くらいしていた頃だろうか? 肩を叩かれ顔を上げるとそこに清酒さんが立っていた。

 いつもの柔らかい笑顔が、何故か少し驚いたような表情になる。

「清酒さんお疲れさま……どうかしました?」

 私の言葉に、清酒さんはフフと笑いながら首を横にふり私の前の椅子に座る。

「いや、何でもない。お疲れさま。ゴメン待たせてしまったね」

 なんか気になる。なのでチロリと見上げてしまった。そのタイミングで清酒さんの珈琲が運ばれる。入店した時に注文していたのであろう。

「いや、なんかやけに嬉しそうな笑顔で迎えられたので」

 そんなに驚く程の顔で迎えたのだろうか? 私は恥ずかしくて俯いてしまうが視線だけを上に向け清酒さんの表情を伺う。

 ニヤニヤと営業している時にはあまりしないような表情で笑っていた。

 確かに清酒さんに早く報告したくて待っていた。

 会えたのも嬉しい。でもそれが顔にストレートに現れていたとは、私はなんて子供っぽいのだろうか?

 清酒さんの言葉に、私は顔が赤くなるのを感じる。

「いや、嬉しかったから。何か良い事あったの?」

 私はその言葉に、一番に伝えなければならない事を思い出し顔を上げる。

「そうそう、あの企画採用になったんです! それを報告したくて」

 清酒さんは私の言葉に目を見開き、そしてフッと笑う。

「なるほど。おめでとう、今日は前祝いしよう」

 私は顔を横にふる。

「いえ、だからこそ今日は私に奢らせて下さい!」

 清酒さんは、その言葉に少し困ったような悩んだような顔をする。

「もしかして、女性に奢られるのは嫌なんですか?」

 そう切り出すと、清酒さんは人の悪い顔でニヤ~と笑う。

「いや、そういう訳でもないけれど……。

 今日は安いお店で気兼ねなく楽しむか、高級店で豪勢にいくかどちらにすべきかな? と思ってね」

 私は、今が給料日前の事を思い出した。それに私の安月給では、豪勢にと言われても困る。

「安くて美味しいお店でパァ~と楽しみましょう」

 清酒さんはニコリと笑い頷き、珈琲を手に一口飲んだ。

「ならば、君が見事企画を成功させたら、打ち上げは俺の奢りでパア~としよう」

 私の会社では記事企画が進行して終わるなんて日常な事なので、そんな打ち上げなんてしたことない。

 しかし私の仕事をこうして見守って応援してくれる人がいるのも嬉しい事だと思う。

 ますます私の中のやる気が膨らんできて、私は元気に頷く。


 私はテーブルの上の伝票がさりげなく消えていた事も気付いてなかった。

 私が気が付く前に、清酒さんは珈琲代を二人分さっさと払ってしまっていた。

 私が自分の珈琲代を渡そうとしても『ご飯ご馳走になるんだから、コレくらいは払わせてよ!』と言われあっさり断られてしまう。

 今まで私が必死に守ってきた割り勘ルールが、この日を境に見事に崩れ去った瞬間だった。

 それを破ったのは自分からだっただけに『ご馳走様でした』と言う事しか出来なかった。

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