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模擬戦闘

「……ライ……」

「え!?」

 突然話しかけられた。話しかけてきたのはヴィンセント。今までニヤニヤしていながらも品定めをしていたような目だったにも関わらず、今はなぜか笑いを堪えてるような顔をしていた

「な、何?」

「あんさんは間違っとる」

 どういうことだ?何を言ってるのだろうか、こいつは……

「何を言ってるのか分からんようやけど……あんさんはここに入ってきた時点で間違った行動をしとるってことや」

「どういう……ことだ……?」

 何か間違った行動をしたか?俺はただたんに自己紹介をしただけだ。同じソフィア様奪還作戦をする仲間として当然の……最低限のことじゃないのか?

「はぁ……」

 俺が全く分からずにいると、ついには呆れてため息をついたかと思うと……口の中にあったガムを突然飛ばした。そのガムは一直線に俺の横を通り過ぎ、その先にあったゴミ箱に入った

「な……」

 正直、凄いと思った。日常生活には全くの価値もないけれど、まるで『これが俺の実力だ』と言ってるような、まるでその腰の銃でも同じ……いや、それ以上の正確さで打てると言ってるような気がした。事実、俺が一瞬ゴミ箱を見て再びヴィンセントの方へ振り向いた時には、いつの間にか両腰のホルダーから銃は抜かれ、2丁の銃口は俺の方向へ向いていた。そして、ヴィンセントの顔からニヤニヤは消えて、本気で殺す気のような目をしていた

「もし俺が敵なら……あんさんは既に蜂の巣や」

 異常だと思った。いきなり銃を向けられるとは思ってなかった。この4人は仲間のはずだと思っていた

「仲間に武器を向けるわけがないって顔をしとるが……ここにいるから仲間ってわけじゃないんや。裏切り者がいないなんて保障は誰ができるんや?」

 そう言われればそうなのだが、そんなことを言えば全てが疑わしくなってしまう

「これは先輩からの忠告や。信じるなら信じるに値するだけのことを証明してから信じろ。自己紹介なんてその先や」

 ヴィンセントは未だに殺す気の目で言ったかと思うと……突然『まあ、』と腰に銃をしまい、ニヤニヤ顔になって話だした

「ライの場合は弱者なうえに考えてることが顔にでるんや。この2つで裏切りものではない、または裏切ってもすぐに殺せるってことで信用するんやけどな」

 ヴィンセントはニヤニヤ顔に戻ったが、顔にははっきりと裏切れば容赦なく殺すと書いてある。信用するとは言っても、それは自分を殺しはしないという信用。そして、殺されかけても、咄嗟の判断だけで俺を殺し返すことができるほどの力の差を認識しているということだ。

「それに比べてそこの2人。クリスさんとアランさん……やっけ?お2人さんは信用できへんな」

 ヴィンセントはニヤニヤ顔のまま2人を見る。しかし、2人はそんなことは気する様子はない。そしてヴィンセンはため息をまた1つつき、自分のバックから何かを取り出そうとし……目にも留まらぬ早撃ちでアランに向けて弾を撃った

「危ない!」

 俺が叫ぶのと弾が壁に当たるのはほぼ同時だったと思う。しかし、アラン本人はそんなこと気にしないのか、全く気にせずに動かなかった。弾が当たらないことが分かったのか?

「……ヴィンセント。次は斬る」

 アランは小さくそう言ったものの、静かな船内では思った以上に音は伝わり、はっきりと殺気を込めているのが分かった。もし俺本人に向けられていたなら確実に腰が抜けているだろう。しかし、ヴィンセント本人はそんなものは気にならないのか、全く動じずに既にバックの中を漁りながら「はいはい」と適当に返事をしていた。

 これからどうなるのだろうか。こんな異常者集団の中で2週間暮らせるのだろうか

「まあライ。俺からすればあんな危険なオッサンや俺が撃ったのすら気にせずに整備するねぇさんよりあんさんの方が安心して仲良くできるんや。よろしくな」

 俺としてはヴィンセントもアランもクリスも危険人物に変わりはない。……けど、一応は俺に対して敵意を向けない……というより、向ける気さえ失せるほどの雑魚という認識なのだ。一定の距離を保った仲は維持すべきだろう。それに、他の2人と比べて喋る方ではあるようなので、俺としてもやりやすい。

「それで、ライはなんでこんな作戦に参加するんや?」

 前言撤回。2人と比べるまでもなく、喋りたがりのようだ。

「悪いけど、秘密だ」

 ただ、だからと言って夏海のことを話すわけにはいかない。話しても信じないだろうし、変に思われるのも嫌だ

「そうかそうか。まあ、何でもいいわ。どうせ失敗する作戦や。残り少ない命を大量虐殺して終わらせたいだとか死ぬときは国を発展させてくれたソフィア様のために死にたいとかそういうのやろ?」

 後者は当たらずも遠からずだ。夏海を助けたい。けれど、死ぬ気はない。

「ま、どちらが目的やとしても、他の目的やとしても、さっさと死んだらつまらんやろ。少しでもその腰の剣を使えるようにするんやな。そのヒョロヒョロな体じゃあすぐ死ぬわ」

 まるでそんな姿もそれはそれで見るのが楽しみだという声でそう言うと、ヴィンセントはベットに横になり、すぐに寝息をたてはじめた

 これからどうしよう。残りのアラン、クリスとは仲良くできそうもない。ヴィンセントに言われたように少しでも剣を振っておくか?確かここより2階下に行けば奪還作戦に参加する人専用の訓練所があったはずだ。

 俺は立ち上がるとドアを開けて部屋を出た。2人に声をかけようかと迷ったが、声をかけてもどうせ返事は来ないだろうと思い、黙って出た。

 目的の場所に着くと、予想していたのとは違う光景があった。そこには人が1人入れるほどの球体がいくつも置いてあり、それら1つ1つに番号が振ってあった。入り口近くに張ってある紙を読んでみると、説明は簡単だった。

 近くにある機械で登録し、今空いている所を確認。その後、その球体に入ると本人の情報が全てインプットされ、バーチャル世界に投影される。そこで戦う敵を設定し、戦う。ただそれだけだった。安全に実践ができるというわけだ。もちろん、怪我を負えばそれと同等の痛み。即死の場合などは軽減されるが、あくまでも現実感を出すために痛みもなるべく再現されるらしい。

 俺はすぐに空いてる機体を探し、それに入った。中は狭く、1人用の椅子が1つあり、楽にできるようになっていた。俺はそこに横になり、説明通りに準備をしていった。すると、すぐにバーチャル世界に入れた。そこは何もない空間だった。真っ暗で、まるで影と出会った空間。それを思い出した瞬間寒気がしたのでとりあえず忘れることにした。

俺はまずは少しでも刀を使えるようにするために簡単な動物からやることにした。

「ウサギ、キツネ、ライオン、クマ、ニワトリ、ヒョウ、チーター」

 何でもいた。ただ、どれも微妙な気がする。ライオンやヒョウに勝てるわけないし、ウサギやキツネだと実践的じゃない。凶暴性などを設定できるけど、やはり敵は人間。俺は敵の設定を人間にし、いろいろ調べてみた。その中に自分と戦うことができる項目を発見した。これなら実践的だし、そこまで力の差はでない。そう思い、まずはこれにした。地形は平らな草原にし、さっそく投影。投影すると暗闇は薄れていき、草原が広がった。俺は驚きと感動で辺りを見渡した。少し見とれていたが、土を蹴る音で我に返った。そこには錆びた剣を背負い、腰に刀を差した少年……つまり俺がいた。俺は刀を抜く。刀は背中の剣より軽く、片手でもギリギリ扱えそうだ。しかし、俺は両手で構える。相手も両手で構え、こちらの出を窺っている。俺がどうしようか迷っていると、突然、向こうからかけて来た。俺は突然のことに戸惑いながらも振り下ろした刀を刀で受け止める。設定の段階で多少凶暴性を上げていたために、俺が来ないので向こうから来たのだろう。そしてその所為なのか、容赦なく刀を振り下ろしてきた。刀と刀はカチャカチャと音をたて、一向に離れない。……いや、むしろ近づいている。力は同じだけれど、体勢の問題ややる気の問題がある。俺は思いっきり力を込めて敵を押し返し、構え直す。敵も数歩バックステップをするとすぐに構える。今度はこっちから攻めようと走り出す。そして間合いに入った瞬間、思いっきり振り下ろす

≪ザクッ!≫

 何かを刺す感触と音がする。一瞬、俺は人を刺したんだと認識し、吐き気がした。しかし、すぐにその認識を改める。目の前にあるのは土だけ。そして土には俺の刀が刺さっている。突然、真隣で土の音がした。避けた。斬られる。敵を見る前にそう考え付き、前転するように前に飛び込む。その勢いで刀は地面から抜け、俺は1回転する。俺はすぐにさっきまでいた位置を確かめてみると、予想したとおりそこには刀が刺さっていた。アレなら、動かなければ真っ二つにされていただろう。思った以上にこの刀は切れ味がいいようだ。俺はもう一度構えた。向こうは好戦的な設定なので、こっちが動かなければあっちが動くはず。なら、斬られる前にさっきの敵のように避け、思いっきり振り下ろして斬る。俺はすぐ避けられるように重心を移動させながら注意する。そして、予想通りに敵はこちらへかけて来る。そして残り数メートルの瞬間、敵は刀を振り上げることなどせず、そのまま間合いに入り、下から振り上げるように斬りかかる。俺は初めから避けて振り下ろす気でいたので自然と意識は刀を上げる方へいっており、咄嗟に行動したものの、腹の横に鋭い痛みが走った

「ぐっ……!」

 これが斬られた時に痛みなんだと分かった。一応は刀で受け止めたものの、体勢に無理があったのか、敵の刃はお腹に当たっている。致命傷になりはしないが、今まで怪我などあまりしたことがないうえに、こんなところを斬られることなどなかった。お腹を切られるというのは予想以上に痛く、痛みで手に力がうまく入らない。それに、やはり180度ほど回した腕に無理があるのか、手首の骨も折れそうな感覚がある。敵はそれを分かっているのか、更に力を加えてくる。これ以上されれば本当に骨が折れるかもしれない。俺はそう思った瞬間、無意識に敵を蹴る。敵もそれを予想していなかったのか、避けることもできずに蹴られ、仰向けに倒れる。俺はすでに息が上がっており、敵が起き上がったときにようやく『起き上がる前に刀を刺せばよかった』と思った。敵の方はまだまだ体力があるのか、息1つ乱していない。少し好戦的なだけで、ここまで本人と差がでるものなのだろうか。それとも相手は機械だからか?俺はもう一度構える。そして、なるべく全ての場合を想定する。しかし、敵がゆっくり考えることなど許すはずもなく、すぐに敵はかけて来る。離れることを忘れていた俺は一瞬で間合いに入られ、首目掛けて飛んでくる切っ先を驚いて見ることしかできなかった

「がはっ……」

 咽にありえないほどの痛みが来た。死ぬ。そう思えるほどの痛みだった。俺は倒れ込み血を吐く

「ごほっ!ごほっ!」

 しかし、死ぬことはなく、すぐに痛みは引いていく。

「はぁっ!はぁっ!」

 首に手を当ててみる。手に血はつかない。けれど、俺の体のすぐ下には血に染まった草が大量にあった。乱れた息のまま前を見る。目の前には背を向け離れていく自分がいた。そして俺と一定の距離を取ったかと思うとこちらに向き直り、刀を構えた。おそらく、俺は戦闘不能と判断し初期位置……というより、設定距離まで離れたのだろう。俺は立ち上がり、刀を構える。流石にバーチャルの世界。俺が瀕死と判断するやいなやあがっていた息もすぐに回復し、元の万全の状態になった。そして万全になったと自分でも分かった瞬間、敵はかけて来る

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