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白銀の剣

「くっ!」

 何も見えず、再び暗闇となった。しかし、今度の暗闇は瞼の裏の光景。俺は次第に目が開けられるようになり、ゆっくりと目を開けた。

 すると、そこには湖があった。目の前に湖。その中央には祭壇のような建物があり、そして背後と左右には森。まるでさっきまで迷っていた森を抜けたみたいだ。俺は歩いて湖に近づいた。湖を覗くと、自分の顔が写った。鏡に反射されるかのように、はっきりと映った。普通ではありえないほどの綺麗な湖。そしてその湖にある祭壇は、ここから見えるだけでも綺麗だった。まるでここは時間が止まっているかのように、汚れがなかった。もしかしたら村の誰かが整備しているのかもしれない。そんな考えが頭をよぎったが、すぐにそれはありえないことだと理解した。ここは森の中であり、木は沢山ある。なのに、湖には葉が1つも浮かんでいない。いくらなんでもおかし過ぎる。しかし、不思議と恐怖はなかった。まるでここはそういう場所なのだと、頭で納得しているようだった。もしかしたら驚きの連続で理解が追いついていないだけなのかもしれないが、今の俺にとってはどうでもいいことだった。

俺は祭壇を眺めた。形はまるでピラミッド。しかし、三角形の頂点は平らで、中途半端な三角形だった。そしてここから見える正面に何段もの階段が湖から伸びて頂上へ続き、その両端はなだらかな坂となっていた。それはいくつもの石を積み上げてではできないほどで、1つの巨大な石を削って作られた物のようだった。

 そして、そこでようやく気づいた。影がいない。俺は辺りを見渡す。背後、森、湖、祭壇。どこにもいない。俺は森に入った。もしかしたら、森にいるのかもしれない。森を歩く。森の中は初めのように明るく、見通しが利く。俺は辺りを見渡しながら歩く。しかし、影はどこにもいない。とうとう、森を抜けてしまった。俺は仕方ないと諦め、そのまま村に帰ろうとして……足が動かなかった。

 目の前には湖と祭壇があったからだ。さっきと変わらない状態で、そこにあった。俺は確かに真っ直ぐ進んだはず。しかし、ここへ出てきてしまった。俺はすぐに振り返り、走った。辺りを見るなんてことをせず、真っ直ぐ走った。すぐに森を抜けた。しかし、目の前には依然として湖と祭壇が現れる。俺はその場に座り込む。……いや、正確には崩れ落ちた。ゲームなどで迷いの森などという場所がある。俺は今、そこにいる。そうとしか考えられなかった。俺は放心状態寸前でなんとか心を食い止めた。ここで放心しても意味はないと思ったからだ。その瞬間、目に光が飛び込んできた。正確には、見ている方向の先で何かが光った。その光は祭壇の頂上からきていた。

「なんだ……あれは……」

初めに見たときは見えなかった。いや、そもそも大きさ的に見えず、たまたま今回は光が反射しただけなのかもしれない。俺は光を手で防ぎながら、ゆっくりと湖に近づく。あの光がなんなのかは分からない。……けど、今はあそこにしか可能性はない。俺は湖に入る。湖は思った以上に浅く膝程度の深さしかなかった。俺は安心し、ザブザブと進んでいく。だが、その安心もすぐ不安へ変わった。祭壇に近づくに連れて、どんどん深さが増していった。足は侵食され、腰まで侵食され、ついには首まで侵食された。目算で祭壇まであと5メートル。しかし、思った以上に水を含んだ服は重く、水の抵抗も手伝って上手く進めない。

 なんとか祭壇まで着いた時には息が切れ切れで、その場を動けなかった。息が整うのにどのくらい時間を使ったのかは分からない。けど、明らかにずいぶん時間が経っていた。いつ頃から変化していたのか気づかなかった。いや、もしかしたら、突然変化しのかもしれない。とにかく、辺りが真っ赤に染まっていた。オレンジではなく、赤。空を見上げると、赤い太陽が輝いていた。改めて、ここが俺の知っている場所ではないことを知る。……いや、アリューさんたちのいる村でさえ、太陽は俺の知っている色だった。けれど、ここは違った。俺は未だに疲れている体に鞭を打ち、起き上がった。息は既に整っていた。問題は体力。思った以上に湖を進むのに体力を奪われた。

 俺は起き上がり、祭壇を見上げた。近くで見るとその巨大さが分かる。頂上が見えないほどとは言わないまでも、登る気をなくすには十分過ぎるほどの高さがある。一体、誰が何の目的でここを作り、影はここへ連れてきたのかは分からない。けど、俺には今、この祭壇を登るしか希望は残されていない。

 俺は階段に足をかけ、昇って行く。そして疲れたら休む。どれくらい時間が経ったのかは分からない。昇ってるとき、もしくは休んでいるときに突然、もしくはゆっくりと世界が暗くなったり、明るくなったり、赤くなったり、青くなったり、白くなった。規則性があったのかもしれないけど、疲れている俺にはそんなことを考える余裕なんてなかった。ただ、暗くなったときだけ止まる。それだけを守り昇る。途中から上は見ないようにした。もし上を見れば挫けるかもしれないから。

 そしてとうとう、俺は昇りきった。俺は最後の一段を倒れこみながら踏んだ。体力は限界。湖を渡ったとき以上の疲れが体を支配する。倒れている間、視界の端で何度も色が変わった気がする。もちろん、疲れていた俺に確かなことは分からない。

 30分ほど経った頃、ようやく動けるようになった。もちろん、時計などないので感覚だが、そのぐらい経った気がした。

 俺は立ち上がり、初めて頂上の景色を見た。まず初めに目に写ったのは輝く剣だった。実際に輝いていたのかは分からない。けど、光を反射するほど汚れのついていない刃。そして、この剣には鍔がなかった。更には、柄までもが鉄でできているかのように輝いている。……いや、もしかしたら、柄などなく、全てが刃であるのかと疑うほどだった。しかし、近づいてみるとやはり柄はあり、銀色の木刀を両刃にしたような感じだった。それが頂上の中央辺りに刺さっていた。俺は改めて辺りを見渡す。頂上は平らで、剣以外は何もない。瓦礫や葉すらなかったし、地面もひび割れすらなかった。まるでつい最近作られたかのような作り。俺は端の方へ行き、森を見る。森はどこまでも続き、村は見えなかった。

「さて…………どうするか……」

 ここに昇ればなんとかなるかと思ったが、そうではなかった。あったのは剣だけ。……いや、何かはあってくれたと思うべきか。人工物があるということは、一度は誰かがここへ来たことがあるということ。……あるいはあの影がここへ来たことがあるのかもしれない。だとしたらなぜ影はここへ連れてきたのだろうか。剣を俺に渡すため?考えられるのはそのぐらい。確かに今の俺には剣は必要なのかもしれない。夏海を取り返すためにも必要になるだろう。けど、影がなぜそのことを知っている?いや、もしかしたら、他に理由があるのかもしれない。

 考えても結局は分からない。俺はもう一度景色を見た。とりあえずあるのは剣だけ。俺は結局、剣の柄を握った。せっかく昇ったのだから、降りるにしても剣だけは持っていかないとただの骨折り損だ。俺は剣を思いっきり引っ張った。……しかし、思ったより深く刺さっているのか、片手では抜けない。俺は両手で掴み、思いっきり持ち上げる。その瞬間、さっきまで抜けなかったのが嘘のように抜け、仰向けに倒れてしまう

「いて~……」

 俺は剣を片手で持ち、ぶつけた部分を摩りながらもう片方の手にある剣を見て、驚いた。剣が錆びていっていたのだ。手で握っている部分から徐々に輝きを失うように、ゆっくりと。俺は驚きの余り剣を投げ捨てた。剣は地面にあたり金属音がしたが、錆び付くのは止まらない。そしてとうとう、剣の全身が錆び付き、さっきまであった光輝く剣はそこにはなかった。あるのは錆びた、今にも折れそうな剣。俺はゆっくり剣に近づき、持ち上げた。手が錆びることなんて、当然ない。握る前まではそのことを恐れたけど、そんなことはなかった。剣は重く、片手で振ることは難しそうだった。長さは俺の身長より短く、漫画などで見る一般的な剣と同じぐらい。違うのはやはり鍔がないことぐらい。俺はズボンのベルトを外し、剣と一緒に体に巻きつけた。長さはギリギリ足りて、うまく剣を固定できた。別に錆びた剣などいらないけど、なんとなく、このまま捨てていったらここまで来た意味がない気がしたのでとりあえず持って降りる。降りるときは昇るときと違い、楽に降りられた。聞いた話では昇りより下りの方が体力を使うらしいが俺は下りの方が楽に感じる。

 階段の真ん中あたりで初めて認識の甘さを感じた。この祭壇は湖に囲まれていたのだ。剣を背負っていない状態でも苦労したのに、剣を背負っている状態で渡れるのだろうか?不安に思いながらも、降りるしか道はない。頂上へ行っても、もう何もない。ついに一番下まで降り、目の前に湖が広がった。俺は決意を固め、湖に入る。そして、だんだんと腰、首と侵食される。剣の重さを加え、ゆっくりとでも進みながらあと少しというところで、足が滑った。……いや、違った。地面が消えた。足元にあるはずの土が消えた。突然のことに戸惑いながら、なんとか首だけを水面上にだそうとするものの、服の重さと剣の重さでうまく泳げない。しかし、なんとか泳いで岸に手をかけようとした瞬間――

「うわっ!」

 何かに足が引っ張られた。俺は湖の中に引き込まれ、なんとか上へ上がろうとするも足を引く力は強く、下へ落ちる一方だった。俺は足を引っ張っているものを外そうと引っ張っているものを見た瞬間、口から息が全部出てしまった。そこにいたのは影であり、その後ろには底の見えない暗闇。その光景はまるで死神が冥界へと連れて行っているように見えた。俺は必死でもがきながら足を掴んでいる影の手を外そうとするが、全く動かない。そしてとうとう、俺の息はもたずに気を失った。

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