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ソフィア

 目が覚めたときには見慣れない天井があった。木で作られた屋根。それは自分の家と同じなのに、どこか見慣れない。そこから自分がどうなったのかを思い出す。確か俺は神社にいたはず。その後、人の影を追いかけて中に入り、地震が起きた。そして……外に出ると落ちた。

 その考えに至った瞬間、俺は跳ね起きた。こうしてはいられない。ここはどこなんだ

「やあ、起きたんだね」

 突然声が聞こえ、反射的に声の方へ向いた。そこには30代……いや、もしかしたら40代ぐらいの男が立っていた。眼鏡をかけていて、背が高く、青色の目と髪をしていた。俺が40代だと思ったのは、顔はまだ若そうなのに顔には無精ひげのようにひげが伸び、髪もボサボサでやつれて見える。白衣を着ていることから医者と思えるけど、まだここがどこだかも分からない。病院ならこんな木造なわけないし、俺が倒れた神社の近くには1つしか病院はない。その病院にこんな場所はない。

「何か後遺症はないかい?見たところ外傷はなく、頭にたんこぶがあったから、頭を打ったんだろう」

 ……この人は何者なんだろう。そもそも、青い髪が地毛の人などいるのだろうか?もし染めているなら、医者がそんなことをするのだろうか?

「もしかして……喋れないのかい?」

 俺が考え込んでいると、医者らしき男性は椅子に座り、不安そうにそう聞いてきた。どうすべきだろうか。明らかに怪しすぎる男性。そして状況。……けど、ここがどこだろうと、とりあえず家に帰らないといけない。

「いえ、喋れます」

「ああ、よかった。黙ったままだから心配したよ」

 その顔は本当にホッとしたようで、心から俺のことを心配していたのが分かった。とりあえず、悪い人ではなさそうだ

「あの……それでここはどこなんですか?」

「どこ?何を言ってるんだ。ここはファーディスト・アイランドだよ。」

 ファーディスト・アイランド?

「君は……セントラル・シティーへ行くためにここへ立ち寄ったんじゃないのかい?」

 どういうことだ?ここは日本ではなくファーディスト・アイランド。アイランドということは島だ。俺は日本とは違う島に来た?……とりあえず、なんとか情報を集めないと

「あの……ここは地図のどこに位置しているんですか?」

「どこ?……失礼だけど、やっぱり君は……頭を打って記憶が変になっているんじゃないかい?」

 医者の男性はさっき以上に心配そうな顔をして俺を見てくる。……つまり、それだけこの島を知らないということは異常。これは……考えを改める必要があるかもしれない

「あの……今の自分の知識が正しいか確かめるために、今からの質問に答えてほしいんですけど」

「ああ。いいけど……」

 まずは何から話そう。……そうだな。まずは一般的な常識からだ。

「この世界で一番大きな大陸って……なんですか?」

 このぐらいの知識はこの男性ぐらいの年ならあるはずだ。

「セシルムさ」

「!……なら……ピラミッドや自由の女神って、分かります?」

 この2つを知らない人は滅多にいないだろう。……けど、これを知らなければ本当に考えを変えないといけない。そして――

「いや、知らないな」

 その言葉からも、表情からも、嘘をついているとは思えない。けど、セシルムなんて大陸は聞いたことがない。

「…………」

「どうしたんだい?」

 どうしよう。可能性としては2つある。

1つ目は初めから俺の知識が間違っている。頭を打ったショックで、おかしくなった。

 2つ目は違う世界へ来た。

 ……けど、2つ目の可能性より1つ目の可能性の方がよっぽど現実味がある。頭を打つ前の俺は相当な夢想家で、頭を打ったせいで妄想と現実の認識が逆になった。そう考えた方が自然だ。……少なくとも2つ目よりは……

「…………まあ、君の頭がおかしくなったのかは分からないけど、とりあえず自己紹介はしておくよ。僕の名前はアリュー。一応このファーディスト・アイランドの医者さ。もっとも、こんな老けたオッサンだけどね」

 アリューと名乗った男性は俺を元気付けようとしたのか、そんなことを言って笑っていた。それを見た俺も少しだけだけど元気になって、作り笑いをする余裕は出きた

「よろしくお願いします。俺の名前は…………」

「どうしたんだい?」

 そこで止まったのは名前を思い出せないからではない。俺の名前は驫木 恭介。……けど、この男性はアリューと名乗った。この世界が例え異世界だろうと、俺の認識が変になっただけであろうと、この世界は存在する。そしてこのアリューという名前に対して驫木恭介というのは明らかにおかしい気がする。

「名前……思い出せないのかい?」

 けど、この男性にどう言う?俺は違う世界から来たと言うのか?いや、それこそ俺の精神を疑われる。実際に精神異常ならともかく、あまりにも元の知識が豊富すぎる。もし単に頭を打つ前の俺が夢想家だったなら、おそらくここまでの知識はないだろう。それが否応なく可能性の1つ目を消してしまう。だからこそ、今は敵を作るわけにはいかない。これから先、元の世界に帰る可能性を見つけるためにも、怪しまれないように、ただ、頭を打っただけ、ショックでちょっと変になった程度に思わせないといけない

「いえ。俺の名前は……ライです」

 『ライ』。それは中学の頃、友達が付けたあだ名。『驫木』だから『轟く』で雷。いかにも中学生……というより、中二病者が考えそうな発想。とは言っても、その名前は1日で消え去った。だから、今思い出したのは奇跡に近い。

「そうか。ライというのか。まあ、頭が混乱しているうちは困るだろうけど、すぐに慣れるさ。セントラル・シティーに行くのだって、急ぐ必要はないだろう。どうせ決行まで後数ヶ月かかる。」

 決行?

「あの。セントラル・シティには何があるんですか?何を決行するんですか?」

 とりあえず今は知識がいる。混乱していると思わせたなら、何を聞いてもおそらく変には思われないだろう。なら、早めに聞けることは聞いておくに限る

「ああ、それは……。」

 アリューさんはそこで言葉を止めると、何かを考え込むような仕草をしたかと思うと、逆に質問をしてきた

「その前に聞いときたいんだが、ソフィア様は分かるかい?」

「ソフィア様?」

 様を付けるぐらいだから、偉い人なのだろうか?それとも神のような存在?

「分からないか。」

「はい」

「ソフィア様とは……う~む、なんと言うべきか……」

 ……つまり、やはり実体のない神のようなものだろう。口で説明できないということは、そういうことだと思ったけど……違った

「まず、ソフィア様は数年前、突然現れた。」

「現れた?」

「そう。そして、今も生き続けている。そして――」

 そこでアリューさんは言葉を止めた。なぜなら、突然、外が騒がしくなったからだ。

「どうしたんですか?」

「そうだったな。今日はソフィア様の披露式の日。」

 アリューさんはブツブツ言い出すと、突然「よし」と言い、立ち上がった

「まずはソフィア様を見に行こう。そうすれば、何かを思い出すかもしれない」

 アリューさんは強引に俺をベットから起こすと、そう提案した。俺としても断る理由はないし、この人が言うソフィアというのが実体があるなら、見ておく価値はある。

 そう思い、アリューさんに続いて外へ出た。外に出ると、人が村の中心に沢山集まっていた。どうやらここの家は全て木造のようで、歴史の教科書などで見た昔の家が思い出された。家は広場のような空地を中心に、円状に家が建っていた。そして、広場を中心に、十字の形の道があり、家の区画を4つに分けていた。

 俺とアリューさんは人ごみをかき分けて広場の中心へ向かうと、広場の中心には大きな建物があり、人3人分ほどの高さがあった。そしてその頂上からは水が上から建物を伝って流れてきて、途中からその水は下の池までヴェールのように流れる。……しかし、周りの人はその噴水の水のヴェールを見るだけでソフィアと思われる人はどこにもいなかった

「あの……ソフィアさんは?」

「もうすぐ見られるさ」

 アリューさんはそう言うと、他の人と同じように噴水の水のヴェールを眺めた。俺はどうすればいいのか分からず、ただソワソワすることしかできなかった。しかし、数分もたったころ、突然声が聞こえた

「こんにちわ、皇国の諸君。」

 その声は若く、アリューさんより若い男性のもののようだった。俺はその声に驚き、慌てて周りを見渡す。しかし、その中の誰も喋っているようでもなく、また、誰も驚いているようではなかった。

「アリューさん、これはいったい……」

「単なる放送だよ。……ほら、もう映像が出る」

 映像?そんなものを映すスクリーンなど、どこにあるというんだ?俺がどうしたらいいのか、何が起こっているのか分からずにいると、突然、噴水の水のヴェールが輝きだした。しかし、その光は不思議と眩しくなく、直視してもなんともなかった。そして、その光が収まった瞬間、目を疑った。

 噴水の水のヴェールに映像が映されていた

 その映像には先ほどの声の主であろう金色の髪の若い男性が立っていた。立っているのはどこだか分からないが、後ろの映像は石のようで、アーチ上に作られていて、奥に通路が続いているようだ。この村の家とは作りそのものが違うようだった。

「さて、皇国の諸君。今日は月に1度のソフィア様の披露式。時間もありませんし……貴方たちは私の顔など見たくもないでしょう。なので、堅苦しい挨拶などなしです」

 男はそう喋ると後ろに下がり、何かを喋った。すると奥の方から誰かが歩いてきた。左右に兜と鎧を着て槍を立てる護衛を従えながら、その中心に白いドレスを着て、顔には白いヴェールを着た女性。それは一見するとウェディングドレスとも見間違うようなドレスだった。おそらく、彼女がソフィア様。そして先ほどまで喋っていた男性は深く頭を下げ、彼女たちに道を譲る。女性は先ほどまで男性が喋っていた位置まで歩くと、そのヴェールを取った。そして……その顔を見たとき、俺の思考は一瞬停止した。

 対照的な長く黒い髪。清楚な顔立ち。そして、その表情はほとんど無表情と言ってもおかしくはなかった。……けど、その女性は


 ――間違いなく……夏海だった

 

何年も探し続けてきた幼馴染が目の前にいた。他人の空似かもしれない。この数年で体格も成長していた。けれど、俺の直感が言っていた。あれは夏海だと。そして、女性は喋ることもせず、ただただこちらを見続け、数分後、こちらに背を向け、再び護衛を従えて歩いていった。

 彼女が去っていくのと同時に、周りに集まっていた人たちも散らばり始めた。

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