中
「……い!………んや!…………おい!」
「…………え?」
誰かの声が聞こえ、目を開けるとヴィンセントがいた。俺は状況が分からず辺りを見渡す。そこにクリスとアランもいた。そして、辺りの木には穴がいくつも開いてたり、枝が刺さっていることから気絶した場所なのだろう。そう分かった瞬間、俺は手を見た。
「元に……戻ってる……」
腕は真っ直ぐに戻っており、動かすのに何不自由ない。まるで何事もなかったかのように
「どうしたんや?……て、今はそんなことはええ。あの男はどうしたんや?」
ヴィンセントは辺りを見渡しながら聞く
「アイツは……その……倒した」
「あんさんがか!?」
俺の言葉にヴィンセントは驚いた声を上げた。アランとクリスも声は上げなかったが、驚いたような目で俺を見た。まあ、俺の実力を知っていれば当然の反応だけど
「その……俺じゃあないんだ……」
「……他にこの島にわいらの味方がおるっちゅうことか?」
「いや……」
俺は影のことを言うべきか迷った。影は男には見えなかった。なら、おそらく見えるのは俺だけ。そんな不確かなものを3人に言って、混乱させたら不味いとは思った。だけど、ここまで言って誤魔化す方法も思いつかない。だからとりあえず、『誰かがいる』とだけは言っておいた
数分休んだ後、俺達は動き出した。俺の怪我はもちろん、致命傷のはずのクリスやアランの怪我は治っており、精神的疲れをある程度癒した後は、いつ敵が来るかも分からない状況よりサッサと攻めた方がいいだろうという考えだった。
城は川に囲まれ、入り口は橋1つだった。もしかしたら他にもあるのかもしれないが、城はあまりにも大きく、とても1周回ってみようと思えるような大きさではなかった。俺達は警戒しながら橋を渡り中へ入った。しかし、中へ入っても何も起きなかった。敵はもちろん、罠さえない。中へ入ると道は1本道の廊下。ここからではどこまで続いているのかも分からない。俺達は警戒したまま歩き続けた。
数分歩くと、遠くの方に扉が見えた。金属で覆われた扉。初めは小さく、近づくにつれてその大きさが分かってきた。その扉はゆうに5メートルほどあり、硬く閉ざされているように見えた。……そして、その扉には文字が彫られていた
『ここから先、第4の試練。戻ること許されず、死ぬことも許されず、生きることも許されぬ』
「……ピコルの時も思ったけど、本当にゲームみたいやな」
ヴィンセントが呆れたように呟く。だけど、それには同意だ。まるでゲーム。戻ることもできず、死ぬこともできず、生きることもできない。……これが本当にゲームなら、入れば絶対に致命傷となる罠があって、そのまま捕まり、一生奴隷として働かされるとか、そういう感じだろう。
「……で?どうするの?」
クリスがそう聞いた。……だけど、俺も含めて全員、当然決まっていた。迷うことなんて無い。俺は率先して扉に手を付き、押した。すると、扉は見た目ほど重たくなく、むしろ触れた瞬間、独りでに開いていったように思えるほど軽く開いた。中は閑散としていた。形は闘技場のような円。上はガラス張りのようで光っていた。俺達は中に入ると真っ直ぐ真ん中を歩いた。これだけ見渡しがいいなら、逆に端を歩くと危ないと判断したからだ。入り口のちょうど反対側にもう1つ扉がある。おそらく、あの先が玉座の間。俺は早足になりそうなのを抑え、皆に歩調を合わせる。まだ……何が起きるか分からない。そして、警戒していたおかげか、一瞬の変化に即座に対応できた。
俺達が真ん中辺りまで来た瞬間、上から何かが割れる音がした。俺は上を確かめることもせず、即座に後ろへ飛んだ。他の3人もそのときにはそれぞれ別々の方向へ飛び、上を見ていた。俺もすぐに上を見て、何が起きたのかが分かった。何かがいる。……それも大量に。その群れは小さく割れたガラスの隙間から我先にと出ようとしていた。結果、次の瞬間には一気にガラスは割れ、謎の生物が落ちてきた。俺は背中の剣を抜き、構えた。……が、落ちてきたものが何か分かると、驚きで構えが緩んだ。それは……人間だった。男も女もいた。ほとんどが若者だったが、たまに子供もいた。老人もいた。だが全員、目に生気はなく、瞬きをすることもなく目を見開いたまま、体は腐り落ちている部分もあった。
「な、なんなの、これ!?」
クリスが叫んだ。だけど、俺はなんとなく理解できた。『死ぬことも許されず、生きることも許されぬ』とは、こういうことなのだろう。体に腐っている部分があることから、人を生き返られるライウェンがいるのだろう。……死んでるけど、死んでない状態。生きてるけど、生きてない状態。そんな人間が、まだまだドンドン落ちてくる
「アラン!クリス!ライ!ボサボサしとる暇ないで!全部落ちきる前に玉座の間へ行くで!」
ヴィンセントの声が聞こえた。俺はハッとなり、駆け出した。人とすれ違う瞬間、斬っていく。前は当然、横も後ろも警戒し、攻撃されれば避け、チャンスがあれば攻撃し、玉座の間を目指す。進んでいると、視界の中にアランが映った。俺はアランと合流し、死角をお互いに補いながら進む。更にヴィンセントともクリスとも会い、扉の前へ付いた瞬間――
「!下がれ!」
アランの叫びに反応し、後ろへ飛んだ。次の時には俺達がいた場所に人が降ってきた。後ろにも人。前にも人。横にも人。……完全に囲まれていた。
「……さて。はっきりと言っとこうか。」
突然、小さくヴィンセントが言った。ヴィンセントは前の人が扉を守るため、動かないのをいいことに弾を補給しながら、歩いて近づいてくる後ろの人を見ながら呟いた
「何を?」
「玉座の間へ行く人や。誰が行っても文句ないし。仲間が攻撃し、できた隙を突いて玉座の間へ行くのもよし。小細工だろうとなんだろうとなんでもありや」
……ここへきてもやはり、仲間意識はなかった。むしろ敵対意識とも思える、裏切り前提の戦闘提案。玉座の間へいきたいなら、仲間を出し抜いてでも行けということなのだろう。…………だけど、今ならそれでいいかもと思える。変に誰が行くか決め、いざというときに裏切られたりするよりはいい。だから…………俺はヴィンセントが話終えた瞬間には走り出した。玉座の間へ。俺が一番に動き出すとは思っていなかったのか、ヴィンセントは1歩遅れ、アランとクリスは更に遅れ、俺に付いてきた。扉を守っている人の最前列と扉の距離は約5メートル。おそらく、突っ込んでも意味がないだろう。敵は武器をもっていないが、何発も殴られれば死ぬ。俺はサッと後ろを見て、俺より早い3人が真後ろへ迫っているのを確認した。そして間合いに入る直前……俺は停止した。
「な!?」
誰かが驚いた声を上げた。もしかしたら、3人ともが驚いた声を上げたのかもしれない。だが、3人は止まることなく、敵に突っ込む。しかし、流石に戦闘には慣れているのか、驚きも一瞬だけ。次の瞬間には3人の攻撃は的確に敵を攻撃し始めた。そして攻撃が始まると同時に、俺は再び走り出した。一番敵が少ないエリアを探し、そこを進んでいく。だが、思ったとおりとはいえ、なかなか前へ進めない。どれだけ進もうと敵がいる。そして遂には後ろにまで迫っていた。敵が合流してしまった。……だけど、それでも俺は後ろを見ず、前へ進み続けた。周りには他の3人の姿は見えない。悲鳴も判別がつかない。そもそも、俺達を攻撃する仮定で外れた攻撃はそのまま周りにいる仲間にまで当たり、敵の悲鳴は絶えることがない。だが遂に……玉座の間へたどり着いた。すぐ後ろには何千、何万という敵。今この場にいても襲い掛かられ、開ける暇もない。……だけど、俺は扉に背を向けたまま、背中で扉を押す。そして、押しながらも敵の攻撃を防ぎ、斬る。少しずつ扉は開いていく。俺は敵が一瞬途絶えた隙を見て、一気に中へ飛び込んだ。そして、扉は入った瞬間にはバネのように閉まってしまった。