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死闘

 男の力は異常だった。力は勿論、他の考えられる限りの力が異常だった。剣を振れば目にも留まらぬ速さで剣が迫り、一撃で大木の半分を斬った。走り出せば一瞬とも思えるほどの時間で間合いを詰められた。……だが、速さだけならなんとかなった。男のスピードは直線的であり、自分の速さそのものを上手く扱えていないようだったからだ。そして、来るときには体を構える。来ると分かってこちらも構えていれば、ギリギリ避けられないことはない。ただ、避けられるだけだ。ちょっとでも目を離せば、油断すれば、次の瞬間には斬られている。おかげで俺は攻撃することもできない。辛うじて他の3人は攻撃できているが、最初のように弾かれている。とにかく、どういう原理で弾いているのかを解明しないと、この勝負は勝てない。俺は必死に攻撃をかわしながらも考える。……が、それはすぐに解明した。

「……貴様。ライウェン……新人類だな?」

アランの言葉に俺達と男は止まった。男は無表情に見えるが、驚いているようでもあった。

「貴様……どこで知った」

「貴様には関係ない」

アランがそう言った瞬間――

≪バチッ!≫

 静電気のような音がした。そして、気がついたときには男はアランに切りかかっていた。明らかに、今まで以上のスピードだった。構えもなく、一瞬で動いた。まさか、本気じゃなかった?

≪バキ!≫

 アランは寸でのところで剣を受け止めたが、アランの立っていた枝はその重さに耐え切れず、折れてアランと男は一緒に落ち、馬乗りになる形で男はアランを押さえ込む。俺は気づくのに一瞬遅れたが、ヴィンセントとクリスはすぐさま攻撃のモーションへ移った……が

≪バチッ!≫

 再び音が鳴ったときには男の姿はなく、アランだけが残った。俺はすぐさま辺りを見渡すが、どこにも男の姿は見えない

「アラン……なんや、ライウェンって」

 ヴィンセントは辺りを警戒しながら聞いた。

「実際に会ったのは初めてだが、なんでも人類が進化した人類……らしい」

「……具体的にどう進化したか分かるの?」

「聞いた話では体内の物質を意のままに操り、放出できるらしい。そして、人それぞれで操れる物質も違うらしい。俺が聞いたのは火を作り出すというものだ」

「火を……作り出す?」

 できるのか、そんなこと……。だけど、体内の物質を操るというのなら不可能ではない。昔、墓場の人魂は死んだ死体から出た『リン』という物質だと聞いたことがある。それを放出できるなら火を作り出せるだろう。

「……で?あいつの力は何か分かるの?」

「おそらく……電気を操るのだろう」

「電気?……ああ、それでさっきからバチッて音がするのね?……けど、体内の物質で電気を生成できるかしら?」

「……単純に静電気なんじゃないか?」

「え?」

 俺の言葉にクリスが意外そうな顔をした。おそらく、俺が何か意見を言うとは思わなかったのだろう

「たぶん、静電気を操って足に送る電気信号を早くしているんだと思う」

 漫画とかでもたまにそういうことができるキャラがいる。もっとも、漫画では電気そのものを扱うけど。だから、もし電気を操ることができるなら可能だろう

「それに、電気ならヴィンセントやアラン、クリスの攻撃の軌道を曲げるのも可能じゃないか?体を+か-の電荷にして、弾は反対の電荷。そうすれば磁石みたいに離れていくだろ?」

「…………」

「…………」

「…………」

 なんだか、3人が意外そうな目で俺を見ている。……まあ、元々役立たずだと思っていたみたいだしな。…………戦闘に関しては本当に役立たずだけど

「……まあ、とりあえずや。アイツの力は電気を操るってことで、対策はどうするんや?わいらの武器、全員金属でできてるで?」

 確かに。力が分かったとして、対策のしようがなければどうしようもない。問題は力の及ぶ範囲と大きさ。男はアランとクリスの攻撃を同時に曲げた。……つまり、同時に間逆の方向の物へ力を使い、尚且つ自分にも力を使うことはできるということ。

「っ!避けろ!」

 アランの声でハッとなり、咄嗟に横へ飛んだ。その瞬間、俺はもちろん、ヴィンセント、アラン、クリスのいた位置へ何かが素早く通り過ぎた。

「なんや!?」

「!枝よ!大きさは小さいけど、凄いスピード!」

 枝?……まさか、電気の力で限界まで腕の振りのスピードを上げて投げたのか?辺りを見渡しても男の姿は見えない。……が、1本の木に4つ、小さな穴が空いていた。おそらく、その木ごと貫通して飛んできたのだろう。俺はすぐに動いた。ジッとしていたら的にされるだけだ。3人の姿は既に見えない。俺は木から木へ飛び移りながら男を捜す。

≪バキッ!≫

 その瞬間、どこかで音がした。おそらく、また枝を投げたのだろう。音からして木に刺さったようだ。俺はホッと安心した。……が

≪バキッ!≫

 今度は俺目掛けて飛んできた。それも目の前を。おそらく、ホッとして動きが鈍らなければ当たっていた。……それにしても、なぜ男は見えるんだ?俺は枝の飛んできた方向を見たが、男の姿はどこにもない。

 そのまま何分も逃げた。時折ヴィンセントたちは男を見つけたのか、攻撃する音がしたが、俺は男を見つけることができず、何度も枝を投げられた。それでもなんとか当たらずにいられた。……だが、遂に当たってしまった

「ぐっ!」

 右肩を当てられた。枝は腕で止まることなく、後ろへ貫通したようで、左肩には穴だけが残った。俺は不安定な木の上で体制を保てず、落ちた。

「ライ!」

 だが、俺が落ちると同時にヴィンセントが飛んできて、俺を空中で捕まえた。しかし、ヴィンセントは俺を支えることができず、結果、ヴィンセントもろとも地面に転がり落ちた。

≪ザッ≫

 足音がした。痛みで苦しみながらも目を開けると男は右手に剣と左手に2本の枝を持ち、そこに立っていた。ヴィンセントは打ちどこが悪かったのか、気絶しているようで、動かなかった。……そして男は無言で剣を振り上げ――

「はぁっ!」

 後ろから剣が2本、飛んできた。左右から1本ずつ、アランとクリスの剣が飛んできた。……だが、男は回避することもなく、その剣を弾き、手に持った枝を投げた。その2つは文字通り、投げたと思った瞬間には2人に刺さっており、2人は音もなく倒れ、地面に落ちた。

「ああああぁぁぁぁ!」

 俺はその瞬間、切りかかった。仲間が殺されて我を失ったのかもしれない。いや、もしかしたら今しか殺せるチャンスはないと思ったのかもしれない。俺は思いっきり、刀を振り下ろした。……だが、その攻撃は弾かれることもなく、男の剣によって真っ二つにされ、隙だらけになった俺の腹を剣が通り過ぎた

「ぐっ!がぁぁぁぁ!」

 お腹に今まで感じたことがないほどの痛みが走った。船でのシミュレーションのときの死んだとき以上の痛み。さっき左肩を抜かれた以上の痛み。俺は倒れこみ、お腹を抑える。だが、当然のように痛みは治まらない

「……これが、力の差だ。あのとき、アリサを諦めて去ればよかったものを」

 男は俺へ呟くと同時に右肩を剣で刺す

「ああああぁぁぁぁ!」

「貴様の浅ましく、卑しい気持ちがこの結果を招いた」

 男は俺に説教をするように呟き、何度も何度も刺した。俺は途中まで反撃を狙っていたが、痛みでそんな考えさえ飛ぶ。更には、できればサッサと殺してほしいとまで思いだした。夏海のことなど、どうでもよくなってきてしまったのだ。……そして、最後の一撃がくる……

「貴様のような者は……死んで地獄へ堕ちるんだな」

 男はそう呟き、剣を振り下ろす。俺は諦め、目を瞑った。できるなら、これ以上苦しまず、死にたかった。……が

≪ギン!≫

「何!?」

 男の驚いた声と同時に、金属がぶつかる音がする。俺は突然の事態に驚き、目を開けた。……そしてそこにいたのは…………影だった。薄暗い森の中だが、それ以上に暗い影。その影がいつの間にか錆びた剣を手に持ち、俺の前へ立って男に剣を向けていた。男は既に平静になり、剣を構える。数秒、お互いに静止していた。そして……影が動いた。影の動きは早いわけではなかった。俺と同等。剣を剣道の脇構えのように構え、移動する。男はその場から動かず、剣すら構えない。影はそのまま近づき、剣を振り下ろす。……その瞬間、男の顔は再び驚きの顔に変わった。剣が……弾かれなかった。男は体を斬られる前に後ろへ飛んだ。だが、完全に弾けると思って構えていたのか、動きが遅れ、服が破れ、そこからは少しだけ血が流れていた。

「くっ!」

 そして男は困惑していたためか、影が動いたことに直前まで気がつかなかった。男は迫り来る剣に気づいた瞬間、咄嗟に剣でガードする。……だが、影の力は予想以上に強かったのか、男は吹き飛ばされる。

「嘗めるなぁぁぁぁ!」

 吹き飛ばされた次のときには男は目にも止まらぬ速さで影へ切りかかった。……いや、剣に斬りかかった。俺は一瞬、目を疑った。確かに男は剣へ切りかかったのだ。影は男が迫ってきたときにはまだ剣を振った状態。つまりバットを振った直後の状態のようなもの。そして、男は剣の中心辺りへ振り下ろしたのだ。ちょうど、影の左肩の辺りへ。それから何度もお互いが斬りかかった。影の握力や力は相当強いのか、剣は吹き飛ばされることがなく、鍔迫り合いになると男を吹き飛ばしていた。……だが、一番の問題はそこではなかった。男は確かに剣を狙っているのだ。鍔迫り合いで負けると分かり、鍔迫り合いになる前に剣を弾き、影の体勢を崩したと思うと、まるで剣を追うかのように影の横へ行き、剣を攻撃する。そして影に背後を取られ、それに驚きながらも防御する。そんな場面が程度や多少の状況は違えど何度もあった。

 次第に、男の息が乱れてきた。影の方は『息をする』ということがあるのかは分からないが、平気そうだ。そして俺が勝てると思った瞬間――

≪バチッ!≫

 男は俺の背後へ動いていた。そして影の手からは遂に剣は飛ばされ、俺の真横へ落ちる。おそらく、力のある影でも、あのスピードでの攻撃には耐えられなかったのだろう。俺は頭だけを後ろへ向けると、剣を杖に、膝を付いている男が映った。影は……相当衝撃が強かったのか、その場に蹲っていた。もしかしたら、男に見えないだけで、攻撃の影響はあるのかもしれない。俺は咄嗟に起き上がり、地面に刺さった剣を抜く。痛みはまだある。……けど、今はそんなことを気にしていられない。今なら勝てるかもしれないのだから。俺は体に鞭を打ち、剣を握って走る

「はあぁぁぁぁ!」

 そして振り下ろす。

「っ!嘗めるなぁぁぁぁ!」

 だが、すぐに男は気がつき、俺へ剣を振るう。そして、さっきまでの男のように、俺は吹き飛ばされる

「がっ!」

 運悪く、俺は木に叩き付けられ、意識が飛びそうになるのをなんとか留める。

「はぁ!はぁ!……手品で剣を操つるのは終わりか?」

 男は息を切らしながらそう言う。……そうか。やっぱり、男に影は見えていないのだ。男は迫ってくる。俺は立ち上がり、ふらつきながらも構える。

「貴様に勝ち目はない。今お前が剣を握っているということは、さっきまでの技が使えないということだ。貴様程度なら、今の私でも倒せる」

 そんなことは分かっている。いくら弱っているとはいえ、もう一度さっきほどの力。……いや、その4分の1ほどの力で振り下ろされれば死ぬだろう。……だけど……

「何のまねだ?」

 俺はしっかりと立ち、剣をバットを振るように構える。一撃で仕留めるため、カウンターで、自分が斬られたとしてもこちらも斬れるように。

「それでも俺は…………次に夏海を助けに来る人のためにお前だけでも殺す!」

 そう叫んだ瞬間、後ろで何かが光った。その光の元は俺の手の下だった。錆びた時とは間逆に、光は徐々に剣を覆う。

「無駄なことを!貴様に私を殺すことなどできん!」

 男はそう叫んだ瞬間…………消えた。そして俺は、本能のままに剣をいつの間にか振っていた。俺が気づいた時には決着が付いていた。いつの間にか剣を振り、腕が右回りに1回転し、骨が折れていた俺と……真っ二つに斬れ、物言わぬ死体となっていた男。

 頭で状況を理解するのに数秒かかった。いつ振ったのかさえ自分で分からなかったのだ。1秒にも満たない間……まるで瞬きした次の瞬間には世界が変わっていたほどの感覚。それを数秒で理解した次の瞬間には腕の骨折の痛みで剣を落とし、倒れこみ叫んだ。意識が飛ぶ直前、視界の端に入った剣が錆びていき、男が塵のように消えていくのが見えた

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