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アリサと夏海

 目が覚めたとき、目の前は金色だった。……いや、正確には鈍い金色。どうやら、ここはピコルと戦った場所にあった小屋の1つのようだ。俺はその中にあったらしいベットの上で横になっていた。起き上がってみると体は痛くなくなっていた。外へ出てみると真っ暗で、夜だということが分かった。

「起きたんか」

「ヴィンセント」

 外へ出るとヴィンセントが話しかけてきた。辺りにアランとクリスの姿はなく、ヴィンセントだけだった

「アランとクリスは?」

「2人とも寝取る」

「ヴィンセントはどうしたんだ?」

「どうもせんよ。眠れんから外出てただけや」

「そうか……。それで、出発はいつなんだ?」

「さあな~」

「さあなって……」

「全員が目を覚まして、準備が整ったらやろ。せやからあんさんも寝てた方がええで」

「……そうだな」

「じゃあな」

 ヴィンセントはそう言うと、自分の寝ているらしい小屋へ向かおうとした

「ヴィンセント」

「……なんや?」

 俺が声をかけると、ヴィンセントは立ち止まり、こっちを見た

「なんで……あの時『斬れ』って叫んでくれたんだ?正直、そんなこと言うぐらいならピコルに視線を向けたまま乱射した方がよかったんじゃないか?」

「…………」

 俺の言葉にヴィンセントは少しの間口を閉じていたが、ようやく口を開けた

「わいにはな、弟がおったんや」

「弟?」

「そうや。自分で言うのもなんやけど、わいは強い。けど、弟は弱くてな。それでも、弟がわいは好きやったんや。わいの住んでた所は殺しなんて日常やったからな。親もおらず、こいつだけはわいが守らなあかん思ってたんや。……せやけど、ある日、わいのちょっとしたミスで弟が死んでしもうたんや。それも目の前でや」

「…………そうなのか……」

 そのときの状況なんて分からない。……が、例えば……例えば夏海が俺の目の前で殺されたら?それも俺のミスで。そう考えるだけで、ヴィンセントの後悔はよく分かる

「あんさんはその弟に似ててな。弱いところもやけど、刀を使うところとかな。アイツ、わいが銃を使うもんやから、自分は刀だって言ってな」

「…………」

 俺は何も言えなかった。いつも通り、ヴィンセントはニヤニヤしながら言っていたが、その顔は少し悲しそうだった。

「ま、そういうわけや。ただ弟に似てたからや。じゃあな。次からは観戦するんじゃなく、戦ええよ」

 ヴィンセントはそう言うと再び小屋へと歩いていった。俺は少しの間その場に立っていたが、少しすると刀を抜き、柵の外へ出た。今からでも、少しでも戦えるようにしないと。しかし、森で動物を3体ほど倒した頃には既に体に限界を感じ、小屋に戻るとすぐに眠ってしまった。だが、不意打ちや作戦さえあれば俺にだって動物を簡単ではないが、倒せるということが分かっただけでもよかった。……次の試練からは、足手まといになりたくなかった

 起きたとき、頭ははっきりとしていた。俺は起き上がり、刀を持つと小屋の外へ出た。小屋の外では既に3人は火を囲み、食事をしていた。食事は何かの丸焼きのようで、大きさから見て、おそらく周りの森にいた生物だろう。

「おはよう」

「おはようさん」

 俺が声をかけると、ヴィンセントだけは挨拶を返し、他の2人は顔だけを少しこちらへ向けると、すぐに丸焼きに視線を戻した。俺はどうしたらいいのか分からずに立ったままだったが、いきなりクリスが肉の乗った皿を渡してきた

「あ、ありがとう……」

 いきなりのことで驚いたが、俺はクリスから皿を受け取り、ヴィンセントとクリスの間に座った。既にいくらかの部分が取られて原型をなくした丸焼きの生物だが、まだ原型を留めている部分を見てみる限り、おそらく豚なのだろう。俺は少し肉をかじってみた。味は…………正直、調味料などないせいか、特に味はしない。

 食事を食べ終わると少しだけ食休みを挟み、出発した。目指す方向は正しいのかは分からないが、森の中心。俺はいつでも敵が来てもいいように警戒しながら歩いたが、警戒心は数十分も持たなかった。しかし、それでよかったのかもしれない。森からは動物どころか虫さえおらず、風さえ起こっていなかった。ずっと警戒していれば、城に付く頃には疲れ果てていただろう。……が、それも次第に変わってきた。風がなく、虫1匹いないのに変わりはない。……けど、3人の空気が重くなってきた。会話がなく、ギクシャクしているのではなく、殺気に似た空気が満ち始めていた。初めはどうしてなのかは分からなかったけど、少し歩くとそれが分かった。森の先に城が見えたのだ。城……つまり、もうすぐ第3の試練が始まる。

 城が見え、更に少し歩くと、俺が倒れていたとアリューさんが言っていた場所の2、3倍の広さの空き地に出た。そしてそこに、剣を地面に刺し、柄に両手を置いている人が立っていた。見た目的にはアランと同じくらいの歳だろう。体には甲冑を着ているが、それでも筋肉は相当あり、地面に刺さっている剣で切りかかられれば、例え俺の刀で受け止めたとしても、ピコルの弾丸以上のスピードで吹き飛ばされるだろう。……いや、そもそも、刀ごと斬られるかもしれない。

 男は目を瞑ったまま、黙って静止している。まるで俺達に気づいていないかのように。俺の隣では3人は既に武器を抜き、男に向けている。俺は一瞬、卑怯な行動だと思ったが、既に戦いは始まっているのだ。目の前に敵がいるのだから。

 最初に動いたのはやはりヴィンセントだった。両手に構えた銃から一気に何発も弾を撃つ音がした。それと同時にピコルのときのようにアランとクリスが左右に飛ぶ。…………が、2人の動きが止まった。いや、正確には4人。クリスとアランと……俺とヴィンセント。足が何かに絡められたわけではない。ただ、起こるはずのことが起こらないのだ。その異常さに4人の動きが止まった。ヴィンセントは確かに銃で男を撃った。……だが、男は揺れることもなく、ただ真っ直ぐに立っているだけだった。なのに……何も起こらない。回避しようともせず。弾こうともしなかった。。なのに、当たらなかったのだ。考えられる可能性はヴィンセントが外したことだけ。しかし、ヴィンセントの銃の腕は少ししか見てない俺でも完全に正確な射撃と思わせるほどの腕だった。

 一番に気を取り直したのはヴィンセントだった。ヴィンセントは再び銃を構えると乱射した。

≪ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!≫

 その音はマシンガンでもないのに、まるでマシンガンであるかのように鳴った。……が

「嘘……やろ……?」

 結果は同じだった。弾は一発たりとも、男には当たらなかった。

「クリス!アラン!斬れ!」

 が、今度は立ち直るのが早かった。ヴィンセントは叫び、2人に攻撃を命令した。2人はようやくハッとなり、遠距離から男に斬りかかる。左右から横薙ぎに迫る長剣と短剣ほどの長さの刃。しかし、それでも男は動かなかった。2本の剣はドンドン迫っている。そして……男に当たる前にその2本は驚くべき変化を起こした。2本の剣はまるでそこにゆるやかな滑りやすい坂でもあるかのように、ゆっくりと角度を上へ曲げ、男の体にギリギリ当たらないように打ち上がった。そして打ち上がった剣は重力に乗り、下へ落ちた。

「……どうなっとんや」

 ヴィンセントは信じられないものを見たように呟いたが、それは俺も同じだった。男は全く動いていないのに、アランとクリスの剣の軌道が変わったのだ。

「……気は済んだか?」

 突如、目を瞑ったまま静止していた男が口を開いた。その声は想像以上に若く、また、突然声をかけられたことにも驚いた。男は無言で剣を地面から抜いた。その剣は何の変哲も無い、ただの剣のように見えたが、さっきのような現象を見せられた今では、それにさえ何かあるのではないかと思ってしまう。俺は刀を構え、いつでも動けるようにした。……が、男は予想外のことを言ってきた

「武器を収めろ。そしてここを去れ」

「……どういうことだ?」

 アランが全員を代表すように聞いた。ピコルの話では、逃げ出せば次の試験官。つまりこの男が殺しに来ると言っていた。だが、この男はここから出て行けと言っている。

「私はこのゲームに興味がない。そして、人を殺すことにも興味が無い。よって、お互いに無駄なことはやめようではないかという提案だ。」

 男は手に持っていた剣を鞘に収めながらそう言った。

「このゲームに興味がないですって?でも、このゲームを始めたのはそちらでしょ?」

「ピコルから聞いただろうが、私達はマスターに逆らうことはできない。そして、このゲームを始めたのはマスター。」

「なら余計に逃がすのはやばいんやないか?逃げ出したら殺しにいかなあかんのやろ?」

「マスターから許可は下りた。だからここを去れ」

「…………なんでそんなにもここから俺達をだそうとするんだ?」

「なぜ……だと……?」

 俺が質問した瞬間、男は一瞬にして怒りを顕にし、俺を睨みつけてきた

「貴様らがこのゲームに参加する理由はソフィアであろう?」

 男の言葉に誰も頷かなかった。……だが、ここにいる時点で目的はソフィア以外にないのだ。答える必要などない

「貴様らは……貴様らはあの女のことを考えたことがあるか?」

 俺は少しの間、男の言葉が理解できなかった。あまりにも予想外すぎたのだ。あの男が、ソフィア……夏海のことを大切に思っている?攫ったのに?

「この際だ、教えておいてやろう。貴様らがソフィアと呼んでいる女は元々、私達の仲間だったのだ」

「嘘を付くな!」

 男が言った瞬間、俺は反射的に叫んだ。隣のヴィンセントは勿論、アランもクリスも驚いていたが、そんなことは関係なかった。夏海は俺の幼馴染。こいつらの仲間なはずがない。

「嘘ではない。あの女の名前はアリサ。昔、強大な力を持って産まれ、間違いを起こし、追放された女だ。」

「……よう話が読めんのやけど、とりあえずソフィア……ああ、アリサやったな。アリサは元々あんさんらの仲間で、攫ったのも返してもらうためだってことか?」

「そうだ」

「せやけど、それとアリサのことを考えるのと、どう関係があるんや?」

「私はアリサを追放される以前から知っている。そしてアリサは常に『大切な人のために生きたい』と言っていた。分かるか?ここには家族も、友人もいる。アリサにとって守りたい全てがここにある。だから、アリサのために去れ」

 男が言い終わった瞬間、俺は走り出していた。男の話が本当のことなのかどうかは分からない。男の言うアリサと夏海が一緒の人物なのか、似ているだけなのかも分からない。…………けど、大切な人のために半永久的に眠らされていて幸せなはずはない。アリューさんのところで見たときも、幸せそうじゃなかった。俺は男を刀の間合いに入れた瞬間、思いっきり縦に切りかかった。アランやクリスの剣は上へズレた。なら、初めから上から叩きつける!

「愚か者が」

 が、切りかかった瞬間、男はいつの間にか剣を抜き、自分の頭と俺の刀の間に入れ、俺の刀を防いでいた。俺はすぐにこのまま力勝負をしても無駄だと思い、後ろへ飛ぶ

「そういうお前達こそ、1度追放したくせに自分勝手に連れ戻してるじゃないか!」

「追放というのは永久にではない。期限があったのだ。その期限がきたから連れ戻した。それだけだ」

「それこそ自分勝手じゃないか!アイツが向こうで大切なものを作っていたらとか、考えなかったのかよ!」

「……貴様如きが分かったような口をきくな!」

瞬間、男からの殺気が大きくなった。……が、俺は震えずに構える。確かに怖かった。だが、それでも引けない。俺からすれば、この男達こそ夏海を道具としてしか見ていないのだから。俺は男を睨み返し、隙を見つけるべく、集中する。しかし、先に動いたのは男だった。そのスピードは凄まじく、見えてはいたが、それだけだった。反射で動きはしたものの、間に合わないほどの速さ。斬られる。そう思った。……が

≪ダン!≫

頬を何かが掠めたかと思うと、男は迫ってきたときと同等なほどのスピードで横へ避けた。

「感謝するで、ライ。あんさんが何を考えてるかは分からへんけど、ここまで来たんや。今更『はいそうですか』と帰れるわけないわ」

後ろから、煙を吹く銃を握ったヴィンセントが歩いてくるのが見えた。

「そうね。こういう『自分が正しいです』みたいな人は1度、ちゃんとお仕置きをしておかないと」

クリスの声がどこからか聞こえた。おそらく、この木々の間に隠れて攻撃のチャンスを待っているのだろう。アランも視界から消え、同様に隠れているのだろう

「そういうわけや。全員、帰る気はないようやで?」

「…………愚か者どもが」

男は静かに、怒りを込め、そう呟いた

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