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 数時間後。船は大きな島に着いた。その島は森に覆われていて、中がどうなっているのかが全く分からなかった。大きさも『とにかく大きい』としか言いようのないほど大きく、一度森に入れば地図やコンパス無しでは帰ってこられないように思えた。

 船が島の浜辺に着くと3人に続いて船を降りた。船を降りて数歩歩けば森の中。そんな危険な場所。本当にこんなところに夏海がいるのだろうか?一瞬、このまま帰った方がいいのかもしれないと思ったが、すぐに思い直した。

「……さて」

 ヴィンセントは一番に船を降り、辺りをグルッと見渡すと、振り返り言った

「ここまで来たはええものの、これはもう集団での奪還作戦やないんや。わいも含めて全員、ここへ来たのは訳ありみたいやからな。どうや?ここからは別行動にせんか?」

 突然の提案だった。

「ヴィンセント。そうは言っても、中に何があるか分からな――」

「そうだな」

「いいわよ」

 しかし、俺の言葉は遮られ、アランとクリスもその提案に乗った。

「……じゃあ、そういうことや、ライ。ここからは単独行動や。幸い、地図もコンパスも4人分あるんや」

 ヴィンセントはコンパスと地図を俺たちに1つずつ放り投げた。

「じゃあ、わいは先行くで」

 ヴィンセントは言うだけ言うと、止める間もなく、サッサと歩いて行ってしまった。アランとクリスはヴィンセントを1度見ただけで、3人とも違う方向へ歩き出した。俺はどうしたらいいかも分からず、少しの間立ち尽くしていたが、ようやく森に入る決心をし、とりあえず森の中心を目指して歩き出した。

 森の中は薄暗く、まるで樹海だった。立っている木が普通の木ならここまで薄暗くはならないだろうが、立っている木の1本1本が大樹であり、根だけでも大人ほどの太さの2倍はゆうにあった。俺はそれを1つ1つ越えながら中心を目指す。

 ……どれだけ歩いただろうか?時計など持っていないし、木のせいで太陽も見えない。できればこのまま何事もなく夏海の所へ着きたい、そう思った瞬間――

≪パキッ!≫

 近くで枝が折れる音がした。咄嗟に俺は音のした方へ体を向けると、そこにはなんとライオンがいた。

「…………マジかよ……」

 リバイアサンがいた以上、森にライオンが出てもおかしくなはい。むしろ、至って普通に思える。……が、だからといって怖くないわけではない。勝てるわけではない。いや、正確には怖いが、勝てるかどうかは不明だ。勝てるかもしれない。船での修行の際、何度か戦ったことはある。……が、勝てたのは数回ほど。しかも、無傷での勝利など1度も無い。軽くて骨折レベルの怪我は負った。

 …………けど、逃げられる状況ではないことは分かりきっている。俺は腰の刀を抜いた。本物の刀を使うのは初めてだが、シミュレートでは何度も使った刀。俺は刀を構え、襲ってくるのを待つ。今の俺の身体能力では、こちらから攻めてもカウンターに合う確立が高いことは分かっていた。だから、むしろ敵に襲わせ、それを回避したうえでこちらがカウンターを当てる方が何倍もいい。

 ライオンは警戒しているのか、俺とは一定の距離を開き、ゆっくりと俺を中心に円状に動く。俺はいつでも動けるように片足を軸に、ライオンに体を向ける。

 ただ円を描くだけで、半円ほどライオンが動いた瞬間――

≪ガォ~~~ッ!≫

ライオンが飛び掛ってきた。俺はさっきまでと同じように片足を軸に体を捻り、ライオンの軌道からズレると同時に、ライオンの体を横に斬るように刀を振るう

≪ガォ~~~ッ!≫

 ライオンは避けられるとは思っていなかったのか、体を斬られバランスを失い、地面に顔から激突し、暴れまわる。俺は再び距離を取り、構える。

 未だに暴れまわっているライオンを見ていくらか余裕ができたのか、手が振るえていないことに気がついた。刀には血が付いている。目の前には一撃で俺を殺せる動物がいる。それだけでも怖くて動けなかったり、動物を斬った衝撃で震えてもおかしくないのに、俺の体は全く震えていなかった。シミュレーションでは、確かに斬れば血はでた。もしかしたらそのおかげなのかもしれないが、なんとなく…………なんとなく、自分が冷酷な人間になっている気がして悲しかった。

 そして、そんなことを考えていたせいか、いつの間にかライオンが静かになっていることに気がつかなかった。気がついたときにはライオンの姿は消え、すぐに辺りを見渡したときには、後ろから飛び掛られる直前だった。俺は慣れた動作など気にする余裕もなく、反射だけでライオンの攻撃を回避しようと体を捻った……だが

≪タッ≫

 ライオンは俺の目の前で着地したかと思うと、その場で方向を変え、腹に噛み付いた

「あぁぁぁぁぁぁ!」

 噛まれると同時に押し倒され、背中の衝撃と腹の痛みのせいで口から叫び声がでた。一瞬、この叫びのおかげで3人の誰かが助けに来てくれるという希望も持ったが、すぐにそれを掻き消す。例え助けに来たとしても、それまでに俺は肉片になっているだろう。俺はなんとか手放さずに済んでいた刀を握り、思いっきりライオンの顔へ横から刺した。

≪ガォ~~~ッ!≫

 刺した瞬間、ライオンは今まで以上の叫びを上げたかと思うと、力尽きたように倒れこんできた。

「ッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

 叫び声のおかげで腹からキバは抜けたが、出血が酷かった。このままだと確実に死ぬ。素人目にも分かるほどの血。意識も朦朧としてきた。死の直前の走馬灯なのか、ここまでのことや夏海のことが頭を過ぎった。


そして最後に体が認識したのは…………影だった


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