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海の魔物

 数分後、ついに市長は折れ、4人が乗れる大きさの船を貸してくれることになった。その船は大型とは言わないものの、小型よりも大き目で、4人が横になっても十分な大きさだが、なんと帆船だった。俺は心配になったものの、ヴィンセントは「まあ、コンパスと地図があるんやから、なんとか辿り付けるやろ」と楽観的だった。アランもクリスも何も言うことなく乗り込み、心配なまま出港してしまった。作戦があった頃にはセシルムまで3日掛かったらしい。市長の優しさゆえか、食料は7日分積んでくれていて、多少迷っても食料は持つだろう。……ただ問題は――

「…………」

「…………」

「…………(ニヤニヤ)」

 相変わらず黙っている2人と、俺を見てニヤニヤするヴィンセント。まあ、ヴィンセントはまた俺が不安になっているのを楽しんでいるだけかもしれないけれど、アランは船の端に座って黙ってるし、クリスは剣の手入れをすることもなく、アランとは反対側の端で横になっている。なので、自然と俺とヴィンセントは中心付近に座ることとなった。十分ほど過ぎた頃、不意にヴィンセントは口を開いた

「なぁ、ライ。あんさんはどこから来たんや?」

「え?」

 突然の質問だったので、理解できなかった。少し時間が経っても、未だに理解できない。どこから来た?俺は質問の意味が分からず、ヴィンセントを見つめ返すことになった

「あんさん、ファーディスト・アイランドから乗ったようやけど、ファーディストの出身やないやろ?」

 確かにファーディスト・アイランドの出身ではない。……けど、なんでそんな質問を今するんだ?

「……なんでそんなことを聞くんだ?」

 俺は思ったままのことを口にした

「ライ。あんさんはどうにもおかしいんや。ファーディストはその名の通り『最果て』。せやけど、例えファーディスト出身でも、セントラルを見たことがない人なんておるわけないんや。なのに、あんさんはセントラルに来たとき驚いとった。……あんさん、ほんまは何者や?」

 ヴィンセントの目つきが急に鋭くなった。まるで、突然目の前の俺が敵になったかのように。どうする?答えるべきか?けど、今それを言って信じてもらえるのか?

「…………話さないといけないのか?」

 結局、俺はヴィンセントの顔色を窺う質問をした。これで銃を向けられるようなことがあれば喋らなければならないだろう。逆に、諦めてくれるなら助かる。

「いや、話さんでええよ」

 俺はヴィンセントの言葉にホッとし、クリスと同じように寝てしまおうかと横になろうとした瞬間、ヴィンセントの「それに、お客さんを待たしたらあかんしな」という言葉で停止してしまった

「……お客?」

 なんのことだろう?クリスは寝てるし、アランは黙って座ってるだけ。他に誰もいない。当然だ。ここはもう海の上。町すら見えず、人が隠れれる場所もない

「もうじき分かる」

 しかし、ヴィンセントは笑うだけで、何も答えてくれない。……けど。数分後、確かにお客が誰なのか分かった。

 突然、なんの前触れもなく海が揺れだした。いや、船が揺れだした

「うわっ!」

 俺は突然のことに戸惑いながら、船にしがみつく

「お客さんの到着や」

 ヴィンセントは未だに笑いながら、銃を両手に持つ。いつの間にか起きたクリスも剣を両手に握り、アランも背中の剣を真っ直ぐに伸ばし、辺りを見渡す。もしかして敵が来たのか?こんな海の真ん中で?そう思ったものの、辺りには何もない。一面、揺れる海だけ。

「何が起きてるんだ!?」

 俺は全く納まらない揺れに翻弄されながら、ヴィンセントへ聞いた。だが、聞くまでもなく、その正体が分かった。確かに敵はいたのだ。海面という死角の中に……。

 それは巨大な蛇のような怪物……リバイアサンだった。まだまだ遠くにいるはずなのに、それでもその巨大さが分かるほどの大きさ。そして、リバイアサンは縦にうねるように移動しながら、頭を出したり沈めたりし、この船の周りを泳ぎだした

「羽のあるトカゲが出るってのは聞いたことあるけど、こないな大きな蛇は聞いたことがないな」

 ヴィンセントは驚いているようなことを口にしながらも、銃をリバイアサンに向ける。そして、リバイアサンが頭を出した瞬間に、正確に撃った。ヴィンセントの弾は船で見たように正確にリバイアサンの目に当たり、悲鳴を上げた。しかし、数秒その場で頭を振ったかと思うと、急にこちらへ頭を向け、突進してきた

「こりゃやばいな」

ヴィンセントは焦ったようにそう言い、再び銃を構える。けど、俺でも分かる。いくら銃を撃っても止めることは絶対にできない。どうすればいい

「ヴィンセント、もう片方の目を撃って」

「え?」

 突然、横から声が飛んできた。声は小さく、空耳かもと思える声だったが、すぐにクリスが言ったのだと分かった。

「了解」

 ヴィンセントも聞こえたのか、すぐに銃をリバイアサンの目に向ける。クリスはその間にも帆を畳みながら、アランにも指示を出す

「アラン、あの怪物の体勢を崩すから、峰で思いっきり怪物を叩いて」

「分かった」

 クリスは2人に指示を出すと、自分は左手の剣をしまい、右手に剣を握り、振りかぶれるように姿勢を変える。まるでバットを振るように

「ちょ、ちょっと待って!何をする気なんだ!?」

 アランもヴィンセントもまるで何をするのか理解しているように行動しているが、俺には全く理解ができない

「黙ってて。今まで以上に揺れるから貴方は船にしがみ付いてなさい」

 そう言われ、再び反論しようとしたが、次の瞬間には行動は始まっていた。まずヴィンセントがリバイアサンに向かって銃を撃った。その弾は当然のように目に当たり、リバイアサンは暴れだした。しかし、こちらへ向かってきていたせいでリバイアサンは止まることなくこちらへ向かってきていて、このままではやはりぶつかってしまう。しかし、ヴィンセントが弾を撃った瞬間にはクリスの攻撃が始まっていた。クリスが剣を思いっきり振った瞬間、俺の剣より短い剣が伸びた。……いや、正確には伸びたのではないのかもしれない。クリスが剣を振った瞬間≪ジャラララララ≫という、鎖の音が響き、リバイアサンに向かって剣が一直線に伸びていく。……しかし、その剣先はリバイアサンには当たらなかった。ここからでも明らかに外れたことが分かる程だった。もうリバイアサンは目の前まで迫り、俺は死ぬんだと思った。……けれど、クリスは相変わらず無表情に……剣を更に振りぬいた。すると外れたはずの剣先はリバイアサンにぶつかり、わずかに軌道を変えた。しかし、まだまだリバイアサンの進行方向にこの船があることは間違いない。俺は咄嗟にアランを見た。最後、クリスはアランに峰で思いっきり叩くよう言った。……それはもしかして、斬るのではなく、その力で船を無理矢理動かそうとしているんじゃないか?そう頭を過ぎったときには反射的に船にしがみ付き、振動に耐えられるよう構えた。いつの間にかヴィンセントもクリスも揺れに備えていて、アランだけが立ち、迫ってくるリバイアサンの方を見つめていた。そしてアランは手に持った長剣をクリスのように両手で構え、バットを振るように構える。……そしてついにリバイアサンが目前に迫った瞬間――

「ふんっ!」

 目にも留まらぬほどのスピードで剣をリバイアサンに叩き付けた。いや、正確には何をしたのかは分からなかった。アランが振ったと思った瞬間、体が吹き飛びそうな感覚と共に、景色が飛んだ。俺は叫び声を上げることもできず、水が跳ねる≪バシャッ!バシャッ!≫という音を聞いていた。しばらくすると船はドンドンゆっくりになり、ついには止まった。恐る恐る頭を上げ、さっきまでいた方向へ頭を向けると、まだ海に横たわる巨大な物体が見えていた

「怪物が起きる前に行こか」

 さっきまであんなことがあったにも関わらず、ヴィンセントはすでに笑っている顔に戻り、帆を下げだした。俺はそんなヴィンセントを少し羨ましく思いながらも、他の2人の様子を確認して驚いた。他の2人はいつも通り無表情で、どこも疲れた様子がないのだ。まるでそれが日常でもあるかのように、クリスは再び横になり、アランは刃こぼれがないか確かめているのか、座って剣を眺めていた

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