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作戦

 結局、俺は一度も勝てなかった。合計で何回殺されたか分からない。覚えてるだけでも心臓を18回、首を6回、脳を3回刺された気がする。そのたびに死にそうな感覚を味わった。もう夜は遅く、もう数時間で夜明けという時間だった。しかし、別にこの船にルールなどない。食事は機械で作るので食べたいときに食べられる。働く必要はない。寝室は4人1部屋だけど、自分のベットがあるので寝たいときに寝ればいい。だからこの時間まで練習してても問題はない。この後はぐっすり眠って、起きたらもう一度やろう。この時間までやったかいがあるのか、少しだけ分かったことがある。当然のことながら、バーチャルの世界だろうとなんだろうが、俺は斬ることに躊躇いがあるのだ。もちろん、それは普通のことだけど、今はそれが邪魔なのだ。実践では本当に人の命を奪わなければならない。そうしなければ自分の命を奪われる。同室の3人。あの3人はおそらく、殺すことに迷いなどないのだろう。

 俺は寝てるであろう3人を起こさないようにゆっくりと部屋に入った。その瞬間――

≪ザクッ≫

 首の真横に何かが刃が刺さった。その刃は未だに明るい部屋の端にあるソファーに座ったままのアランの手から伸びていて、首よりギリギリ1,2cm離れているだけだった。

「…………」

 俺はあまりの恐怖に動けず、何も言えずに黙っていた。入ると同時にこんなことになるなんて考えもしなかったし、全員寝ていると思ったのだ。アランは入ってきたのが俺だと分かると、どうやっているのか振り上げるように剣を上げると、その剣は一定間隔で折れていき、再び『W』の形になり、アランの背中に納まった。そして、今になって気づいたが攻撃こそしなかったものの、ヴィンセントは銃をこちらへ向け、クリスも剣を両手に構えてこちらへ向けていた。

「なんやライか。てっきり、敵が侵入して来たかと思ったのに」

 ヴィンセントはまるで、敵じゃなくて残念とでも言いたげにそう言い、腰に銃をしまうとベットに横になった。アランもいつの間にかソファーで腕組みをして同じ体勢に戻り、クリスも毛布を被り寝始めた。俺はしばらくその場を動けなかったが、疲れのせいか、動けるようになったあとはすぐにベットに入り、眠ってしまった

 起きた時には昼過ぎだったと思う。時計などないので正確な時間は分からない。まあ、時間など分かったところで何にもならないけど。回りを見渡してみると相変わらずアランはソファーに座っていた。しかし、ヴィンセントとクリスはどこにもいない。俺はとりあえず風呂に入ろうと、着替えなど(そういうものはアリューさんが用意してくれた)を持って部屋を出た。浴場は広く、この船は動くホテルのように思えた。風呂から出て部屋に入ろうとノブに手をかけた瞬間、昨夜のことを思い出した。もしこのまま開けて入れば、また昨日と同じ目に合うかもしれない。俺は少し考え、ノブを回し、引いて開けると同時に自分もドアと一緒に移動した。俺はソォッと中を見てみると、特に剣を取り出した様子もなくアランはソファーに座っていて、とりあえず安心した。俺はそのまま中に入り、剣などを用意する。まだお腹は空いていないので何か食べる前に訓練をしようと思ったからだ。

 それから向こうに着くまではずっと同じことを繰り返していた。おかげで多少は戦えるようになったものの、一度も……いや、一撃すら当てられないまま目的地についてしまった

 セントラル・シティーは思ったより大きく、ファーディスト・アイランドとの印象の差が大きかった。まるで田んぼばかりの田舎から大都会へ来た感じ。建物は当然コンクリート(たぶん)で、ビルのようなものまである。一見すれば、元の世界に戻ってきたような錯覚を覚える。俺が景色を見ている間にも同室だった3人はスタスタと歩いていく。結局、あれ以降も話したのはヴィンセントとだけで、アランともクリスとも話をしなかった。まあ、ヴィンセントとも話をしただけで、個人的なことなど何1つ分からなかった。

 3人は町の中心に向かっているようで、大きな道を真っ直ぐ歩いていく。俺達以外に剣や銃を装備した人は回りに見当たらず、結構目立っていたが、3人はそんなことを気にした様子もなく、どんどん歩いていく。俺はその数歩後ろを歩く。数分歩くと目の前に大きな城が見えてきた。俺は思わず立ち止まる。見ただけで、ここで一番偉い人が住んでると分かる作り。ここが作戦の本拠地。俺はそう直感し、手に力が篭る。ここから始まる。これからどうなるかは分からないけど、成功したときには隣に夏海がいる。ただそれだけは分かっていた。

 3人は止まることなく、いつの間にか扉を開けて入っていくのが見えた。俺は慌てて追いかけ、直前で閉まった扉を再び開け、中に入る。中は外見と同じように豪華で広かった。……ただ、中には誰もいなかった。これだけ大きな屋敷なのに、使用人らしき人が1人もいないのだ。3人はそれでも歩いていく。まるでどこへ行けばいいのか分かっているかのように。もしかしたら、この世界で生まれた人なら誰でも知ってることなのかもしれないが、俺は戸惑いながら3人に続く。3階まで上がり、ある部屋の前まで来た。その部屋は他の部屋とは違う雰囲気が漂っていた。3人は初めてそこで立ち止まると、アランは2回だけ部屋を叩き、扉を開けた。部屋の中はどこかの社長室のようで、机の向こうの椅子には男の人が座っていて、俺達の入室に驚いているようだった。

「君達は……?」

「ソフィア様奪還作戦に参加しに来たんや」

 ヴィンセントがアランの前に出て、そう言った。男はその言葉を聞くと、どこか悲しそうな顔をしながら言った

「その作戦は……もうないんだ。」

 一瞬、男がなんと言ったのか理解できなかった。奪還作戦が……もうない?

「どういうことや?」

 後ろからだから分からないが、アランとクリスは全く動揺した様子はなかった。だが、ヴィンセントだけは違った。後ろの俺にすら分かるほどの殺気をヴィンセントは出し、男に聞いた。男はその殺気に怯えているのか、突然震えながら喋りだした

「あまりにも死者が多すぎて、中止になったんだ。だから悪いことは言わない。帰りなさい」

「船はあるのか?」

 男の言葉に、今度はアランが口を出した。けど、船があるかどうかなど聞いてどうするんだ?……まさか自力で行く気なのか?男もすぐにそれに気づいたのか、必死で頭を横に振る

「市長さん。大人しく船を出してくれへんか?」

 ヴィンセントまで自力で行く気なのか、殺気を出しながら市長と呼ばれた男の方へ詰め寄る。そこまでして、なんでヴィンセントとアランはソフィア様のところまで行きたいのだろうか?

「……だが、これ以上死者を出すわけには……」

「安心せい。わいらはただ、自分の意思でセシルムへ行くんや。作戦は関係ない。」

「……2人はどうしてそんなにもソフィア様のところに行きたいんだ?」

 我慢できず、とうとう聞いた。もちろん、答えてくれるとは思っていなかったけれど、そこまでして夏海に会いたい理由が分からなかった。

「……そういうライはなんでソフィア様に会いたいんや?」

 予想したとおり、ヴィンセントは振り返り、そう聞き返した。けれど、俺は答えられない。答えても得はなく、損しかない。

「答えられない」

 俺はヴィンセントを見つめたままそう返した。しばらくヴィンセントと睨み合う形になったが、とうとうヴィンセントはどうでもよくなったのか、再び市長の方に向き直り、船のことを頼みだした。

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