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第五十八話 魂の籠







 あれから四日。


「んで、雫はどうよ」

「別に。どうもしねえな」


 その四日を付きっ切りで特訓していた羽織は、条の問いにあくびを噛み殺しながら答えた。

 あの後、羽織は雫を連れてどこへ行ったのだろうと思った残りのメンツだったが、九条家の裏庭にいて気抜けした。

 食事も当然のようにとりにくるし、なんか秘密の特訓的なノリだったのに、普通に普通である。とはいえ雫は九条家に住み込みで、言うなればまあ強化合宿みたいな感じだろうか。

 抗争までの短い間ではかる、強化合宿。

 そして、その合宿で毎日ヒマ潰しに訪れては、同じことを問う条にそろそろ羽織はうんざりしてきていた。そんなにヒマか貴様。

 仕方なく、今日は少し言葉を増やす。一度聞けば満足するだろうと考えて。


「魂の制御能力、それだけはズバ抜けてる。その一点だけで言えばあいつは天才的だ。正直おれもちょっと驚いた。

 ま、他の剣術やら能力性能、威力、戦闘構成力その他諸々は大したことねえがな。そこら辺は少し仕込んでおこうかね」

「……それで黒羽総帥に勝てるのか?」

「今のままじゃ百パー無理。無理に無理を重ねて無理矢理だ。……だがあいつは運がいい」

「無理に無理を重ねても無理矢理にはならんだろ……で、運?」

「ああ。魂の制御力が高ェなら、教えられる技法が一個ある。黒羽総帥とフリーの退魔師、この多大な実力差をひっくり返す、とある“隠しコマンド”がある」


 この二週間で他のなにもかもは教えねえが、それだけを雫に叩き込む。まっとうに考えて二週間ていどで習得できるものでもないが――雫の成長性に希望をもてば、なんとかなるかもしれない。

 羽織が言い切ると、条は目を丸くしてからすぐににっこり笑う。実に晴れがましい笑顔である。


「なんだそれ、俺にも教えてくれよ」

「駄目だ」

「おい、ケチ」

「言ってろ。これはそもそも誰かに教える予定はなかった。というか、このまま誰にも知られず埋もれていくべき知識のひとつだ」

「じゃ、なんで雫には教えてんだよ。ひいきじゃねーか」

「……」


 いつになく不満を露にする条の姿に、羽織はどうやら勘違いしていたらしいことに気づく。

 条はヒマだから訪れていたのではなく、羽織に強くしてもらってる雫が少なからず羨ましかった、のだろう。なにを教えているのか、気になったのだろう。そして出来れば目で盗めれば盗もうと思って、だが見ただけでは雫は刀を構えて静止しているだけ。なにをやっているのか皆目見当がつかない。

 それで、羽織から聞き出したかった。

 条は口を尖らせて、さらに文句をぶつけてくる。


「というか、羽織って確か雫のこと嫌いだったじゃん。なんか最近はそこかしこで優遇してるように見えるけど?」

「……見切りをつけてんだ」

「見切り?」


 迷ったが、羽織は渋々言うことにした。

 確かにひいきにしか見えない行動に、条にまで教えろと強く迫られても堪らない。この技は本当に誰にも知られたくはないのだから。

 それを避けるためにやむかたなく、羽織は白状する。


「ああ、見切りだ。雫は、黒羽 理緒に勝利しうるのか、そこを見極めなきゃならん」

「なに、勝てる見込みあんの?」

「微妙にある。そして雫は、その微かを引き寄せることができるのか、それが知りたい」

「なんで」


 短い言葉に、羽織は口ごもる。

 そのまま口を閉ざして少し目を上向ける。どうやってぼかして話そうかと思案する。

 問いに出た答えの言葉にフィルターをかけ、丁寧に迂回して、当たり障りなく、そして解読困難な言葉へと編集していく。


「――おれが雫を嫌いなのはな、あいつを見てると昔の自分を思い出すからだ」


 このくらいだろうか。羽織は結構慎重に言葉をつむぐ。


「おれは昔の自分が嫌いだ。大嫌いだ。できれば殺してやりてえ。そんな殺したいほど嫌いな奴に似てる女だぞ、そら嫌うわ」

「ん、まあ……そう、か」


 明らかによくわかっていない。条のお得意のとりあえず適当に頷くという行為。それを承知していながらも、羽織は構わず続ける。


「だが、それは同時に妬みでもある。それはちゃんと自覚してる」

「妬み?」


 さっきから言葉を繰り返してばかりで、条はなんだかオウムになった気分だ。

 羽織としては、あまり突っ込まれずに話が進められるので望むところであるが。

 奇妙な利害の一致が生じ、そのため会話はスムーズに進んでいく。


「ああ、雫がおれに似てるのはな、なにも性格とか気質、人格面じゃねえんだ」

「そうじゃなきゃ俺が困るわ」


 あんな真っ直ぐな羽織……ないわぁ。

 条はなんだか顔を青くして震えた。恐ろしい想像をしたらしかった。

 羽織は呆れ目で息を吐く。


「似てるってのは立場とか立ち位置、言うなりゃ役割だ。だが――


 おれはその役割を演じていて――ことごとく失敗した」


「!」


 それには、割と大きな衝撃を覚える。少なからず驚愕を感じる。

 なんでもソツなくこなす姿をよく知っている。どんな状況にも余裕の笑みを絶やさない精神力を何度も見ている。自分にも勝利しうる戦巧者ぶりを、身をもって体験している。

 その羽織が、失敗ばかりだったなんて、あまり現実感のない発言だった。

 とはいえ別に理解は求めず、羽織は肩を竦めてみせる。

 

「で、ほれ、雫はどうだ」

「……基本的には、波乱万丈だが順風っぽいな」

「な? ほんとマジむかつくぜ!」


 自分と似たような立ち位置で、自分にはなせなかった成功をことごとくさらっていく。

 それが正直、羨ましかった。ずるいと、妬みを感じてしまった。

 そういうところがまだまだ自分は幼いと、魔益師として精神が弱いと、羽織は自省するばかり。


「けど……」


 それとこれとが、どう関係するっていうんだよ。条の無言の問いに、羽織は頷き返す。


「おれには行き着けなかった結末に、あいつは辿り着くのかもしれん」

「あぁ、その分岐点が黒羽総帥か」

「そういう風に、おれは思う。

 おれがおれの昔に勝手に当て嵌めてるジジイな思考だが――「いや、歳いくつだよ」――気にするな」


 話の腰を折るなと睨みつけてから、羽織はごほんと咳払い。声音を真剣に戻す。


「――黒羽 理緒と戦う雫は、おれが勝ち得なかったあいつとの戦いを思い出す」


 厳重に厳重に封じて、精密に精密に蓋して、丁寧に丁寧に魂の奥に仕舞い込んである記憶の残滓。

 黒く暗澹とした、恐怖。絶望よりもなお闇色な、畏怖。

 努めて忘却しつつ、羽織は平静平常に言う。


「おれはあの時、勝てなかった。だがもしも、雫が黒羽 理緒に勝ったら? もしも勝ったならおれは――おれは――」


 言葉は続かない。

 なにが言いたいのか、なにを言えばよかったのか、羽織は自分でさえわからない。

 口を閉ざし、目を伏せる。

 条はそんな鎮痛そうな羽織ははじめて見て、それ以上の言葉を繋げない。触れてはいけない部分に触れてしまったことを、今更ながら自覚した。

 そこで羽織は失態したことに気づき、舌うつ。すぐに必要以上に明るく声を跳ねあげ、話を終わらせにかかる。


「ま、それでおれはあいつが勝ちうる可能性だけでも引っ張り出してやる。そうじゃなきゃフェアじゃねえからな。完全に負けの目しかねえ状況じゃ駄目だ。そうじゃねえ、勝ち目は薄くとも、だが確かに存在する。そういう状況で、あいつの真価を見極める」

「そっか、まあ納得したとは言わんけど、これ以上は突っ込まないことにする」


 それに乗っかる形で、条も無理にでも声を明るくする。

 そしてそのまま禍根も残さないように、素早く別の話題に切り替える。


「ああ、そうそう、今回の大試合な、ソウルケージに審判を依頼したらしいぜ」

「審判だと?」


 急な話題にもつっかえず、羽織も即座に興味深そうな声音にして話題転換を手伝う。

 大きく頷いて、条は言われた言葉をそのまま流用というのが見え見えの拙さで言葉を補う。


「死亡を認めない点や、参加人数が膨大になることが予想されることから、審判役が必要だろうと――そういう感じらしいぜ」

「ふうん、それでソウルケージか……」


 ソウルケージ――SoulCage。

 日本名で表記するなら“魂の籠”。

 それはイギリスに本部を置く、日本でも四大機関とされ、世界でも有数の退魔師機関である。

 その組織の巨大さは他の追随を許さず、世界各地に支部がおかれていて、日本にあるのもそのひとつに過ぎない。そして支部という単位でさえ、日本で四大機関と呼ばれているのだ、その全容は計り知れない。

 構成員はどれほどか、規模はどれほどか――組織に所属している者さえ、巨大すぎて把握し切れていないかもしれない。

 ともあれ、世界規模の組織であるため、ソウルケージ日本支部の構成員は日本人だけでなく外国人も多い――あらゆる国からあらゆる国の者をスカウトしている、多国籍組織である。

 日本のソウルケージには日本人と外国人とがほぼ同程度の数所属しているらしい。普通は地元の者のほうが多いものであるが、これは日本に条家十門の存在があり、また魔害物出現率が高いため、他国よりも層を厚くしているためである。

 そのような知識を引っ張りだし、だがそれよりも思い浮かぶのは――今回の件でも、意識的でなくとも少しだけ噛んでいる組織ということ。

 一条だって承知のはずだが、それでも審判にソウルケージを選ぶとは。いやそれとも、理緒のほうが強硬したのかもしれない。

 まあ単純に四大機関同士の喧嘩なため、仲立ちも同じく四大機関を選ぶのは当然の帰結ではある。ならば最後の機関たる首里家――“首里退魔派閥”でもよいのではないかという意見もあるが、あそこは組織の規模として条家に次ぐ小ささなので万単位を動員してくるであろう“黒羽”との仲立ちには向かない。

 ある意味で抗争の後ろ盾となったとはいえ、その抗争自体で干渉してくるとは思えない。

 ならば、まあ、


「妥当か」

「これで心置きなくやれるってもんだ」

 

 審判がつけばいろいろな意味で安心感は段違い。

 条はただ存分に戦える機会に笑った。

 笑って、それから戦いという単語でこの場に来た理由を思い出す。

 なにをしてるんだ俺は――条はほんの一瞬だけ俯いて、すぐに視線を強く羽織に向ける。


「なあ、羽織、俺も……俺も強くしてくれ」


 ついにその言葉を言うか。

 今まで言葉でなく言い続けていたこと、のらりくらりと羽織が避けていたこと。

 それを言葉にして、強く、真摯に条は言った。

 羽織はこめかみに指を置いて唸る。


「焦るなよ、お前は今でも十分強いし、これから確実に強くなる。なのに、ここで焦って無理やり変な形で強くなる必要はねえよ」

「でも!」

「でもじゃない」

「いや、でもだ……でも、俺の今の実力で敵わない奴はゴマンといるだろ。そんで、そいつらともしも戦うことになったら、強くなるまで待ってくれって、言うのか?」

「む……その場合は、逃げろよ」


 揚げ足とりのような回答にも、羽織は怯まない。どこまでも正答でもって切り返す。


「自分より強い奴なんざ相手する方が間違ってる、矜持もプライドも命あっての物種だろうが」

「また――また仲間を置いて、ひとりで逃げろって言うのか!?」

「……」


 思い起こされるのは先日の件。仲間を置いて、逃げ帰った後悔の日。

 戦略上の撤退とか、誰かを助けるための後退とか。

 言い訳はできる。無理にでも自己を納得させることだってできるかも、しれない。

 だが、


「俺は納得したくなんかない。あれが最善だったなんて、あれでよかったなんて、絶対に、納得したく――ない!」


 だから。


「頼む。頼むよ、羽織」


 いつになく真摯で、いつにもまして真剣。

 常時の適当さ加減をどこかにおいてきたかのような風貌に、羽織は目を細める。

 強くなりたい、その意志が身体中から溢れかえって迸っているかに見える。

 それでも、羽織はいつだって頑固にひとこと。


「駄目だ」

「っ」

「だが……はあ、アドバイスくらいならしてやる」

「え?」


 憤怒に近い後悔の顔に、羽織はため息とともにぶつけてやる。

 強くなりたい気持ちは、痛いほどわかる。痛ましいほどに、共感できるから。

 お節介に少しだけ口を挟んでやる。いらない世話を、焼いてやる。


「お前に足りないモンはとりあえずは経験だ。戦闘の経験、戦闘思考の経験、逆境の経験、勝利の経験、敗北の経験――なにはともあれ、経験が足りん」

「いや、そりゃわかってるよ……」


 しかしてそれは一朝一夕でどうこうできる類の話ではない。

 羽織だってそれはわかってる。だから、擬似的にでも身体に叩き込む。


「だから、誰か……そうだな、お前の親父さんととりあえずひたすら殴り合え」

「はっ、はぁ?」

「勿論、能力全開なんて阿呆はすんなよ、それじゃお前が死ぬ。いいか、殴り合いに条件をつけろ。条件は、そうだな――『互いに具象化し能力も使う、ただし細心の注意を払って出力を限りなく抑えて殴りあう』って感じがいいな」

「? 力を、抑えるって?」

「お前は能力制御が下手だ、雫よりずっとずっと下手だ」

「ぅぐっ」


 痛いところを突かれた。


「だから、喧嘩の経験と同時に――「いや、喧嘩って言い方は見も蓋もないぞ」――二条は喧嘩殺法主体だろが。

 って、話そらすな。

 えーと、つまり、経験と同時に魂制御を練習しろってことだ」

「なるほど」

「能力が抑えられてりゃ喧嘩も長引く、また特訓の時間が延びる、制御練習もな。

 あぁ、あとできれば九条の誰かを傍に置いとけりゃベストだ、手すきの奴がいりゃあな」


 ざっと言い終えると、なんだか不満げな条。


「んん……疑うわけじゃないが、ほんとにそれだけで強くなんのか?」


 言葉とは裏腹に疑いの目、半信半疑の体の条。

 そりゃそうだ、こんな大雑把な鍛錬法でさくっと強くなれるのなら誰だって苦労はしない。

 普通なら。


「なる。お前、ひたすらって言葉履き違えんなよ、ひたすらはひたすらだぞ」

「え、それって――」


 一瞬、顔が引きつる。最悪の予測、まさかそれが正しいのか。

 羽織はニヤリと悪そうな笑みで大きく頷いてやる。


「朝から晩まで寝る間も惜しんで、寸暇も惜しんで、徹底的に続けろ。合間合間の休憩は認めるが、睡眠はできれば三時間以下な」

「ちょ、それは無理があるだろ!」

「そうか? まあ、最終日くらいは睡眠時間、増やしてもいいけどよ」

「いや、キツイキツイ!」

「強くなるにはこれが一番、手っ取り早い。

 お前はだいぶ地力はあんだ、基本性能はガキの頃から鍛えてあんだ、あとはなんか切っ掛けがありゃなんとかなる――その切っ掛けを、無理矢理にでもつくるための鍛錬だ」


 ……やや誇張があるが、魔益師にはこれくらいでちょうどよい。

 誇張で強くなりゃ儲け物である。そして魔益師は思い込みで強くなる生き物だ。

 だから羽織はこういう時の物言いはでかい。


「あぁ、あともうひとつ」


 もう一押し。


「いいか、お前は強い。お前は強いし、強くなる。それは確実だ。おれが保証してやる。だから腐らず気張れ、頑張れ」

「……」


 意外すぎるほど真っ直ぐな羽織の激励に、条はぽかんとしてしまう。

 ――こういうギャップの効果は雫の時にも仕掛けたが、なんとも羽織は巧妙である。

 唖然から抜け出ると、


「おう!」


 叫ぶように頷いてから、すぐに条は走り出した。

 考えずとも二条の屋敷に向かったのだろう。こういう時は愚直でシンプル、あまり考えない性格がよい傾向を生む。

 まあ、あの単純さ加減なら、本当にミッチリ二条家当主にしごかれて飛躍的な成長もありえるか。そう独りごちてから、羽織はもう一度ため息をついた。


 ――おそらく今のお節介はいらないものだった。

 条の父親が育てようとしているスタイルからやや外れてしまう方策を、羽織は教えてしまった。

 おそらく条の父、二条家当主は、条をゆっくり確実に育てる予定だったのだろう。物理的な強さは時間をかけて着実に積ませるつもりだったのだろう。そもそも実戦的な強さは、近代になってそこまで重要視されなくなってきているのだから。

 それは時代が巡って、今は他にも強大な組織ができてきているからと、昔と比すれば随分と魔害物の攻勢が落ち着いているからだ。……まあ、最近は少々、立て込んでいるが、それまでは割と平穏に落ち着いていた。

 だから、二条家当主は条に強さの前に、次期当主であることを考慮し他の家との交流を持たせたかったのである。それで九条の護衛に、まだ少々若すぎるきらいのある条をあてがった。

 そう考えなければ条が護衛というのがおかしい。二条家直系として強くしたいなら、もっと場数を踏ませ、戦場に放り出すべきなのだ。それをしないのは、今は強くなるより重要なことを見据えているから。

 とはいえ無論に、これは条が弱くてもいいという意味ではない。決してそれはありえない。

 若いうちに強さを溜め込ませ、のちに一気に爆発させる。そういう意図があるだけ、ただ遅咲きに育てているだけである。

 まあ、当の息子は少しもわかっちゃいないのだろうが。

 まさに親の心子知らず、である。

 羽織が躊躇ったのは一応はそういう意味も含まれている。育て方の方針として条の父親は確実なる強度を与えようとして、だから準備期間の条に変に何かを教えるのは育成を歪ませるだけだ。

 ま――戦争が勃発すんだ、戦時特例ってことでこれくらい勘弁してくれ。

 言い訳がましいことを思案して、羽織は苦めの笑みを浮かべるのだった。







「…………」


 横でなんだか喋くり続ける男ふたりを無視して――というか集中しているために気づくことができず、雫はただ瞑目する。

 己が魂の具象武具を自然な構えで握り、そこに意識を集める。精神を収束させる。

 能力を発動させるわけではなく、単純に自分の魂を強く見つめるような感じ。

 具象化しているのは、魂のイメージを掴み易くするため。どこを意識すればいいのかわかりやすくするため。

 

 ――魂を識れ。感覚的な話でいい、曖昧でもいい。ともかく魂の形、大きさ、長さ、色、模様、手触り、匂い――なんでもいい、自分が魂にあると思うものを感じ取れ。『魂とはなんぞや』という問いに対する自分なりの答えを見つけろ。


 そんな全く要領を得ないことを四日間前に言われ、後は集中しろとしか言わない。

 つまり雫はここ四日間、傍目には構えをとり続けているだけしかしていないのだ。正直、だったら別のなにがしかの付け焼刃でも覚えたほうがまだマシなのでは、と考える雫であったが、羽織は許さなかった。

 まあ、たまに集中力が切れた時や合い間の休憩時に話してくれる戦闘理論についてはためになっているが、しかしそれにしてもそろそろダレる。痺れが切れる。

 なんてことを考えておきながらも集中を続ける辺り、雫の律儀さ真面目さがよくわかる。

 果たしてこれで、あと十日後に戦う理緒姉ぇに敵うのか。雫は、振り払えない疑問に苛まされ、それを追い払うようにまた意識を魂に向けた。








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