第三十九話 夢
子供は青い空を見て手を伸ばす。
手が届くのではないかと、あの空を掴めるのではないかと、必死にその手を伸ばす。
だがいずれ子供は気付く。
青空の遠さを、伸ばした手の無意味さを、必死に掴もうとする馬鹿らしさを。
否応なく――気付いてしまう。
気付いてしまえば、もう恥ずかしくて顔を上げていられない。
俯いて、目を逸らして、誤魔化すように地面を睨みつけるんじゃないだろうか。
そしてきっと――もう二度と手を伸ばすことはなくなる。
目一杯に手を伸ばさずに、曲げた手の届く範囲のなにかを掴んで満足する。
満足した、ふりをする。
だから夢を掴むことができるのは、よくも悪くも子供だけなのだ。
貪欲で妥協を知らず、無知で無垢で無謀な――そんな、どこかに子供を残すような者にしか夢は掴めないのだ。
とはいえ。
じゃあ。
――夢を掴むには、一体どこに手を伸ばせばいいのだろう?
「! 浴衣様!」
「浴衣!」
「羽織さまっ! 加瀬先輩っ!」
ようやく辿り着いた最上階、なによりも待ち望んだ再会がそこにはあった。
羽織はとにもかくにも浴衣のその無事な姿を見て全力で安堵する。よほどに緊張を強いられていたようで、全身が弛緩していく感覚がよく把握できた。
もうすぐにでも駆け出していき身柄を保護したかったが、そうもいかない。
狂科学者、マッドサイエンティスト。
ヒトガタ、リクス。
その二名が浴衣のすぐ傍らに立ち、まだ立ち塞がるのだから。
「やあ、羽織、また会ったねぇ」
「おう、マッド、これでさよならだな」
マッドの憎らしいまでの楽しげな笑みにも、羽織は平然と対応できていた。
浴衣をその目で確認したことにより、幾分も余裕が回復しているようだ。
「くく。私としては、末永いお付き合いを期待しているのだがねぇ」
「薄ら寒いことほざくなよ、てめえはこの場でぶっ殺す」
すぃ、と流れるような手つきで空を掴むと、いつの間に手品がごとく握られているナイフ。
すぐに気づき、釘をさすようにマッドは馴れ馴れしく浴衣の肩に手を置く。
「おっと、動かないことだね、こちらには人質がいるのだよ? ――そっちの女の子、君もだ」
「っ」
「君の能力についても、ライラとルインとの戦闘を覗かせてもらったからね、知っているよ」
マッドは未だ誘拐犯ごっこを楽しんでいるようで、羽織は悪ノリに呆れたが、雫は真剣に目を細めて警戒心を強める。
刀を握り、何気なく手首を回していただけなのに――看破された。雫は歯噛みしながら手を止める。集い始めていた風が霧散していく。
それにしても。
やはり全部覗かれていたか。
ということは一刀と八坂の存在も露呈しているということ。羽織は下のふたりもあまり楽観できない状況に追い込まれている可能性を感じた。
まあ、それは本人の力でどうにかしてもらうとして。
羽織はマッドと対峙したのだから、こちらはこちらでどうにかしなければ。
マッドは視線を強める羽織の姿が楽しいのか、含むように笑う。
「さて、みんなで両手を挙げて戦意のないことを理解しあったところで――本題に入るとしよう。少しお話に付き合ってくれないかい、羽織」
「あ? やだよ」
「いいから聞きたまえ、私は自慢げな口調で語るのが大好きなんだ」
反射的にでた拒絶の言葉もまるきり無視、マッドは勝手に話し始める。
「私は、信号機という存在が嫌いでね」
「はあ?」
いきなり何を言い出すんだ、この男は。羽織はマジで世間話に興じようとし始めるマッドに呆れてものも言えない。
その間にも、マッドは続ける。
「信号機、あれは安全の代価に時間を消費しているじゃないか。安全と時間とは、天秤で計るまでもなくつりあいがとれるわけがないじゃないか。だから私は信号機で停止したことなどないね」
「…………」
なんてはた迷惑な奴だ。
「つまりまあ、人の好き嫌いなどは千差万別ということさ。
ふむ……たとえばふたりの人間が、ひとつの事実を見たとしよう。
その時、まあ例としてオーロラを見たとしよう。ひとりは綺麗だと感歎した。だがもうひとりは不吉だと慄いた。
そう、往々にしてふたりの感想は全く違うものになるだろう。同じ事実を見たというのに、だ。
これがいわゆる認識の違い、という奴だね。認識の違いは、魔益師にとってそれはそれは重大で重要な要素だなんて、勿論言うまでもないことだね。
だから、たとえばひとりは不可能と言った事例が、誰かには可能と呼べるのかもしれない」
完全に前半の信号機の話はいらなかっただろ! 羽織も雫も心の中では思い切り突っ込んでいた。
ペースに呑まれまいと、どうにか思うにとどめたが。割とそういうところでは気の合うふたりである。
羽織は嘆息とともに言葉を吐き出す。
「それで、おれの認識は怪しいもんだって言いてえのか」
「そうだね。不可能だなんて、それが既存の常識から導き出されただけの答えなのだとしたら、くだらないと言わざるをえないよ。常識は縛られるものではなく、俯瞰するものだろう?」
「かっ、どんな考え方してやがる、常識は全うするモンだろうが」
「……」
本当に思っているのかかなり疑問の残る台詞だったが、雫は沈黙を貫く。
マッドも雫と似たような感想を思ったらしく、愉快そうに歯を見せた。基本的にも応用的にも空気を読んで黙るということをしないマッドである。
「思ってもないことを言うんだねぇ。一端の魔益師が本気でそんな風に考えていたら、次の日には能力を喪失しているに決まっているじゃないか」
「それこそが常識に縛られた考え方じゃねえのかよ?」
「んん? おや、本当だね。じゃあ、やっぱり常識には縛られることもあるとしよう」
「おい! 前言撤回早すぎるだろうが! 自分の言葉にゃ責任もてや!」
「残念だが、責任とは私の嫌いな言葉でね。責任を持つだなんてとんでもない」
「お前って、ほんっとーに物凄く迷惑な奴だよな……」
そら、はぶられるわ。
羽織は手加減抜きで脱力してしまう。
力が抜けて肩は落ち、腕をぶらぶらさせながら、羽織はぞんざいな姿勢のままに問う。
「てーか、おれの認識云々言うならよぉ、そもそもまずこっちから訊きてえもんだな。お前、本気で死人が生き返るとでも思ってやがんのか?」
「勿論」
即答、だった。
迷いも惑いも躊躇いもない。完全に、ない。
羽織は阿呆がと強烈な嘲笑をぶちまける。
「はっ、随分とメルヘンチックな思考回路した科学者サマだな、てめえマジで科学者かよ」
「私は科学者だよ。
それとも知らないのかい、科学というものは突き詰めた原点は不老不死にあるのだよ?」
「あ?」
思ってもない斬り返しに、羽織は舌を止めてしまう。
対して、マッドは油をさされたギアのように澱みなく声を奏でる。
「科学がはじめてできた古代――それは当初、死からの延命法のために生まれた概念だったのさ。後には錬金術などと呼ばれ、現代でも生きる時間を延ばすために様々な方策が練られているじゃないか。
科学者なんてのは、みんな夢見がちなお子様なのさ。子供の素養を、どこかに残存させた者の名を科学者というのさ」
「科学者全体が誤解されかねないこと言うなボケ、てめえひとりの考え方で他の科学者をまとめて子供扱いすんな失礼だろが。
科学者ってもっとこう、なんだ、その、クレバーなもんだろ」
それこそ子供っぽく偏見な感想だったが、羽織は自分のことを棚にあげるのが得意だった。
マッドは片眉を跳ね上げ、くくと唇を歪ませて話に乗っかる。
「クレバー? じゃあでは、そうだね、科学者らしくちょっと頭よさそうなことを言おうかい?」
「……なんでキャラ作りを自発的にやるんだよ、お前は」
「“知行合一”という言葉を知っているかい?」
「無理に繕うなよ。……確か、明代の陽明学者、王陽明の学説か」
呆れてばかりだが、なんか哀れになってきた。羽織は仕方なく付き合ってやる。
なんとも嬉々とした表情で頷くマッド。
「その通りだ。『知ることは行うことの初め、行うことは知ることの完成である』……さ。
知は全て行を通して成立し、つまりは行を通してしか知は成立しえないという考え方だね」
「……? ……??」
横で雫が不可解そうに表情を顰める。知らないらしい。
羽織は面倒そうながらも解説を加えてやる。雫がこのまま意味不明の状態では、マッドのイカレ話をひとりで聞き入らなければならなくなる。それが嫌だったのだ。
「あー、なんつうか大雑把に言うと、知ってるってことはやってるってことだし、やってるってことは知ってるってことである。いや、そうあるべきだってことだ」
「知っていることはやっていて、やっていることは知っている……?」
繰り返すような雫に、マッドは苦笑を漏らす。
「些か乱暴な解釈だが、まあそんなところか。知っているのに実践しないのは、真の知ではないということさ」
「で、それでなにが言いたい」
「だから、だからさ。私たちは死者が蘇らないと知っている――だが、誰も試みてもいないのに、何故言い切れる」
「はあ?」
「私たちは死者が蘇らないと知っている、これは本当の知か? 違うと私は否定しよう。試みてもいないことを不可能などと、私は言わせない」
「それで、試してみるってか? 馬鹿じゃねえの、そんなのなんの論証にもなってねーよ」
思い切り馬鹿にするように言ってやった。
すると返ってくるのはやれやれというため息。
「ふう、君は頑固だね」
「至極一般的な思考回路だろぅが」
羽織は切れよく切り返すも、内心はため息で満たされていた。多大な諦観と多少のもどかしさに埋もれてしまいそうだった。
――本当に話が通じない。意図も、意見も、些細な小ネタも、どうも噛み合わない。
正直こうして会話が成立していることにも驚きを禁じえない羽織である。
いつまでも平行線を辿って、その上に両方の線がかなり距離を離している、みたいな感じ。
これで論理をぶつけ合わせて説得するだなんて、できようはずもない。焦点が合わなければ、何も視認することはできないのと同じように。
理解しようのない狂人――当初思い浮かべた感想は、今更ながら的を射たものだったと確信できる。
せめて。
そうせめて、もう少し理解のし易い要素のひとつでもあればいいのだが。
たとえば、死者を生き返らせたいのは――誰か大切な人のためである、とか。
……ありえんな。
自分で思考しておいて、羽織は馬鹿げた考えだと引き笑いが漏れそうだった。というか死ぬほど似合わない想像である。
と。
「――マッドさん」
「浴衣様?」
「? なんだね」
頃合いを見計らっていたのか、会話の継ぎ目を見つけて浴衣がズバリと切り込んできた。
その瞳には硬い意志力が見て取れ、なにかが燃えているようにも感ぜられた。
「わたしは、リクスちゃんから話を聞きました――あなたは、リクスちゃんのお母さん、あなたにとっての奥さんを生き返らせたいのだと」
「――」
羽織と雫には完全に初耳、どころか寝耳に水な発言。
絶大な驚きの余り口を挟めず――羽織に至っては変な予測が的中してしまった形になり、余計に混乱が増してしまった――ふたりの会話の成り行きを眺めるばかり。
マッドはどうにも演技っぽくシラを切る。
「なんのことだい、よく意味がわからないよ」
「別にあなたの口からどうこう言ってほしいわけではないです。肯定も否定も、わたしの発言を止めることはできませんよ」
「……」
「あなたもリクスちゃんと同じで、ただ悲しむのが怖いから、そんな夢にとり憑かれているんですか?」
「っ」
無表情を貫き通していたリクスが一瞬だけ反応を示すも、誰かに気取られることはなかった。
あえて厳しい語を選び、浴衣はマッドに言い募る。
「なんで、なんでですか!? かなしんで、悲しんであげればいいじゃないですか! それはとても自然なことなのに、なんでそれを拒むんですかっ!」
だが。
熱くなる浴衣に、マッドはこれ見よがしに冷めた調子で返す。いっそ冷酷なほどに、問いに問いで返す。
「悲しむ? どこに悲しむ必要があるのだね?」
「え?」
「彼女はどうせ生き返る。私が生き返らせる。悲しむ必要なんて、これっぽちもないじゃないか」
「なっ――」
リクスと同じような理屈を言う。だが彼女のように縋りつき泣きつくような口調ではない。決して、そんな言い訳がましい言い方ではありえない。
この男の言い様は確信で満ち満ちている。できると確信した上で断言している。絶対の常識として、信仰している。
それはなんて強固な確信か。いや、認識か。
そしてこれはおそらく死生観に対する認識だろう。
どうせ誰が死んでも自分がいずれ生き返らせる。大切な人もそうでない人も、必要ならば等しく生き返らせる。だから誰が死んでも問題ではない。ただ生き返らせる人数が増えただけに過ぎない。
マッドにしてみれば、死者も生者も突き詰めれば等価でしかないのだ。
こんなにも大幅に価値観が違うから、ありえない認識も受容できる。世界観が違うから、突飛な発想も頷ける。なにより死生観が違うから、蘇生も不死も可能と信じられる。
死生観までもここまで決定的に違うのだから、道理でこちらがなにを言おうと何処吹く風なわけだ。
「まあ、やはりそれもまた付随要素に過ぎないのだがね。なにかを行おうと決意した時、そこに含まれるべき理由はただのひとつであるべきか?
否だよ。夢はひとつでも理由は複数あり、それが織り交ざり、また別に追加されて、そうして叶えていくものさ」
「!」
その言葉に最も動揺し焦りを見せたのは、羽織たちではなくリクスだった。
だって、その言い方では、だって――まるで。
まるでマッドは、母のことをそこまで重要視していないように聞こえてしまうではないか。
果たしてそれはマッドにしかわからぬ真相であり、そんなことは意図せぬ発言だったのかもしれない。
だが、そういう風にも聞き取れるというのが聞き手にとっての真実。
閑話休題。
反論を聞き入れぬほどの強い言霊に、浴衣は決定的な差異を否応なく感じてしまう。こんなにもアリアリと見せ付けられた違いに、絶句する他にない。ここまで価値観の違う相手は、はじめてだった。
浴衣が俯き黙ってしまったので、羽織は一瞬躊躇うが、それでも問うべきは問う。
――およそ浴衣も、喋れるのなら次には口にしようとしたであろう事柄を、代行する。
「妻を蘇らせることじゃない、ならば――だったらお前の本当の目的ってなんだ? “生”の支配って、一体なんだ? てめえはどこを目指している?
理由は複数あっても夢はひとつ、なんだろ? じゃあ、それは――なんだ?」
「…………」
酷く珍しいことに、マッドはせわしなく動き回っていた口を一度閉じた。
沈黙を選び、虚空へと視線を向けて、なにか懊悩するように頭を振った。
「そうだね、君に本音を話してもらおうというのだ、こちらも明かしておこうか」
「……」
やっぱり、口の軽い男だ。
とはいえ、その口の軽い男が今の今まで隠し立てしていたというのだから、それだけマッドにとっては語りたくないことなのかもしれないが。
でも結局バラすんだから、ただタイミングを逸していただけなのか。よくわからない、マッドを理解しようなど、できようはずもない。
その理解不能の衣を、マッドは今より紐解く。
「――人は、殺す」
断じた言葉に反論反駁は許さず、どこまでも狂信に満ちた口調で述べたてる。
「誰にも否定できない事実として、人はあらゆる命を殺す。そうだろう?
外敵たる獣どもを、害毒なるムシケラどもを、外圧と化す自然たちを、害悪ばかりではない天地を、外患となる同族を、害心もたぬ同胞すらも――人は殺す。殺してきた。殺し続けてきたからこそ、人はこの星の覇者になりえたのだと、私は思う。つまり、人とは殺す者――殺すことで支配するモノさ。
――それを指して、『“死”の支配』と私は名付ける」
コツリコツリと酷くわざとらしく足音を響かせ、マッドは後ろを向いて窓へと歩みよる。
窓に手を添え、広がる景色に目を細める。まるで、そこから世界全てを見下ろし、嘲笑っているように。世界全てを見下し、嘆き悲しんでいるように。
静謐な声は続く。
「そして私は、いや……だから、か。そう、だから私は殺してばかりの人の身で、その逆のことをしようと思ったのさ――殺すことの逆、殺さずではない。そんなものは停止に過ぎない。停止など望みはしない。私は絶対に停止だけはしない。歩み続ける。それが前であれ後ろであれ、上であれ下であれ、立ち止まるよりはずっとずっとマシさ。
私が望んだのは、私が目指したのは――後ろへと歩むことだった。無なる場所から命を創り上げる。死んだものを、生き返らせる。二度と命を奪わせない。それらこそが死への逆行。人のサガからの脱却。私という存在の証明!
それを成しえてこそ、私は私であると世界に証明を果たすことができるのだ!
――“死”の支配からの解放。そうだ、名付けるのならば『“生”の支配』! それこそが私の全てを賭してでもやり遂げなければならない大願なのだ!」
まるで窓から世界へと演説しているかの如く、まるで背中で全てを語りあげているかのように。
「私は妻の死を切っ掛けとし、長年の時を浪費し消費し夢に向かって歩みだした。後ろに向かって走り始めた。
とはいえ彼女の死など、結局ははじまりにすぎない。あくまで切っ掛けさ。断じて契機だ。発端と現行は、既に決定的にズレている」
「……」
羽織は眉を寄せるも、口は挟まなかった。
「大願は果たす。一部の妥協もなく、一切の不確定もなく、一声の反論さえもなく、夢を叶え尽くしてみせる。
準備は着々と進んでいる。後ろへと向かって全身全霊、前進している。
我が魂の力を、無なる場所から命を創り上げるところまで昇華させ。
羽織、君の魂の力で死んだ者を蘇らせ、その命を永遠とする!
そして私は――私は――」
勢いよくガバッと上半身だけで振り返り、目一杯に両手を広げて、魂でもって宣言する。
「私は“生”を支配する!!!」
条家でも聞いた、まるで天裂く雷鳴のような断言。
天砕くほどの強固な決意がそこにはあり、貫く意志があり、決して理解を求めてはいなかった。
理解などしてもらわなくても、その夢は叶えてみせるのだから。だから理解も共感もいらない。
なりふり構わず、そして孤独の内に、夢を叶えることを誓った意志の権化――マッドサイエンティスト。
マッドの本性は、まさしくソレ。
その莫大な意志を言葉に代えて、マッドは言う。陶酔しきった声音のままに、その意志を羽織に照準する。
「それで、羽織、聞かせてくれ――君は本当は、人を生き返らせることができるのではないかい?」
嫌に確信的に、どこにも間違いはないとでも言いたげなほどに清清しく。
問う。
最初の問いを。
最後の問いを。
問う。
「――」
羽織は逡巡し、目を閉じ、ゆっくりと口を開く。
返答を決め、目を開き、言葉を発する。
その答えは――




