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第二十八話 人殺し






 雫は、すぐに九条の屋敷へと走った。

 自らが斬り倒して、そうして意識を失った少女を担ぎ、絶対に死なすまいと走っていた。

 ――雫はこの時、確実に浴衣よりも今担ぐ見知らぬ少女を優先させていた。

 いや、違う。

 雫が優先させたのは、誰よりも自分だ。この行為はどこまでも利己的なもので、自愛行為に他ならない。

 だって、少女が死ねば雫は人殺しだ。

 人殺しの重荷など、年若き少女に背負えるはずがない。魔益師であるなしなど無関係に、殺人は精神的に強烈凶悪な重圧に決まっていた。

 だから、その重圧から一刻でもはやく解放されたい――そのためには、ぶった斬った少女に死んでもらっては困るのだ。

 魔害物は倒した。幾多も数多も、数え切れないほど屠った。

 雫は純粋に退魔師だったからだ。

 だが、人を殺したことなどあるわけがない。

 雫は単純に高校生だったからだ。ただの高校生が、人殺しなどできようはずもない。

 ――魔害物は倒すもの。

 ――人は殺すもの。

 倒すと殺す。

 そこには圧倒的なまでの、絶望的なまでの、決定的なまでの差異があった。

 相手が人である場合、まあ戦うことはできる。剣を向けることはできる。倒すことは、できる。現に先刻までそうして戦っていた。

 だが殺すことはできない。嫌だ。絶対に嫌だ。

 魔益師は、確かに人を殺しうる強大な力を保持している。だが、だからこそその力を持たない人よりも、ずっと自己を律しなければならない。自分の定める法を遵守しなければならない。

 人殺しなど、そこにどんな理由があったとしても、だめだ。絶対にだめだ。究極の自己違反だ。

 少なくとも、雫はそう認識している。

 雫はこの認識を強く抱いているがために、背負っている少女の命のともし火が消えてしまえば、おそらく、


 ――魔益師としての力を失う。全て、一切、綺麗さっぱり、喪失する。


 雫は、単なる人間にまでその強度を落ち込ませる。

 それが、法だ。雫の中に定められた絶対遵守の戒律だ。

 広い視点から見ても、このような事例は多々ある。

 その魔益師の人間性によって大きく変じる事柄だが、法を犯して能力を失った事例。大切な誰かを護れず能力を失った事例。不必要と断じて能力を自ら失った事例。誤って人を殺してしまったせいで、能力を失った事例。など、その手の話は事欠かない。

 これもまた、認識のひとつである。

 魔益師の認識とは、確実にマイナス方面にも働く作用なのだ。

 まあ、雫自身はそのことに対する明確な理解をもっているわけではないが。能力喪失が起こるなどとは思いもしていないが。だがそれでも、人を殺してはいけないと心が叫んでいる。その拒絶の悲鳴だけは聞こえてくるのだ。

 だから雫は走った。

 無我夢中で転がるように駆け抜けた。

 駆けて、

 走って、

 駆けて、

 数分もかからず屋敷までを踏破し、雫は九条家に辿り着く。

 無遠慮に門を抜け、玄関まで一直線。その途中でちょうど庭で和んでいた静乃――彼女は日向ぼっことか大好きなのだ――を発見する。

 雫は一番に目についたというだけの理由で、思わず静乃に叫び散らしていた。


「助けてくれ!」


 礼儀もなにもない叫び。相手が静乃であることに、気づいているかさえ怪しい非礼千万な態度。

 静乃はしかし、そんな非礼などよりも雫のその焦った様子にこそ漠然とした不安感を覚える。ただただ感情を発露する雫の様は、まるで助けを求める迷子の子供のようにも見えた。


「あの、どうしましたか、加瀬さん」

「怪我! 怪我人です!」

「!」


 不安色だった静乃の表情が、一瞬で吹き飛ぶ。感情が顔からほとんど見えなくなる。治癒師は、このような場面では誰よりも冷静でなくてはならない。

 静乃は背負われる少女を手早く診察――鋭い刀傷が致命となりかけている。その傷の鋭さに、雫が何故ここまで平静を失くしているのかを解する。同時に、それを解きほぐす言葉も、すぐに静乃の口からついて出た。


「大丈夫です。大丈夫、この少女は死なせません。加瀬さんは――人を殺してなどいません」

「あっ……ぁぁ」


 その言葉が、どれだけ雫の心を慰めたか。どれほど深い救いとなったか。何故か雫は無性に泣きたくなった。我慢した。懸命に、我慢した。

 静乃は雫の気丈さに微笑みが零れかけたが、すぐに引き締めて踵を返す。時は一刻を争う。


「こちらに運んでください」

「はい。あっ、あとそれと……」


 まだ言わなくてはならないことがあった。さらに重要な伝えごと。だが、雫は言いよどむ。自分の失態、ひたすら言いにくい。だが、自分の失態だからこそ言わねばならない。


「申し訳ありません――浴衣が、誘拐されてしまいました」







「……そうですか」


 少女を客室のひとつに寝かせ、静乃は治癒を施す。静乃はその少女が誰かなどは知らないし、何故雫に斬られたのかも知らない。けれどそんなことは無関係に、全霊を懸けてその能力を行使した。

 ただ、ひとつの命を助けたい。それしか彼女にはないのだろう。

 その治癒をする横で、雫は俯きながらも事情を滔々と語り上げる。集中を乱さないか、と雫は懸念したが、静乃は問題ないから語って欲しいと言った。雫は、だから頷いて述べた。

 いきなり現れた金髪の少女のこと。

 その直後に誘拐されてしまった浴衣のこと。

 追撃を仕掛け、しかし足止めをくらったせいで逃してしまったこと。

 足止めの少女と戦い、倒すことはできたが斬り伏せてしまい、慌ててここにやってきたこと。

 自虐の混じった事情を聞き終えて――自分の大切な娘の誘拐という事実を知って、それでも静乃は微笑んだ。大丈夫だと告げるように微笑した。


「加瀬さんのせいでは、ありませんよ」


 自分の感情よりも先にでたのは、雫の心情を察しての言葉だった。雫を慮る優しい言葉だった。

 しかしその笑顔は、微かに震えているようにも見えて。無理やりに出来上がった笑みにも感じて。

 雫は、それが酷く心苦しかった。

 どうしてこんな。

 事実を知って一番辛い立場にあるのは九条 静乃じゃないか。

 なのに、どうして。

 どうして人のことばかりを気遣えるんだ。

 雫は、噛み砕かんばかりに奥歯を噛み締めた。自己を罵りながら、力不足を悔やみながら。





 と。

 廊下を走る、というよりも廊下を踏み叩くような足音が屋敷中に響いた。物凄い勢いで足音がこの部屋へと近づき、やがて止まる。勢いよくフスマが開く。


「雫! てめえ、帰ってきたってことは逃げられやがったな!」


 羽織だった。

 いつものような語気荒い責め立てる言葉。今の雫には相当堪えたが、反論は許されない。沈黙をもって受け止める。

 さらに文句を飛ばそうとした羽織だったが、静乃を見て瞬時に怒りの顔色を落ち込ませる。怒ってるわけでも、悲しんでるわけでもない――寂しそうに微笑を刻んだその表情。そこにあるはずの様々な感情を押し隠した笑みだった。

 羽織は自分の怒りを見失い、代わりに苦々しい思いに捕らわれた。口内が血液で満ちてしまったみたいに、不快感が押し寄せてくる。

 九条 静乃に、そのような表情は心底似つかわしくない。そんなやりきれない感情を持て余しつつ、羽織は静乃と視線を合わせずに口を開く。開くも、すぐには言葉は発せられなかった。何度か口を開け閉めしてから、ようやく意を決して問う。


「九条様のお耳にも、既に?」

「……ええ」

「――大丈夫です」

「えっ?」


 考えるよりも先に、羽織の口は言葉を作り出していた。最大限に声音を優しく彩り、けれど万言を一言に凝縮させんと意志を通わせ断言する。


「大丈夫です、浴衣様は私が必ず助け出して見せます。ですから、心配なさらないでください」

「羽織……」


 決意の言葉に、静乃は一瞬だけ表情が崩れてしまいそうになり、慌てて俯いて顔を隠した。そのまま感情を押し殺しながら言葉をしぼり出す。


「信じて、いますよ」

「ええ、お任せください」


 羽織は心配を打ち消すように朗らかに笑って、それから視点を雫に定める。

 その視線に雫はビクつきながらも、申し開きはすまいと頭を下げる。


「すまん、私がついていながら」

「別に。そこまでの期待はしちゃいねえよ」


 冷徹なほどに凍えた断定。雫は、ただただ悔しかった。


「てめえをなじるのは浴衣様を助けてからだ。それより雫、話せ。誘拐したヤローのこと全部だ」

「わかっている」


 雫は襲ってきた少女について仔細に語る。

 外見、雰囲気、口にしたこと。

 聞き遂げて、羽織は困惑気味に眉を歪める。


「長い金髪で、人形のように無表情な少女?」

「ああ」

「……そりゃあ、まさか」

「! 心当たりがあるのか!?」

「びみょう」


 咄嗟に濁したが、思い当たるのは――いや、ほとんど確定的に羽織は犯人を思い浮かべていた。

 たぶん間違いなく犯人は――あのマッドサイエンティスト。

 条家を敵に回しかねない暴挙も、アレならやる。夢の通過点に必要であれば、躊躇いなくやるだろう。

 通過点――羽織のことだ。

 やはり前回の対談ていどでは、諦めてはもらえなかったようだ。困ったことに未だ羽織の能力に興味を抱いている。

 となると、これは挑発か。

 羽織をおびき寄せるためのエサとして、浴衣を誘拐しやがった。

 まさかそれだけのために九条家の直系を誘拐するとは、無茶苦茶だ。無謀すぎる。

 とはいえ無謀だが、無思慮ではない辺りがあのマッドサイエンティストの老練さを垣間見せる。

 この行為は、確かに条家を敵に回しかねない暴挙だが、未だ回し“かねない”ままだ。なにせ、誘拐犯が不明だからだ。

 一番の懸念――条家と“黒羽”の抗争――は、条家に“黒羽”が敵対行動をした、という事実があってはじめて実現する。ならば、“黒羽”であることを隠して敵対すればいい。マッドはそれをわかっている。だから、個人的に誘拐をした。そして誘拐犯を不明にすることで――“黒羽”所属の人間の敵対行動であることを不明にすることで、抗争を回避した。

 ただし、羽織にだけはわかるように先日の対談の時点で、リクスと引き合わせておいたのだ。金髪無機質の少女――リクスが浴衣を誘拐したと雫から聞けば、羽織は黒幕がすぐに推測できるだろうと、そこまで考えて。

 色々と小細工を仕込んできたが、要するに羽織にしかわからない形で浴衣を誘拐しやがったと、そういうことだ。

 しかし、ならば――羽織は視線を寝込む少女に向ける――ならばこの少女には情報を持たせているはずだ。

 静乃に問う。


「九条様、そいつ、喋れそうですか?」

「いえ。まだ……でしょうね」

「そう、ですか」


 まあ、流石にぶった斬られて数分程度では、目は開かないか。

 だが、それは困ったな。

 おそらくマッドは、この少女になにか情報を持たせているはずだ。

 なにせ人質をとっても、羽織と対面しなければ意味がない。誘拐犯には、身代金受け渡しの場所を設定してもらわなければならないのだから。

 知略に長けるあのマッドサイエンティストだから、この少女がこうして捕まることまでも見透かしていて不思議ではない。ならばこの少女に伝令させるのではないか。何処何処へ来いと、伝えさせるのではないか。

 深読みし過ぎかもしれないが、今までのことを鑑みるとそういう風に考えられる。

 考えられるのだが、その少女が気絶したままでは聞き出せない。

 無理やり起こして吐かせる――ダメだ、静乃が止める。怪我人への乱暴を許すような人ではない。

 静乃に止められては、羽織は動けない。少女から情報をとることはできない。どこへ行けばよいかわからない。

 ならば別案――六条。

 六条に、場所を探ってもらう。

 リクスの容姿はわかるから、場所の特定は難しくとも不可能ではないはずだ。

 だが、これもダメだ。六条に頼るわけにはいかない。

 何故って、個人の諍いごととして収めるための誘拐だ。相手がマッドであることがバレるのは不味いし、しかも最悪の場合マッドが“黒羽”所属とわかるかもしれない。それはいけない、条家の力を借りるわけにはいかない。誘拐犯は不明でなくてはならない。

 誘拐犯は誰かわからず、ただ居場所だけを知りたい。少々、面倒な状況だ。

 ……ん、いや、そうか。


「ちょっと情報もってそうな奴に心当たりがあるので、そいつに電話かけてきます」


 羽織は言うだけ言って、部屋から抜ける。静乃も雫も、意気消沈としていたので反応は薄かった。

 雫はどうでもいいが、静乃がそんな反応なのに、羽織はまた胸が痛んだ。

 振り切るように廊下を歩む。適当に人のいないところを見つけて、羽織りの袂から携帯電話を取り出す。

 手馴れた仕草で着信履歴に残っているマッドの電話番号へリダイアル。なんといつかの時の電話は非通知ではなかったのだ。

 数度のコールの末に、相手が電話にでる。羽織はすぐに口を開くが、それよりも尚早く言葉を突きつけられた。


『九条 浴衣は誘拐した。返して欲しければ身代金として一億円用意しろ。このことを他の誰かに漏らしたら人質は殺す』

「……あ?」

『二度は言わない。金が集まった頃合いを見て、またこちらから連絡する』


 それだけ言って、ブツリと電話は切れた。

 羽織は呆然と自分の携帯電話を眺め、番号間違えたかな、とか阿呆な思考を一瞬だけ回し――即座にリダイアル。


「てめ、喧嘩売ってんのか!? こっちゃシリアス全開で進行してんだよ! ギャグ交えてくんなや!」


 羽織の渾身の突っ込みに、電話の向こうのマッドは誘拐犯口調をやめて、くつくつと笑う。


『いやぁ、くく。女の子を誘拐したのだよ? 人として、思わず言いたくなるというものだろう。

 まあ安心したまえ、勿論冗談さ。身代金はいらないよ』

「って、いちいち変声機つかって言うんじゃねえよ!」


 マッドの声は機械的に変質させられていた。どうやら誘拐犯らしくわざわざボイスチェンジャーを使っているらしい。

 なんて芸の細かい奴だ。

 羽織は頭を抱え、色々と突っ込みを我慢してから、声を殺伐としたものに変更。お遊びのために電話をかけたわけではない。


「一応確認しておくが、浴衣様を誘拐したのはてめえだな」

『お察しの通りだよ。君を引っ張り出すために、主である彼女を誘拐させてもらった。これなら君は、私のところへ来ざるをえないだろう?』

「ち」


 やはりか。

 本当に手段を選ばない野郎だ。


「そうなら先に言っておくが。いいか、浴衣様に指一本でも触れてみろ、髪の毛一本でも穢してみろ――ブチ殺すぞ」

『くく、怖いなあ。とても怖いよ。この私ですら、骨髄に悪寒が走ったよ。電話の先からでさえ、こうも殺気を飛ばせるとはね、大したものだ』

「返答を聞いてねえな」

『ああ、うん。それについては大丈夫だよ。安心してくれ、私は九条 浴衣嬢は人質ではなく、客人として扱うつもりだからね』


 冗談めかした口調でマッドは笑う。

 信用ならないが、身柄が向こうにある時点でこちらには釘を刺すことくらいしかできない。

 ふん、と鼻を鳴らしてどうしようもない話をやめる。もう少し建設的な話に変更。


「あと聞いておくが、てめえは条家と“黒羽”を争わせてえのか?」

『まさか。そんなわけがないだろう。できるだけ私としてもそれには気をつけたつもりだよ?

 私が誘拐犯であることは、そちらにはバレていないだろう? 私が“黒羽”所属だとは、バレていないだろう? 羽織、君が話していなければだけど、ね』

「……バレてねえよ」

『ふふ、ならば抗争は起きないよ。なにせ、これはただの誘拐なのだから。そちらも今回の事件はただの誘拐ということで処理しておいてほしい。“黒羽”には、一切の関与はなかったと』

「…………」


 抗争にはならず、しかし羽織をおびきだすためのギリギリのライン。マッドはそこをつけこんだ。

 それでもやはりギリギリのところであったことは本当で、かなり危険極まりない綱渡りであった。

 そんな危険を冒したのは――九条家直系の誘拐などという愚行を敢行したのは、そうでもしないと羽織は動かないと判断されたからだろう。

 まあ、それは正解だが、この行動は全くの不正解としか言えない。

 羽織と敵対する場合において、主という逆鱗に触れるなど死にたがりでしかない。怒りを買うだけだ。

 そして無論に、この誘拐は羽織を激怒させるには充分過ぎた。

 魂の底から羽織を怒らせた。そのことを、


「きっちり後悔させてやるよ……」


 とはいえ、その怒気の一切を覆い隠す。決して減退されたわけでも消失させたわけでもなく、あくまで隠蔽しただけだ。この赫怒はまたマッドと対面するまで横に置いておく。

 横に置いて、それでも不機嫌が表に噴出してしまっているが、羽織は冷静に話しを続ける。


「わかりきってるが、まあ聞いておいてやる。誘拐の目的は」

『さっきも言ったじゃないかい。勿論、君さ』

「おれ狙いなら浴衣様を誘拐すんな!」

『くく、こうでもしなければ、君は本当を語ってくれないだろう? 君の口の堅さは先回の会話で知れた。ならばどう本心を引き出すか? 弱みに付け入るしかないだろう。

 まあ、身代金代わりだねえ。君に、本当のことを話してもらいたい。未だ何かを隠しているだろう、羽織。

 ……ああ、あと無論に私の夢が叶うような本当が隠れていたならば、協力もしてもらうよ?』


 ひとしきり笑ってから、マッドは声からおふざけを消す。


『では――今から君ひとりで私のところに来るんだ』


 有無を言わせぬ強要。

 だが羽織はその言葉を待っていた。笑みさえ浮かべて応えてやる。


「言われねえでも行ってやるよ、どこだ」

『ふむ、君はこの町の“黒羽”支部の場所を知っているかい? いや、知らなくてもいい、自分で調べてくれ』

「テキトーか!」

『その支部の隣のビルディングが私の居城さ』

「無視か!」


 またペースに嵌っていた。咳払いをして持ち直す。


「ち、まあいい。行ってやる、行ってやるよ。首洗って待ってやがれ!」

『くく、少し楽しいな。これではまるで、私は居城で待ち構える魔王のようじゃあないかい』

「あ? おれが勇者ってか? ゾッとするたとえすんじゃねえ」

『まあ、私がゲームマスターの気分が残っているということさ』


 くく、と深い闇のように笑い、会話の終わりを察する。通話が切れる。

 前に、羽織はもうひとつ言っておくことがあったと制止の声を上げる。


「……あ、待て。もういっこ言うことがある。この後すぐに九条家にもう一回脅迫の電話いれろ。で、おれに代われって言え」

『ん? ああ、そういえば誘拐という話だったね、忘れていたよ』


 てめえがやりたいでやって、忘れてんじゃねえよ! 羽織はどうにか突っ込みを堪えた。






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