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第二十五話 急襲




 

 昼食休み。

 およそどんな学校でも、一日のうちで最も学生たちが騒がしくなる時間帯である。

 例に漏れず、嶺盟学園でもそれは同じで、授業の終わりとともに弛緩しきった空気が流れ、親しい者たちの輪ができる。

 そんな片隅で、


「む、まだなんか動作が軋む気がするな……」


 昨日の一条との模擬戦によるダメージのせいか、雫は珍しく気だるげな様子で呟いた。ある程度のだるさならばおくびもださずに背筋伸ばしている――学園だし人目が多いので、強がっているとも言う――雫でも、流石に昨日のことはこたえたようだ。

 斬撃により打たれた痛みや怪我自体は九条の人――静乃や浴衣は少々忙しかったために条のツテ――に治癒してもらうことができたのだが、それでも身体の芯の部分になんとなく疼痛があった。

 それほどに、一条の斬撃が強力であったのか。それとも剣気にあてられ魂の方が萎縮してしまって、その感覚が残っているのか――どちらにしても、雫などが相手を務めるには一条は大きすぎた。それを深々と感じ入る。

 だというのに、


「羽織の奴……」


 忌々しげに吐き捨てた。

 本当に、あいつの嫌がらせには困ったものだ。

 そもそも実力にひらきがあり過ぎて、一条の強さもさっぱりわからなかった。いや強いのはわかったが、それは戦う前から知っていた。

 当初の目的であったはずの、一条がどれくらい強いのか知ることが、全然果たせていなかった。

 というかあいつの発言で上手くいったためしがないような気がする。いや、わざと上手くいかないのかもしれない。

 本当にもう、どうしようもない男である。

 そんな感じで授業の終わり直後からはじまった思考の深み――というか羽織をぶん殴るイメージトレーニング――に嵌っていると。


「なーんかさ。最近その名前、雫の口からよく聞く気がするなー」

「っ」


 前触れもなく、背を叩かれた。

 驚いて背後を振り返ると、


「って、奈緒か……驚かすなよ」


 藤原 奈緒の些か子供っぽい笑みがあった。

 なんだか、奈緒が話しかけてくるのは思案の最中ばかりなのは作意があるのだろうか。

 訊いてみた。

 奈緒は首を振る。


「いや、別に狙ってるわけじゃないし。ほら、もう昼休みだしさ。あんまり長々と座ったまんまだと、食べる時間がなくなるよー?」

「む、そうか、すまない」


 潔く謝る雫を見て、奈緒は少し笑う。なんだかおかしかった。


「雫は、武士だねえー」

「いきなりなにを。いや、少し嬉しいが、女らしくないと言われてるような気もするので複雑だぞ」

「武士武士だねー」

「いやもう意味がわからん」

「武雫、武雫ー」

「とりあえず馬鹿にしてるよな!」

「まー、そんな怒んないでよ、武雫」

「その呼び方をやめろ!」


 突っ込みというには乱暴で、どつくような雫の物言いだったが、奈緒は笑った。

 別に、いつものことだから。

 奈緒は思っていた。雫はなんとも弄り甲斐のある友人であると。……羽織とはまた別な種類のタチの悪い友人である。そう思っていることに、雫が気付けていないことがなお悪い。

 まあ、友情の形は様々なのかも、しれないが。

 そのような日常風景なコミュニケーションをはかっているふたりに、不意に声がかかる。


「あっ、あの! 加瀬先輩!」


 最近になって耳慣れてきた、鈴の音のような声音。浴衣だ。


「ん、浴衣。どうしたんだ?」


 またこんな上級生の校舎にまでやって来て、なにか用でもあっただろうか。

 雫が首を捻りながら近寄って、それから浴衣は少しオロオロした様子で言葉を紡ぐ。ぐちゃぐちゃなパズルのピースを、どうにか繋ぎ合わせるようにして。


「いえ、昨日はわたし忙しくて、だから加瀬先輩が怪我したっていう話を聞けなくて、それで今朝聞いて、えっとえっと……」

「そのことか。なに、心配はいらないぞ」


 つまり、以前と同じだ。雫はそう判断した。

 心配でいてもたってもいられずに、上級生の教室にまで赴いてしまった、ということだろう。前は放課後だったというのに、今回はそこまで我慢できなかったらしい。

 それがわかれば話は早い。雫は一切の翳りもなく苦笑を浮かべ、大丈夫だと告げる。


「大丈夫だ。一条様は物凄く手心を加えてくれたし、九条の人にも治癒は施してもらった。浴衣が心配することはない」


 やっぱり強がりの成分は含まれていたけれど、述べた言葉は本心。

 浴衣は少しだけ安堵して、でもまた心配をかけまいと雫が隠し立てしてる可能性もあって追及する。


「本当ですか? 本当に、大丈夫ですか?」

「浴衣は、少し心配性が過ぎる傾向にある。もう少し、私を信用してくれ」


 しつこくて鬱陶しい、とは思わないけれど。

 そんなことでいちいち気を煩わせてほしくはないと、そう思う。浴衣にだって様々な嫌なことがあって、悩みがあるだろうに。どこにでもいる普通の高校生と同じように、頭を抱えて生きているのだろうに。その上、魔益師でもあるのだから、きっと日常はとても大変なはずだ。

 それなのに、他人の心配ばかりに囚われないでいてほしい。もっと、自分のことに目を向けて欲しい。少しだけ先輩風を吹かせて、雫は思ったのだった。

 ――後で羽織に言っておこう。

 たぶん、羽織なら浴衣を上手いこと言いくるめてくれるだろう。

 この善意あふれる悪癖を、どうにかしてくれるだろう。

 完全に他人任せだが、まあ羽織にならどんな苦難も押し付けてやりたいので問題はない。むしろ困ってるところをにこやかに眺めていられるだろう。

 そういう考え方自体が、その羽織に近付いていることに、雫は自覚しているのだろうか。していないのだろう。

 雫と浴衣がそのように話していると、痺れを切らしたのか後ろから奈緒が割って入る。視線は浴衣に定まっていた。


「んー? 確か九条の子だっけ」

「えっ、あ、はい。九条 浴衣です」

「あたしは藤原 奈緒ねー」


 一応、魔益師だよ、と聞き取れないくらいの小声で奈緒は付け足した。

 加えられた言葉に浴衣は目を丸め、奈緒の顔をまじまじと見つめてしまう。受け止めて、奈緒はへにゃりと笑う。


「ちょうどお昼休みだしさー、どうせなら一緒に弁当する?」

「えっ」


 意外な人物から意外な発言が飛び出てきた。今度は雫がかなり驚いた。

 言われた浴衣も目を幾度か瞬かせてから、ガラス細工に手を伸ばすように慎重に言葉を作る。


「いいん、ですか?」

「いっ、意外な言葉じゃないか、奈緒」

「んー? まあ、条家と仲良くしとけばいいことあるでしょーよ」


 あっけらかんと、中々に腹黒いことを言う。

 衒いもなにもない打算丸出しの言動に、浴衣は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 とはいえ、羽織に似た部分を感じ取り、奈緒への興味が増す浴衣であった。







 三人で食べるならと、奈緒は場所を人気の少ない屋上にまで移すことを提案した。教室では下級生の浴衣がいづらいだろうし、裏側の話をするのに遠慮が必要となってしまうからだ。

 屋上は一般解放されてはいるが、あまり生徒たちには好まれていない。入学当初の一年生たちならよくよく訪れることもあるのだが、すぐに飽きて二度と訪れることはない。何故って、酷く殺風景でなにもない空間だからだ。こんなところにいるくらいならば、教室や校庭や体育館のほうがずっとマシであると誰しも思う。

 ただ、人に聞かれたくない話などにはもってこいと言える。

 さっそく三人で適当な場所に座って弁当を広げる。弁当といっても、奈緒はパンだが。

 もぐもぐと食事をはじめてすぐに、奈緒は意地悪げな表情をたたえた。


「それでー、羽織って誰さ?」

「…………」

「黙秘かい。じゃ、浴衣ちゃんは知ってるー?」

「なっ!」


 矛先を変えやがった。慌てる雫を尻目に、浴衣は食べる手を止め、不思議そうに首を傾げる。


「羽織さまですか? はい、勿論知っていますよ」

「誰ー?」

「わたしの……いえ九条の使用人です」


 思わず漏れ出そうになった願望を抑え、浴衣はどうにか事実を言った。

 奈緒は意外な――というか日常的にそんな単語は聞き慣れない――言葉に目を広げる。疑問符を浮かべる。


「使用人? 使用人がいるなんて、条家ってすごいねえ。んん、それにしてもなんで使用人に様づけなんさ」

「え? だめ、ですか?」

「ダメ……じゃあないかー」

「そこで納得するなよ! 言われてみると、私が気になるじゃあないか!」


 奈緒がかなりテキトーな所で手を引いたのに、思わず雫は突っ込んでいた。

 ふふ、と意地悪そうに奈緒は笑っていたから、誘導されたらしい。気付いて、雫は恨みがましく視線だけ向けて、誤魔化すようにご飯を一口食べる。

 そんなふたりのいつもを気にせず――気付かず――困ったように浴衣は苦笑した。


「えっと、すみません。あんまり覚えていないんです。物心ついた時から、そう呼んでいましたから」

「ふーん。で、その羽織って人と雫の関係はー?」

「奈緒!」

「んー、そうですね……」


 雫は叫んだが、浴衣は少しだけ楽しそうに顎に指をあてて良い言葉を探し出す。

 雫と羽織の関係――それを言葉で当て嵌めるのならば、


「喧嘩友達とか、悪友あたりですかね」

「ちっがーう!」


 雫は全力で否定を叫び散らす。

 それはもう、魂の底からの否定を声へと変えた全否定の絶叫であった。


「私とあの最悪の関係は敵だ! 敵対関係だ! それ以外にない! どこにも『友』の字はないし! ありえない!」

「まあ、雫は素直じゃないからなー」

「素直だぞ! 素直に心情を吐露しているだろうが!」


 マジで冗談の欠片もなにもなく、雫は羽織が嫌いであった。

 流石にここまで感情を込めて言われれば、奈緒も照れ隠しとかでもなく真実嫌いなのはわかったが――わかったが、からかうには気付かないふりのほうが楽しい。


「雫はツンデレだったんだねー。大丈夫、あたしは応援してるよー」

「~~~~ッ!」


 もはや言葉もでないほどの怖気が走り、雫はなんでか気絶してしまいそうなほどに気が遠退いた。

 そこでいらない気を遣う浴衣。


「あ、そうだ、写真ありますよ」

「あっ、見る見るー」


 奈緒に煽られて、浴衣はごぞごそとポケットから携帯電話を取り出し、ぱぱっと操作――


「させんわ!」


 風と化した雫が素早く浴衣のケータイを没収。手の届かないように、自分のポケットに仕舞い込む。

 写真まで出できてはもう話に収拾がつかない。というか奈緒になにを言われるかわかったもんじゃない。雫はもうこの話題を中断してほしくてたまらなかった。


「えー、見たかったのになぁ」

「奈、緒!」


 激甚なる感情をこめて、その名を呼ぶ。

 そこに引き際を悟り、奈緒は手の中のパンをひと齧りしてから話を切り替えにかかる。全く別の話題に。


「そーいえばさ、このごろは魔害物の出没が多いんだって? タイヘンだねぇ」

「? 他人事のように言うんですね」


 浴衣も些か調子に乗った自覚があったらしく、自然と話題に乗っかる。ちなみに雫は端ですさまじいまでの視線でふたりを貫いていた。

 努めて視界にいれず、奈緒はあっけらかんとした態度を少しもズラさないで言う。


「ま、他人事だからねー」

「え? 藤原先輩も魔益師なのですよね?」

「そうだけど、退魔師ではないのさー」


 全ての魔益師が、退魔師になるというわけではない。奈緒のように能力を極力使わず、ひっそりと日常に溶け込む者だっている。


「あたしは平々凡々に生きると決めたのさー」


 戦わない魔益師――それが藤原 奈緒の定めた生き様だった。

 そんな事実があったことすら知らなかったというように、浴衣が今日一番の驚きに感嘆のように息を吐く。


「驚きました、退魔師にならないなんて選択ができるんですね」

「おやー? 条家では選べないかい、退魔師になるならないを」

「選べません」


 奈緒の軽い調子の問いに、思いのほか硬い声で浴衣は答える。


「条家として生まれた者は皆、条家として生きて死ぬ。そして退魔師は、一族の責務にして義務です。条家の名をもち退魔師でない者はひとりたりとも存在しません。たとえ非戦闘員でも、退魔師となるのです」

「……そう、かー」


 いきなりの壮絶な話に、ある種の物悲しさ、そして敬意をこめて奈緒は相槌を打った。

 何時の間にか雫もその横で顔を曇らせており、浴衣は話題の選択を間違えと気付いた。慌てて話を切り替えんと、別口から声を発する。


「あっ、そういえばずっと疑問に思ってたことがあるんですよ」

「なーにー?」

「条家では、生まれたその日から魔益師としてのあらゆることを学び始めます。けれど、条家ではない――つまり元々、一般人だったのにいきなり魔益師として目覚めてしまった人たちは、どこで魔益師のことを学ぶのでしょう?」


 今、世間一般では魔益師や魔害物のことなどは、国の上役などを除き知られていない。完全に隠蔽、秘匿されている。

 知れていても精々が伝承や噂話の域であり、そこから抜け出ることはほとんどない。

 しかし、何故知られていないのか。それには理由がふたつある。

 ひとつ目は魔害物の習性だ。魔害物は戦いを好む、戦えない者――一般人を避ける。だから魔害物からバレることは極々稀なことだ。

 そしてもうひとつは。


「大抵は、覚醒したらすぐにどこかの機関に見つけられて、こちら側について叩き込まれる。私もそうだった」

「わたしもわたしもー」


 どこ所属の魔益師たちでも、たとえ所属していなくとも、暗黙のうちに緘口令を敷かれているからだ。これに反すれば、あまりに重い罰が下るとか。その罰とやらを雫や奈緒は知らないが、それでも漏らすなどとは考えもしない。

 んー、と浴衣は思い起こすようにしながら言葉をつくる。


「機関、ですか。ええと、退魔師の機関と言えば四大機関でしたっけ? わたしたち“条家”と“首里家”、それと……」

「“黒羽”に“ソウルケージ”だ。ちなみに私は“黒羽”に拾われた」

「あたしは“ソウルケージ”だったなぁ」


 雫は苦々しげに、奈緒は単純に懐かしげに、それぞれ呟いた。拾われた頃を、回顧しているのかもしれなかった。

 浴衣はふたりの話にふむふむと素直に聞き入り、そのため気になる点が見えてきた。ついでに問うてみる。


「あれ? でも加瀬先輩はフリーの退魔師で、藤原先輩は退魔師ですらないんですよね?」

「組織にもよるが、抜けることもできるからな。“黒羽”は……ちょっと無茶して抜けた」

「“ソウルケージ”は去るもの追わずって感じだったからねー。さくっと抜けて、それからずっと遠ざかってるよ」


 ちなみに残る“首里家”は、些か面倒ながらも正式な手続きをとれば脱退できるらしい。条家は、そもそも血筋の者のみで構成されているため、抜けるということはありえない。

 雫の物言いにくすくすと微笑ましげに浴衣は笑う。


「無茶って、加瀬先輩なにを?」

「あー……」


 雫はすごくすごく言いにくそうに天を仰いで






 ――ひゅるるるぅー、という随分と間の抜けた飛来音が三人の耳に届いた。






 日常を引き裂くようなその音に、三人は一斉に視線を向け

 そして巨大な砲弾が、屋上の床に着弾した。


「!?」


 誰もがその瞬間、全てを忘れて屋上に突き刺さる杭のような弾丸に注目する。

 当然だ。いきなり弾丸が飛んできて、それが自分たちの傍に落ちたのだ。警戒心やらもさることながら、現状把握が第一に必要だった。

 一体全体、なにが起きている?

 現状を理解できずに唖然としていたのは数瞬。雫はいの一番に復帰して、その弾丸が危険なものであると遅ればせながら判断。

 ふたりに逃げろと、叫ぼうとして――


「きゃっ」


 浴衣の悲鳴を耳にする。

 一瞬前以上の切迫さで雫は振り返る。そこには美しい金髪を長々伸ばし、奇妙に感情の映らない少女が浴衣を抱え込んでいた。

 何時の間に――決まっている。弾丸に目と気をとられた隙にだ。


「何者だ!」


 相手が只者ではないと一目で看破し、雫は叫びながらも刀を具象化。素早く構える。

 少女は刀尖を突きつけられても、一切の表情変化もなくガラス玉のような瞳で見つめ返すのみ。雫はその不動さに警戒が先立ち、下手に動けなくなる。

 ふたりはどれほどか睨みあい――不意に少女が拘束する浴衣が暴れだした。ただ捕まっているだけの人質など、浴衣はごめんだった。


「はなして、放してください!」


 その刹那、金髪の少女の気が浴衣に向いた――雫は迷わず踏み出し、刀を振り被る。


「はッ!」


 少女が浴衣を気絶させるのと、雫が間合いに入ったのは、ほとんど同時だった。

 だから振り下ろされた斬撃を、かわせるタイミングはない。回避の隙間はない。

 浴衣を傷つけないように細心の注意を払って、しかし一切の油断なく振り下ろされる一閃。吸い込まれるように少女へと斬りかかる刃。

 それを、ガラスの瞳の少女は――


「なっ!?」


 指で挟み、受け止めた。

 俗に言うところの真剣白刃取り――とも違う。だって片手で、人差し指と中指、それと親指の三本だけだ。それで振り下ろされた刀を完全に停止させるなど、尋常な反射神経でも膂力でも不可能だ。

 あまりのことに雫は小さなパニックに襲われ、風を放つことさえも忘れてしまっていた。振り下ろした後の対処も失念してしまっていた。行動が一時止まってしまっていた。僅かに残る理性が強化系の能力者かと推察したが、そんなものは停止から脱却するのには邪魔なだけだった。

 と、


「――邪魔」

 

 雫の再行動よりも先に、少女がか細くも芯の通った機械的な声を発する。のと同時に。

 爆音。


「ぐっ」


 爆風――威力の全てを犠牲にした、吹き飛ばすだけの殺傷力ゼロ爆撃――が直接叩きこまれ、雫は吹き飛ばされる。

 というか風なら雫の領分でもあるはずだろうに。抵抗すらできず――しようと思いつくこともできずに尻餅をついてしまう。

 決定的な隙。

 だが、少女は雫などには目もくれずに、さっさと逃亡を優先。鉄柵に手をかけた。


「なっ、ここは屋上だぞ!」


 魔益師といえども、飛行系統の能力者でもない限り痛手を被るほどの高さはあるはずだ。いや、少女が強化系の能力者なのだとすれば、問題ないのか?

 雫が巡らせながら立ち上がると、それを切欠としたように少女は一瞬も躊躇わずに柵を飛び越え、中空へと飛び出す。

 自殺行為にも見えるその行動に呆気にとられる雫だったが、落下寸前のところで少女が振り返ったのがわかった。

 本当に小さく、耳元に囁くようなくらいの声量で、なにかを言ったのがわかった。


「――後ろ」

「うし――?」


 なんだ、と雫の思案の開始より先に、奈緒がその意味を理解し叫んでいた。


「雫、走って! 爆発する!」


 その悲鳴のような言葉が雫の耳に響いて、その直後に


 大爆撃。


 つい先ほど屋上に着弾した弾丸が時間差で破裂し、爆撃が生成されたのだった。








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