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第十四話 紛い物




「さてと、伝令役に位置を聞かないとな」

「そろそろ着信くんじゃねえか?」


 任務がある時、六条の伝令役とコンタクトをとるのは多く、任務ごとにその伝令役をひとりあてがわれる。条も度々、六条の支援は受けており、幾度も伝令役から敵の所在を伝えてもらい、叩きに行った。

 と、タイミングよく条の携帯電話が震える。待ってましたとばかりに素早く電話にでる。


「おう、六条の……誰だ?」

『ごきげんよう、二条 条さん』

「っ!? むっ、六条様!」


 その声は低く唸るようで、謎めいた雰囲気に満ちた声音。声の主は間違いようもなく六条家当主、六条 時久その人であった。

 そんな人にすごく軽いため口をきいてしまった、と焦る条に六条は怪しく笑う。


『ええ、あなたへの伝令役は私が担当します』

「なっ、なんでですか」


 いきなりのことに、条はテンパる。現状を把握しきれていない。

 六条は変わらず薄く笑う。そんな反応を楽しむように。


『ふふ、あなたとともに羽織殿が行くでしょう?』

「はっ、はあ、なんで知ってんですか」

『九条の性格を鑑みれば当然でしょう。それで、羽織殿がいるならば、おそらくはあたりを引き易いと、そう考えました』

「……なんて不吉なことを」


 しかも“完全予知”を掲げる六条家当主の言葉だ。なんとも予言的で嫌過ぎる話である。

 いやそういう勘もいいけど六条家当主なのだから、他の六条と比べて最も探査能力が高いだろう。それが、自分などの担当でいいのか。条は訊ねる。


「しっ、四条様も出るんですよね? だったら六条様は四条様を担当なさったほうがよいのでは……?」

『四条に電話しても繋がりません』

「ま、あいつにケータイ持ち歩く習慣はなさそうだもんな」


 けらけらと横で笑う羽織がかなり腹立たしい。

 だが、その通りだと条も思う。となると、もうこの決定は覆せそうになかった。当主との会話だなんて緊張しまくるというのに、それが伝令役とは。もう電話が嫌いになりそうな勢いである。

 思考に黙っていると、六条は了承と捉えたらしく事務的な言葉を紡ぎ始める。


『我ら六条で討伐すべき魔害物を選定しました。そしてあなた方に倒してもらう魔害物の位置をお伝えします。まずは一番近いものからですが――』







「流石に、三度目となると見慣れてきたな……」

「そうだな、俺は二度目だけど」

「だる」


 六条の言った通りの場所にて、雫と条、それに羽織は魔害物を発見、つまらなさそうに感想した。

 目の前には、獅子頭を被った人型――武器を扱う魔害物。おそらくはその複製体と遭遇していた。雫や条の言う通り、出張りすぎな感が強い魔害物である。

 運よくこの複製に関しては一般人への被害はないようで、雫は安堵する。

 そういった感情とは無縁の羽織は、びしっと魔害物を力強く指差し不自然な歯切れ良さで宣する。


「じゃ、前衛は条、後衛に雫、んで場外におれってフォーメーションで――」

「「待て待て待て」」


 言うがいなや後ろを向いて駆け出そうとする羽織の両肩を、雫と条のふたりがそれぞれ掴む。力強く、砕かんばかりに。


「「お前(貴様)も戦え!」」


 羽織はえー、と不満げに言葉を返す。


「三対一だぜ? 三体一って卑怯じゃね? せめて二対一にしよう、おれは見てるから」

「「戦え!」」

「ちぇ」


 わざとらしく舌打ちするも、今回はそこまで嫌がってはいないようで――単に抵抗が面倒だっただけかもしれないが――すぐに目を細めた。

 それだけで、雫は少しだけ身構えてしまう。

 雰囲気が、僅かに変質したような気がするのだ。


「――ふん」


 何時の間に、羽織はナイフを指で弄んでいた。

 一瞬前にはなかったはずのそのナイフ、形状はまるで針のように異様に細長く――形状からスローイングナイフと見て取れた。

 用途は勿論、


「ふっ」


 投擲のみ。

 軽い呼気とともに、スローイングナイフは投げ放たれ、


 ――そして、刹那後には狙い過たず獅子頭の眉間に突き刺さる。


「カ?」


 投擲から刺さるまでに、一瞬さえも無い。因果ははっきりとしているが、過程は一切が省略されているかのありえない速度。

 まさか、あまりの速度に、誰にも知覚されずに一瞬もなくナイフが投擲された――わけではない。

 これが、これこそが、羽織の魂魄能力だというだけだ。


 魂魄能力“軽器の転移”。

 自己が軽器と認識しうるものを転移する。言ってしまえば一言それだけの能力。空間に干渉するという点では、様々な魂魄能力のなかでも上位強力なる能力だが、その中では下位に位置している。

 先の現象で言えば、投擲したナイフを運動量ごと獅子頭の眉間の直前に転移、そのまま突き刺さったというわけだ。距離に速度を殺されることがない分、威力はそのまま。そして空間を経由しないから、予測でもしていない限りは回避などできようはずもない。

 ニヤリと口角を吊り上げ、羽織は手品師のように両手を閉じ、開く。それだけで同形のスローイングナイフが、合計八本片手四本ずつが両手の内に。

 次瞬。


「おらおら!」


 投げ放つ。

 そして転移。転移。転移。転移。転移。転移。転移。転移。

 獅子頭の四肢と顔面に避けようもなく投擲した八本のナイフが狙い通りに突き刺さる。怯む魔害物。

 それから羽織は叫ぶ。


「おれの能力は牽制だ、致命には全然届かねえ! 隙は作ってやったんだ、あとはてめえらが働けや!」


 そもそも羽織の能力は決して戦闘向きではない。攻撃にも使える、というだけでその能力単体では傷すら与えられない。

 だから、刃が通らない程度の常識外れで、既に勝機が失せる。羽織はそれほどの実力しかもっていない。

 というところまで、実は以前から聞き及んでいたふたりは、声に応じて前と駆ける。

 牽制の一撃に、続くは本命の一撃。


「カタ」


 向かってくる二名に気づき、突き刺さるナイフも気にせず獅子頭は両手の小太刀を構えようとして――


「はっはー!」


 それより速くナイフが飛来。転移。直撃。

 ナイフが腕にブッ刺ささることで構えが遅れ――そこに押し寄せる拳と刀。

 

「破!」

「刃!」


 寸分の違いもなく真実同時に叩き込まれる、打撃と刺撃。貫き穿つ、真っ直ぐな突撃。

なんとも見事な連携一点同時攻撃は威力を二倍といわず、三倍ほどにまで高めて獅子頭を吹き飛ばす。

 そして。

 二条の血統に宿る魂魄能力“一撃の強化”は、その同時攻撃を一撃と見做し、強化する。

“一撃”という単位は、決して条の拳ではない。まずもって二条の能力は、拳を強化する能力では――ない。

“一撃の強化”が強化する一撃とは、条の認識する“一撃”を単位とするのだ。それ故に、条が“一撃”と認識しさえすれば、ふたりの同時攻撃は“一撃”となり、強化される。

 つまるところ、条の拳撃。雫の刺突。それはその両方をわけた単体を一撃と呼ばず、直撃の瞬間においてのみは、両方同時に放たれてこそ“一撃”となったのだ。その“一撃”は、能力に則って強化された。

 そういう風に、条が考えた。条が思った。強く、信じた。


 そして魂は条の認識に従ったのだ。


 もとより魂などという曖昧極まりないものを頼っている魂魄能力、これくらいの拡大解釈は当然のように起こりうる。

 結果。

 最終的なダメージを計算すると。

 条のパンチに雫の風を乗せた刺突、それが絶妙な重ねがけであったために三倍となった――ものを、さらに“一撃の強化”が超強化した無類の一撃。

 二条の能力を表から裏まで活用し尽した、魂の曖昧さを上手く利用した戦法である。

 当然のように雫のような一直線や、条のような戦いに策を弄さないタイプでは逆立ちしても思いつかない戦法――発案は羽織である。

 先回の戦いで羽織が考案し、ちょっと試してみろと言われたのだ。

 見ての通り大成功の大威力に、獅子頭は壁に激突するとともに肉体が崩壊し、果ては消滅した。

 思わず、雫は間抜けな声を零す。


「うわ、なんて楽勝……」

「最初っから羽織みたいな支援できる奴が真面目に働けばな。それでなくとも羽織は戦上手だから、真っ当に作戦を練ってくれれば、こんなもんだ」


 怒涛のような連続攻撃で隙をつくり、敵に攻撃させない。的確な投擲で筋肉の稼働部分を阻害し、行動の阻止をする。羽織のそんなせこくも有用な能力、そしてそのずる賢さをそのまま全て勝利のために費やしてみれば、こうなる。

 とはいえ、できるのにやらない男という、羽織はまた最悪度を上げたような気がする。

 なので、こんな楽勝しても雫としては面白くない。

 嫌な奴が有能で強ければ、そりゃあムカつく。認めたくないのに、その点においてのみは認めざるを得なくなるからだ。

 口調は自然と棘を交えて、雫はぼやく。


「羽織、強かったんだな」

「あ? 強かねえよ、おれは。ただ単にちょろっとマシな能力もってるだけだよ」

「?」


 おや?

 ここぞとばかりに自慢してくると思ったが、あまり興味なさげで、有り体に言えば冷めた表情ですらあった。

 少しだけ、意外な反応である。

 羽織は鬱陶しそうに話を切り替える。


「んなことより、おかしい。流石に楽勝過ぎだ」

「そうか? 今の一撃なら倒してもおかしくはないだろう」


 まあ、そんな顔されては蒸し返すこともできない。雫は相槌を打つ。

 羽織はそんな気遣いも無視して、勝手に自分で結論付ける。


「……たぶん、六割って話は嘘だな」

「なに!?」

「いや、昨日おれたちが倒した奴は六割だったのかもしれねえが、今回のこれはそこまで上等の複製じゃねえってことだ」

「む」


 それなら確かに、浴衣とともに戦った魔害物を倒し切れた話にも説明がつく。

 今の魔害物は瞬殺だったせいで性能がわかりはしなかったが、羽織としては昨日よりかは弱く映ったらしいし。

 ならば説得力は決して低くはない。


「はっ。そういえば、確かにあの男は“昨日の魔害物”は六割と言ったが、“今回の魔害物”が六割だとは、言っていなかったな」


 細やかにうざい奴だな。

 おそらく、というか間違いなくこれも計略の内。

 強さの誤解をさせることで、条家から戦力を過剰に出撃させた。確かに、これは条家の内情偵察だ。それも随分と派手な。

 ち、と羽織が思案に暮れてる内に、条は六条へと連絡をいれる。

 

「六条様ですか? こちら、二条 条です。一匹倒しました」

『おや、早いですね』

「ああ、まあ、羽織がちゃんと働いてくれましたから」

『ほう、それは珍しい』

「それで、次の魔害物はどこですか?」

『次は――』


 順調にゲームは進む。

 順調のように、ゲームは進む。

 急転落がないことだけを、誰もが祈っていた。






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