幕間
遠く高い、なにものも見下ろすようなどこか建物の上。
武器を扱う魔害物を打倒した羽織ら四人――というと羽織が中心っぽく聞こえるが、今一度明記しておく。彼は一切の手出しをしていない。口出しはしたけど――を微かな気配も感じさせずに、眺める少女がいた。
ブロンドのロングヘアで、日本人離れした白亜の肌をした……というか確かに間違いなく外人の、白人女性である。目を惹く腰まで届くその髪は不自然さなく煌いており、金糸の如き美しさを誇る。
年の頃は雫と同じくらいだろうが、その整いすぎた――言ってしまえば作ったような美麗さを放つ容貌は、どこか大人びてみせる。拍車をかけるのが、その少女のありえないほどの無表情さだ。
よくできた西洋人形だと言われても、迷ったのちに納得してしまいそうなほどに、人間離れした美しさと無感情である。
少女は人形のような面持ちのまま、外見にそぐわず流暢な日本語で――あくまで抑揚なく淡々と――声を紡ぐ。
「第四期複製個体‐位階武器型、消滅確認しました。いかがなさいますか、博士」
『あれを討つ魔益師か……条家かね?』
周囲には少女しか存在していないというのに、どこからともなく男の声――にしては少々高い声だったが――が問う。
よく見れば、少女の整った耳には通信機と思しきものが装着しており、遠方の誰かと会話しているようだった。
「はい。能力から察するところ、二条と九条……それと、」
少女は一度口を噤んだ。どう伝えようか逡巡するように。
機械のように話す少女が、言葉を詰まらせるなど酷く珍しいことだった。それがため、遠くのどこかで男はいぶかしむ。
『どうかしたのかね?』
「いえ……魔害物と戦闘を行った魔益師は四名。先ほど挙げた条家の二名に加え、直接的な戦闘行為に関与せず能力が不明の者がひとりと、条家の能力に該当しない能力を使う魔益師がひとりいました」
『ふむ? 前者はまあ、後方支援の条家だったとしても――もうひとり魔益師がいたのかね?』
「はい」
『つまりは、条家とまた別の魔益師が共闘したということかね?』
「はい」
『それは……面白い』
条家が他の助けを請うなど、前代未聞だ。
条家は条家のみで完結している――それが条家の矜持であり、誇張でもなんでもなく事実としてそうだ。
条家はどこよりも優秀で、だから助けは求めない。求める必要性がない。組織として、一族間で全てが賄われている。
いや、逆に助けを請われた可能性もあるか。男は思い直す。
しかしそれだって驚愕である。
組織として条家と繋がりのあるところなどありえない――ならば一個人が、条家と接点をもっているということになるのだから。
『一体そいつは、どうやったのだろうねぇ』
私でもできないことだったのに……。男は少しだけ残念そうに口の中で呟いた。
ふふ、と細く笑ってから、男はまた思考回路を戻した。
『それにしても自信作だったのだがねえ、壊されたか……』
「…………」
わざとらしいくらいに落ち込んだ声音に、少女は無言を選択する。
少女は知っていた。この男が芝居がかった言動をするときは、酷く楽しい時なのだと。
自分の“父親”が、楽しがっているところに水をさすのも無粋というもの。少女にもそれくらいのことは思考しえた。
『条家か……その魂の特異性、いずれ調べたいと思っていた。
くく、いい機会だ。意趣返しも含めて、ちょっかいをかけてみようかな?』
楽しそうに楽しそうに、男はくつくつと笑う。
まるで明日は遠足だと母親に語る子供のように無邪気に――けれど無邪気だからこその酷薄さをたたえて。