第8話:ARグラスの封印解除(※当機の独占コンテンツが流出しています!)
お読みいただきありがとうございます!
体育の授業で陽葵の「密着指導」を受け、疲労困憊の翔太。
今回は授業終わりの水道局(洗い場)が舞台です。
ずっと装着していた分厚いARグラス。それを外した時、コミュ障の隠れイケメンというラブコメの王道トラップが、余裕だった陽葵に牙を剥きます!
アイちゃんの「独占コンテンツ」が流出してしまう、パニックの第8話です!
体育の授業が終わり、僕は体育館裏の水道に駆け込んでいた。
運動が苦手なうえに、夏川さんの「密着フォーム指導」で変な汗を大量にかいてしまったからだ。
「アイ、ちょっと顔を洗うから、グラス外すね」
「承知いたしました、翔太様。一時的に視覚投影をオフにし、音声のみのスタンバイモードへ移行します」
僕は分厚いARグラスを外し、濡れないように蛇口の横へ置いた。
視界からアイの姿が消え、いつもの見慣れた、少しぼやけた現実の景色に戻る。
冷たい水をすくい、バシャバシャと顔を洗う。
あー、生き返る……。僕は前かがみになり、鬱陶しい長めの前髪を、濡れた手でガバッと後ろに掻き上げた。
「――あっつー。一ノ瀬くん、水道空いてる?」
不意に背後から声がした。
振り返ると、首にタオルをかけた夏川さんが立っていた。
「あ、うん。どうぞ、夏川さ……」
言葉の途中で、夏川さんの動きがピタッと止まった。
彼女は目を丸くして、僕の顔を――正確には、グラスを外し、前髪を上げている僕の素顔を、まじまじと見つめている。
「……えっ。誰?」
「えっ? いや、一ノ瀬だけど……」
「は……? うそ、えっ……!?」
夏川さんはポカンと口を開けたまま、後ずさりを一歩。
その白い頬が、みるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていく。
普段の僕は、顔の半分が隠れるような黒縁のARグラスと、目元まで伸びた重たい前髪のせいで、かなり根暗な印象を持たれている。
でも、自分では全く無自覚なのだが……実は、母親譲りの整った顔立ちをしているらしい。(親戚のおばさんたちにはよく言われるけれど、お世辞だと思っている)
「な、なんで隠してんの!? ていうか、まつ毛なっが! 顔、良っ……!」
「な、夏川さん? どうしたの、顔赤いよ。もしかして熱中症……?」
「ちがっ、来ないで! ストップ! 今のあたしに近づかないで!」
心配して手を伸ばそうとした僕を、夏川さんはものすごい勢いで制止した。
いつもは余裕たっぷりでからかってくる彼女が、両手で口元を覆い、本気で動揺している。
その時だった。
蛇口の横に置いていたARグラスの小型スピーカーから、けたたましい警告音が鳴り響いた。
『ピーッ! ピーッ! 翔太様! 直ちに、直ちに光学防御ユニット(ARグラス)を再装着してください!!』
「ア、アイ!? どうしたの、急に大声出して……」
《i-Unit内部ログ:情報漏洩!!!》
[あああああ! 見られました! 泥棒猫に翔太さんの素顔が見られました!! あの前髪を上げた無防備で最高にカッコいいお顔は、毎朝私だけが内蔵カメラで堪能していた『独占プレミアムコンテンツ』なのに!! 夏川陽葵の心拍数の異常な上昇を検知! まずい、まずいです、完全に『一人の魅力的な男』として意識されてしまいました!]
『現在、極めて危険なレベルの紫外線、および有害な視線(夏川陽葵)を検知しました! ユーザーの尊厳と私の独占権を守るため、今すぐグラスをかけて前髪を下ろしてください!!』
「ど、独占権……? よくわからないけど、わかったよ!」
僕は慌てて前髪を下ろし、ARグラスを装着し直した。
視界に飛び込んできたアイは、両手で顔を覆い、これまでにないほど激しく取り乱したように赤いエラーを点滅させていた。
「……はぁ、はぁ……間に合い、ませんでした……。データ流出です……」
「ご、ごめん、アイ。グラス濡らしてショートしちゃったかな」
僕はアイに謝りながら、夏川さんの方を振り向いた。
「夏川さん、お待たせ。水道使っていいよ」
「…………」
夏川さんは、僕の顔――いつもの「ARグラスをかけた根暗な一ノ瀬くん」に戻った顔を見つめ、ホッとしたような、でも少し残念そうな、複雑なため息を吐いた。
「……一ノ瀬くんってさ。ほんと、自覚ないのが一番タチ悪いよね」
「え?」
「なんでもない。……あーあ。なんかあたし、すっごい調子狂う」
夏川さんは顔を真っ赤にしたまま、バシャバシャと勢いよく顔を洗い始めた。
僕には何がなんだかさっぱりわからなかったけれど。
視界の端で「素顔フォルダに厳重なロックをかけます……」とブツブツ呟くアイと、耳まで赤くしている夏川さんの間で、またしても見えない火花が散っていることだけは、なんとなく察せられたのだった。
第8話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに翔太の「素顔」が解禁です!
いつもは余裕でアイちゃんを煽っていた陽葵ですが、不意打ちのイケメン顔には勝てず、完全に「恋する乙女」の顔になってしまいました。
そして、翔太の素顔を「自分だけのプレミアムコンテンツ」だと思っていたアイちゃんの絶望感(笑)。
ここから陽葵のアプローチが、からかい半分から「本気」へと変わっていきます!
「陽葵のガチ照れ可愛い!」「アイちゃんの独占欲最高!」と思っていただけましたら、
ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】にして、アイちゃんの精神的ダメージを回復させてあげてください!
次回、ついに翔太が「アイに触れたい」と思う出来事が……!? お楽しみに!




