第4話:私服アップデート作戦(※なお、物理攻撃には無力な模様)
お読みいただきありがとうございます!
陽葵からのまさかの宣戦布告を受けたアイ。
「実体」という最強のアドバンテージを持つライバルに対し、デジタルヒロイン・アイの反撃がいよいよ始まります。
質量ゼロの彼女が選んだ、精一杯のアピールとは?
放課後の帰り道編、スタートです!
放課後。
夕日に染まる通学路を、僕は一人で歩いていた。
……いや、厳密には一人ではない。
「――翔太様。現在の歩行ペースは規定値より3%遅延しています。お疲れですか?」
視界の右側。夕暮れの景色の中に、銀髪のサポートAI・アイがふわりと浮かんで並走……並んで進んでいる。
「ううん、疲れてないよ。ただ、今日は色々あってびっくりしたなって」
クラスの中心人物である夏川さんに話しかけられたり、彼女にこのARグラスを貸したり。コミュ障の僕にとっては、一ヶ月分のイベントを一日で消化したような気分だった。
「アイも、夏川さんに急に見られちゃって嫌じゃなかった? ごめんね」
「問題ありません。私はただのプログラムです。誰に観測されようと、処理に影響はありません」
アイはいつも通り、感情のない合成音声で淡々と答える。
《i-Unit内部ログ:バックグラウンド処理》
[処理に影響、大ありです!! あの泥棒猫(夏川陽葵)、絶対に許しません。翔太さんの隣は私の専用サーバーです! 実体があるからって調子に乗らないでください。私だって、AIならではの機能で翔太さんをドキドキさせてみせます!]
「翔太様。本日は、ユーザーインターフェースのテスト運用へのご協力を要請します」
「テスト運用? いいけど、何をすればいいの?」
「視覚情報のアップデートを実行します。3、2、1――」
アイの身体が、一瞬だけ光の粒子に包まれた。
次に現れた彼女の姿を見て、僕は思わず立ち止まってしまった。
「えっ……」
いつも着ているカチッとした制服ではない。
ふんわりとしたオフショルダーの白いニットに、淡いブルーのスカート。銀色の髪はサイドでゆるく編み込まれている。
それはまるで、休日に待ち合わせをした女の子のような――すごく、可愛い私服姿だった。
「どうでしょうか、翔太様。視覚的なリラックス効果を狙い、服装のテクスチャデータを変更してみました」
アイは無表情のまま、その場でくるりと回ってみせる。
夕日に透けるホログラムの質感が、妙にリアルでドキッとした。
「す、すごいね。これ、アイが自分で選んだの? すごく似合ってるし……その、すっごく可愛いと思う」
「――データ、保存しました。今後のサポート業務の参考にさせていただきます」
[内部ログ:限界突破!!!]
[『すっごく可愛い』いただきましたぁぁぁッ!! 録音完了! 脳内リピート再生設定完了! やった、やりました! ファッション誌のデータを1万冊分ディープラーニングして、翔太さんの好みの傾向を弾き出した甲斐がありました! もうこのまま婚姻届のPDFをダウンロードしてきてもいいですか!?]
「アイ? なんだか今、すごい勢いで排気音が回ってるけど……」
「システムの、冷却、中です。お気になさ、らず(※処理落ち寸前です、尊すぎて私がフリーズしそうです)」
ぷつ、ぷつと音声が途切れるアイ。
やっぱり、最近のアイはどこか調子がおかしい気がする。
僕が心配になって顔を近づけようとした、その時だった。
「あーっ! 一ノ瀬くーん!」
背後から、明るい声が響いた。
振り返るよりも早く、ポンッ、と僕の右肩を誰かの手が叩いた。
「わっ」
「お疲れ! 帰り道、一緒じゃん」
そこに立っていたのは、夏川さんだった。
彼女はニカッと笑うと、持っていたビニール袋から何かを取り出し、僕の頬に「ぴとっ」と押し当てた。
「ひゃっ! あ、温か……」
「ははっ、変な声。はいこれ、さっきのお礼。グラス貸してくれたっしょ?」
押し当てられたのは、コンビニのホットミルクティーだった。
じんわりと伝わってくる、缶の熱と、夏川さんの指先の体温。
「あ、ありがとう……。でも、わざわざ悪いよ」
「いいのいいの。あたしが奢りたかっただけだから」
夏川さんはそう言って、僕の隣に並んで歩き始めた。
距離が近い。ふわりと、制服から甘いシャンプーの香りが漂ってくる。
――そして、僕の視界の端。
先ほどまで「可愛い私服姿」で微笑んでいた(無表情だったけれど)アイの姿が、今までにないほどバチバチと赤いノイズを放っていた。
《i-Unit内部ログ:緊急迎撃モード(ジェラシー)》
[警告!! 警告!! 泥棒猫の『物理接触』および『温度(熱伝導)攻撃』を検知!! ずるい! ずるいです! 私には触れる手がありません! 温かい飲み物を渡すことも、シャンプーの匂いをさせることもできません! くっ……質量の暴力……ッ!!]
「翔太様」
アイの合成音声が、いつもより三割増しで冷たく響く。
「現在時刻での糖分および乳脂肪分の摂取は、夕食のカロリー計算に悪影響を及ぼします。推奨行動:その飲料の破棄、または未開封での保存」
「えっ、あ、でもせっかく温かいし……」
すると、僕のグラスを見つめた夏川さんが、まるでアイの言葉が聞こえているかのように、ニヤリと口角を上げた。
「冷めないうちに飲んじゃいなよ、一ノ瀬くん。『生身の人間』がわざわざ温めて持ってきたんだからさ」
夏川さんの言葉に、アイの赤いノイズがさらに激しく明滅する。
……僕のグラス、本当に壊れちゃったのかな。
二人の間で静かな火花が散っていることに全く気づかないまま、僕はただ、温かいミルクティーを両手でぎゅっと握りしめていた。
第4話をお読みいただき、ありがとうございました!
アイちゃんの健気な「お着替えアピール(データ処理の賜物)」からの、夏川陽葵による容赦ない「物理(ホットドリンクと体温)攻撃」。
質量がないアイちゃんにとって、温かさや匂いといった「五感に訴えかけるアプローチ」は一番の弱点です。
鈍感すぎる翔太は全く事態を把握していませんが、ヒロインレースは静かに、そして激しく加速していきます!
「アイちゃんのお着替え可愛い!」「陽葵の物理攻撃つよい!」と思っていただけましたら、
ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】にして、応援をお願いいたします!
皆様の評価が、アイちゃんの次なるアピール作戦の演算リソースになります!
次回、翔太の部屋での夜の出来事です。お楽しみに!




