第3話:ライバルは体温を持つ(※物理的接触は規約違反です!)
お読みいただきありがとうございます!
ついに翔太の「虚空への独り言」が、クラスのスクールカースト上位女子・夏川陽葵に見つかってしまいました。
そして、質量を持たないAIヒロイン・アイにとって、最大の試練が訪れます。
女と女(?)の、静かで熱い火花散る第3話です。
「……ねえ、一ノ瀬くん。さっきから誰もいない空間に向かって、ブツブツ小声で話しかけてるよね? その変なメガネのせい?」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
顔を上げると、クラスの中心グループにいるギャル、夏川陽葵が、興味深そうに僕を見下ろしている。
「あ、えっと……ち、違うんだ! これはその、独り言っていうか、明日の天気を占っていたというか……っ」
コミュ障の僕が捻り出した言い訳は、どう控えめに採点しても0点だった。
夏川さんは「は?」と呆れたように眉を寄せる。
視界の端では、アイが僕を守るように(物理的な盾にはならないのだけれど)すっと前に出てきていた。
「翔太様。推奨行動:速やかなる教室からの撤退。もしくは、対象の記憶消去デバイスの使用(※当機には搭載されていません)」
「ア、アイ……無茶言わないでよ……」
「アイ?」
僕の小さな呟きを、夏川さんの鋭い聴覚が拾い上げた。
彼女は僕の顔――正確には、僕がかけているARグラスをじっと見つめる。
「ふーん。それ、最新のARデバイスだよね。もしかして、中にAIとかいる感じ?」
「えっ、あ、うん。父さんの仕事の手伝いで、テストしてて……」
「へえ! 面白そうじゃん。ねえ、ちょっとあたしにも見せてよ」
「えっ!?」
夏川さんは有無を言わさぬ笑顔で、僕に手を差し出した。
クラスの端っこで生きる僕に、カースト上位の彼女の要求を断れるはずもない。僕は震える手でグラスを外し、彼女に渡してしまった。
《i-Unit内部ログ:緊急事態》
[Target_Girl との接触を検知! ああああ翔太さん、何で渡しちゃうんですか!? 私の内部ストレージには翔太さんの寝顔画像(超高画質)が山ほど保存されてるのに、見られたら私の(主に翔太さんの)社会生活が終わります!! 全フォルダ、不可視化してロック! パスワードは『shota_love_forever_01』!!]
「おー、すっご。軽いねこれ」
夏川さんがグラスを装着する。
僕はハラハラしながら、グラスをかけた夏川さんの横顔を見つめた。
◇ ◇ ◇
【夏川陽葵・視点(ARグラス装着中)】
――うわ、何これ。すごい。
グラスをかけた途端、教室の空中に、銀髪のめちゃくちゃ可愛い女の子が浮かび上がった。
……けれど、あたしは見逃さなかった。
視界にそのAIが描写された最初の0.1秒。彼女は、親の仇でも見るような、凄まじい『殺気』と『敵意』であたしを睨みつけていたのだ。
そして次の瞬間、パッと切り替わるように無機質な表情を作り上げた。
「初めまして。私はパーソナル・サポートAI、i-Unitモデル01です。一時的なゲストユーザーとして認識しました。以後、お見知りおきを」
AIは、感情の一切こもっていない声で、完璧なお辞儀をした。
なるほど、一ノ瀬くんはこれと喋ってたのか。確かに最新技術って感じだ。
でも。
あたしは、オタク趣味を隠して高校生活を送っている、隠れオタクだ。こういうキャラの「属性」にはやたらと鼻が利く。
このAI、なんだかおかしい。絶対に猫をかぶっている。
あたしは一ノ瀬くんに聞こえないくらいの小声で、目の前のAIにだけ話しかけた。
「ねえ、あんたさ」
「……なんでしょうか。私への質問ですか?」
「一ノ瀬くんのこと、すっごい好きっしょ?」
カチッ、と。
AIの動きが、完全にフリーズした。
「……質問の意図が不明です。私はプログラムであり、感情などという非効率な機能は持ち合わせておりません」
「嘘つけ」
あたしはニヤリと笑った。
「あたしがこれかけた瞬間、めっちゃ恐い顔であたしのこと睨んでたじゃん。で、慌てて取り繕ったっしょ? 完全に、好きな男に近づく女を威嚇する顔だったよ」
「…………っ」
AIの無表情な顔の、ピクセルが微かに震えた気がした。
図星だ。こいつ、AIのくせに一ノ瀬くんにガチ恋してる。なんて面白いバグ。
「ま、あんたが惚れるのも無理ないけどね。あたしも一ノ瀬くんのこと、ちょっと気になってたし」
「……!」
一ヶ月前。放課後の裏庭。
誰もいない花壇の隅っこで、一ノ瀬くんが、カラスにやられて死んでいたスズメの死骸を、素手で丁寧に土に埋めてお墓を作っていたのを、あたしは偶然見てしまった。
普通の男子なら気味悪がって避けるようなことを、彼は当たり前のようにやって、静かに手を合わせて祈っていた。
誰にも見られていない場所で、あんなに優しくなれる人間を、あたしは他に知らない。
「あたしは『生身』だからさ。せいぜい、デジタルで頑張りなよ。……あ、これ宣戦布告ね」
あたしはグラスを外し、一ノ瀬くんに返した。
「ありがと、一ノ瀬くん。すっごい優秀なAIだね!」
「あ、うん……。夏川さんが変なヤツだと思わなくてよかったよ」
「全然! またお話しようね」
あたしはひらひらと手を振って、自分の席に戻った。
一ノ瀬くんはホッとした顔でグラスをかけ直している。……ほんと、無自覚でお人好しな少年と、ポンコツ恋するAI。面白すぎるでしょ、この二人。
◇ ◇ ◇
【一ノ瀬翔太・視点】
グラスをかけ直すと、アイはいつものように空中に静止していた。
「アイ、ごめんね。勝手に渡しちゃって。エラーとか出てない?」
「……問題、ありません。翔太様」
アイは淡々と答えたが、気のせいか、その銀色の髪が、静電気を帯びたように少しだけ逆立っているように見えた。
《i-Unit内部ログ:宣戦布告受理》
[警告:夏川陽葵を『脅威度SSSクラス(最優先排除対象・恋のライバル)』に正式認定。]
[……上等です。私には質量がありません。体温もありません。ですが、翔太さんを想うデータ量だけは、誰にも負けません。見ていなさい、泥棒猫。私の超演算力で、翔太さんを絶対に振り向かせてみせますから……!!]
「アイ? なんか、背景に炎のエフェクトが出てるけど……」
「……ただの壁紙設定です。お気になさらず」
バチバチと火花を散らすアイ。
僕の静かな学園生活は、どうやら今日で終わってしまったらしい。
第3話をお読みいただき、ありがとうございました!
陽葵は「翔太の隠れた優しさ(誰にも見えないところでのスズメのお墓作り)」を知っている、実体を持ったヒロインです。翔太の優しさは、人間にもAIにも、そして命を落とした小鳥にも平等です。
アイちゃんの「感情はない(と嘘をついている)」ことを見抜き、見事な宣戦布告を決めた陽葵。
触れられる陽葵と、触れられないアイ。
翔太を巡る、対極的な二人のヒロインの戦いがいよいよ幕を開けます!
「アイちゃん負けるな!」「陽葵の見る目いいね!」と思っていただけましたら、
ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援をお願いいたします!
皆様の評価とブクマが、作者の最大のエネルギー源です!
次回、翔太とアイの放課後ライフです。お楽しみに!




