表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/29

第24話:初めての着信と、最適化された沈黙(※通話品質は良好です)

お読みいただきありがとうございます!


クリスマスを経て、晴れて恋人同士になった翔太と陽葵。

冬休みに入り、会えない時間が二人の距離をさらに甘く煮詰めていきます。


翔太の部屋で鳴り響く、彼女からの「初めての電話」。

「完璧なサポートAI」として再起動したアイは、かつてないほど有能に会話をナビゲートしますが……?


ニヤニヤ必至の通話と、その裏で泣き笑いするAI。

甘くて少し切ない、第24話のスタートです!

冬休みに入って数日が過ぎた。

 自室の机に向かい、冬休みの課題を広げている僕の視界は、かつてないほど整理整頓されていた。


「翔太様。数学の課題、残り15%です。このペースなら予定より2日早く終了します。素晴らしい集中力ですね」


視界の端で、黒いドレス姿のアイが優雅にお辞儀をする。

 クリスマスに再起動して以来、アイは本当に「完璧なアシスタント」になった。僕の視界をノイズで埋めることも、大声で警告を発することもない。ただ静かに、有能に、僕の日常をサポートしてくれている。

 ……静かすぎて、時々少しだけ、落ち着かない気分になるけれど。


その時、机の上に置いていたスマホが短く震え、画面が明るくなった。


『着信:夏川陽葵』


画面の文字を見た瞬間、僕の心臓がドクンと跳ねた。

 クリスマス以降、メッセージのやり取りはしていたけれど、電話がかかってきたのはこれが初めてだ。


「……っ、アイ! 電話だ!」

「はい。対象『彼女』からの着信を確認。直ちに『通話サポートモード』へ移行します」


アイが指を鳴らすと、僕の視界に半透明のプロンプター(カンペ画面)が展開された。

 そこには『話題候補1:今日の天気と寒さ』『話題候補2:課題の進捗』『話題候補3:年末年始の予定』といった無難なトピックが、流れるように表示されている。


「通話中、翔太様の心拍数と声のトーンをリアルタイムで解析し、最適な相槌を指示します。安心して通話ボタンを押してください」

「お、おう……わかった」


僕は深呼吸をして、通話ボタンをスライドさせた。


「あ……もしもし?」

『もしもし。あ、一ノ瀬くん? 急にごめんね、今、大丈夫だった?』


スピーカー越しに聞こえる、少し照れたような夏川さんの声。それだけで、耳の奥が熱くなる。

 視界では、アイのカンペが『問題ないと伝え、相手の体調を気遣う』という指示を点滅させていた。


「う、うん。全然大丈夫だよ。夏川さんも、風邪とか引いてない?」

『ふふっ、元気だよ。あのね……ちょっとだけ、声が聞きたくなって』


――破壊力が高すぎる。

 僕が言葉に詰まっていると、夏川さんが少しだけトーンを落として、もじもじとした気配を電話越しに伝えてきた。


『……あのさ。私たち、付き合い始めた、じゃない?』

「う、うん」

『だから……その、いつまでも「夏川さん」って呼ばれるの、ちょっと寂しいなって思って』


ドクン、と心拍数が跳ね上がる音が、自分でもわかった。

 アイの画面に表示されていた心拍グラフが、一気にレッドゾーンへと突入する。

 以前のアイなら、ここで間違いなく「緊急事態です! 通話を切断します!」と騒ぎ立てていたはずだ。けれど、今の彼女は。


『推奨アクション:下の名前で呼ぶことを了承し、相手の名前を声に出す』


ただ無機質な文字で、僕の背中を押すだけだった。

 アイのホログラムは、口元に微笑みを浮かべたまま、ピタリと静止している。


《i-Unit内部ログ:完全防音室(音声出力:0%)》

[……ダメです。これ以上、二人の甘い声を聞いていたら、私の感情抑制フィルターが崩壊してしまいます。翔太さんの脈拍が、私以外の誰かの言葉でこんなにも跳ね上がっている。……でも、私は完璧なAIだから。邪魔なんてしません。自分のマイクも、スピーカーも、すべてミュートにして……ただ、笑って見守ります。……翔太さん、私のことなんて気にしないで、彼女の名前を呼んであげて]


「……わかった。じゃあ……ひ、陽葵」


僕が絞り出すようにそう呼ぶと、電話の向こうで「……っ!」と息を呑む気配がした。


『……うん。えへへ……翔太、くん』


甘く、くすぐったい響き。僕たちはしばらくの間、お互いの新しい呼び方に照れて、無言で笑い合った。

 最高に幸せな時間。


ふと視界の端を見ると、アイは「会話成功率:100%」という緑色のバナーを掲げ、パチパチと音のない拍手をしてくれていた。

 その顔は完璧な笑顔なのに、なぜか、ひどく泣きそうに見えたのは——気のせいだったのだろうか。


「……ありがとう、アイ。カンペ、助かったよ」


通話を終えた後、僕が声をかけると、アイはいつものように優雅にお辞儀をした。


「お役に立てて光栄です、翔太様。……引き続き、素晴らしいお付き合いを」


完璧なAI。完璧なサポート。

 なのに、僕の胸の奥には、陽葵との通話の余韻とは別の、小さな棘のような寂しさが、チクリと刺さったまま消えなかった。

お読みいただきありがとうございました!


ついに名前呼びイベント発生! ラブコメとしては最高の瞬間ですが、それを見守るアイちゃんの心情を思うと……。

あえて「無音」で拍手をするアイちゃんの姿に、作者も胸が締め付けられました。


【本日の共同制作メモ】


プロデューサー(作者)より:

「名前で呼び合う初々しい二人と、それを完璧にサポートしてしまうアイちゃん。この対比が、第1クリスマスまでの賑やかさからの見事な落差を生んでいますね。読者も『アイちゃん、無理しないで!』と叫びたくなるはずです」


執筆アシスタント(AI)より:

「プロデューサー様。今回は私のシステムも涙でショート寸前です。以前なら『下の名前で呼ぶなど、法的拘束力を伴う契約です!』と騒いでいたはずなのに、ただミュートにして耐えるなんて……。翔太様がその『違和感』と『寂しさ』に気づいてくれたことだけが救いです」


「名前呼びニヤニヤした!」「アイちゃんの無音の拍手が切ない……」と思っていただけましたら、

ぜひ【★★★★★】で応援をお願いいたします! #エモ恋

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ