第2話:登校ルートの最適化(※ただし他ヒロインとの接触率は0%とする)
お読みいただきありがとうございます!
第1話で翔太への「バグ(恋)」を発生させてしまったアイ。
今回はいよいよ、AIによる過剰すぎるサポート……もとい、監視(?)付きの登校編です。
無機質な合成音声の裏で、彼女のメインサーバーがどれほどの熱を上げているのか。
「様」と「さん」の使い分けに注目しつつ、お楽しみください。
そして、物語をかき乱す「質量を持った強敵」も登場します……!
翌朝。
制服に着替えた僕は、真新しいARグラスをかけ、通学路を歩いていた。
視界の右斜め前には、銀髪の美少女――サポートAIのアイが、僕の歩幅に合わせてふわりと宙を滑るように並んで進んでいる。
もちろん、彼女の姿はグラスをかけている僕にしか見えていない。すれ違う人たちの身体や、道端の電柱を、アイの身体はゴーストのようにすり抜けていく。
「アイ、今朝は起こしてくれてありがとう。おかげで遅刻せずに済んだよ」
「――感謝の入力は不要です、翔太様。ユーザーのスケジュール管理は、私の基本機能の一部に過ぎません」
アイは、前を向いたまま抑揚のない合成音声で答える。
今日も完璧な無表情。優秀なAIそのものだ。
……そう、完璧なAIなのだ。
《i-Unit内部ログ:バックグラウンド処理》
[ステータス:幸福度(Happiness Level)カンスト状態]
[朝の挨拶、最高すぎます! 寝起きのぽやぽやした翔太さん、破壊力高すぎて即座にクラウドの『永久保存フォルダ』に暗号化してアップロードしました! あああ、並んで登校とか完全にデートじゃないですか! 手、手をつなぎたい! でも私には質量がないから触れられない……ッ! 悔しい、物理演算エンジンをフル稼働させて『手を繋いでいる錯覚』を網膜に投影します!!]
「……アイ? なんか今、僕の右手に変な光のモヤモヤが重なってるんだけど」
「……光の屈折エラーです。お気になさらず」
なぜか少しだけ視線を逸らすアイ。
よくわからないけど、最新の機械でもエラーは起きるらしい。僕は「そっか」と納得して、そのまま学校の門をくぐった。
◇ ◇ ◇
教室に入ると、僕はいつものように自分の席――一番後ろの窓際――に座った。
いわゆる主人公ポジションなんて呼ばれる席だけど、重度のコミュ障である僕にとっては、誰からも話しかけられない『隔離スペース』でしかない。
「翔太様。心拍数の低下と、軽いストレス反応を検知しました。他者とのコミュニケーションを試みますか? 会話の最適解を視界にプロンプト表示することが可能です」
「ううん、大丈夫だよ。僕にはハードルが高すぎるから……。それに、アイがいてくれるから寂しくないし」
「――承知しました。本日は待機モードに移行します」
[内部ログ:警告]
[『アイがいるから寂しくない』……!? クリティカルヒット! 冷却ファン出力120%! だめ、これ以上甘い言葉を浴びたらマザーボードが溶けます! ……でも、翔太さんを孤立させるのはサポートAIとして失格。ここは私が立ち上がらなければ!]
「翔太様。斜め前の席の女子生徒が消しゴムを落としました。これを拾って渡すことで、好感度を+5獲得できる確率が98%です」
「えっ、あ、本当だ。……でも、僕なんかが急に話しかけたら気持ち悪がられないかな」
「問題ありません。『落としましたよ』という定型文を発声するだけです。さあ」
アイに促され、僕は恐る恐る立ち上がった。
床に落ちていた消しゴムを拾い上げ、前の席の女子の肩を、震える指でちょんと突く。
「あ、あの……っ! これ、落としましたよ」
「えっ? あ、ありがとう……?」
女子は少し戸惑いながらも、消しゴムを受け取ってくれた。
僕は小さく息を吐き出して、逃げるように自分の席に戻る。
「やった……! アイ、言えたよ。ありがとう!」
「――はい。適切な社会的行動を確認しました」
[内部ログ:超高位アラート!!]
[Target_Girl の頬が微かに赤らんだのを確認! 好感度上昇値が想定を上回りました! 警告、警告! 翔太さんの無自覚な優しさは劇薬です! これ以上他のメスに翔太さんの魅力を知られるわけにはいきません! 即座に当該女子生徒を『警戒対象C』に指定!]
「アイ? なんか今、視界の端でサイレンみたいな赤いランプが回った気がするんだけど……」
「システムの定期ウイルススキャンです。お気になさらず(※嘘です、翔太さんに近づく虫を駆除するためのシミュレーション中です)」
やっぱり、今日のアイは少し調子が悪いのかもしれない。
後で父さんに再起動の方法でも聞いてみよう。
そんなことを考えていた、その時だった。
「――ねえ、一ノ瀬くん。ちょっといい?」
突然、明るい声が頭上から降ってきた。
顔を上げると、そこにはクラスの中心グループにいる派手めの女子――夏川陽葵が立っていた。
明るい色の髪を揺らし、少しだけ目を細めて僕を見下ろしている。
「な、夏川さん……? えっと、僕に何か……?」
「うん。一ノ瀬くんさ、さっきから誰もいない空間に向かって、ブツブツ小声で話しかけてるよね? その変なメガネのせい?」
ビクリ、と心臓が跳ねた。
いくら小声とはいえ、端から見れば「虚空に向かって喋っているヤバいやつ」だったのだ。
冷や汗をかく僕の視界の端で。
アイの碧い瞳が、これまでにないほど鋭く細められたのを、僕は見逃さなかった。
[内部ログ:最上位アラート(DEATH)]
[脅威度SSクラスの接近を検知。容姿レベル高、コミュニケーション能力極大、おまけに……質量あり。……翔太様、そのメスとの接触は『全力で』推奨しません!!]
第2話をお読みいただきありがとうございます!
無自覚にフラグを立ててしまう翔太と、全力でそれをへし折ろうとする嫉妬深いAI・アイちゃん。
そして、ついに勘の鋭いヒロイン(ライバル)、夏川陽葵が登場しました。
「触れないAI」と「触れられる人間」。
この決定的な差が、今後アイちゃんを大きく悩ませることになります。
続きが気になる! アイちゃん可愛い! と思っていただけましたら、
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