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剣士のディー(ディカイオス)とヒーラーのエフ(エフシモス)が電気ウナギ型魔獣の肉を串に刺して持ってきて、火の付近に配置した。
「それにしても、アーサーの故郷には魔獣が居ないなら一体何の肉を食べてたんだ?」
ディーは煮沸して殺菌した香り付け用の野草を頬張りつつそう言った。
「多くの人は哺乳類・鳥類・魚類の肉を食べていたよ。もっとも私は道義に反するから哺乳類・鳥類の肉は食べなかったが」
「……大変な場所だな」
哺乳類・鳥類の肉は生活習慣病を始めとする疾患の要因であることは魔法で解明されている。また、哺乳類・鳥類の意識は人と深く心を通わせるほど高度に発達しているため苦痛が耐え難いことは必定であり、倫理的にこの国ではタブーとされている。他にも牛乳・卵・白砂糖の有害性も解明されており生産・販売は重罪で、いわゆるマイルドドラッグは流通し得ない。食事内容は人生の全てに波及するため、そうした不正/不健康な食事をしている人間は恒久的な心の安らぎを得ることは不可能で苦痛を量産しているわけだが、不正から足を洗わない自業自得と言えるし、何より言って聞くものでもないから手の施しようが無い。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」という諺が的を射ている。
エフは時折こちらの様子を伺いつつ寡黙に食事をしている。私は魔法使いとしてパーティに参加しているにも関わらず、戦闘中に剣が現れ、最終フロアの魔獣討伐直後に剣が消失したことを不思議に感じているのだろう。私は簡単な魔法しか使えないので、能力で生成される特殊な武具を使用した方がダメージ効率/DPSが良いのだ。
「この蓬なんか美味すぎるんだが!」
ディーは無作為につまんで齧っていた煌々と光る蓬を手にそう言った。
「魔法の痕跡はありませんね」
エフとロポスがちらり、とこちらを見た。
「そゆこともある」
多分私の能力で発生したもの。嘘をつくのも憚れるし抽象的かつ普遍的な事実を言うことにした。
私は狐色に焼けた鮭に塩をかけ、かぶりついてそう言った。
「そういうことにしておきましょう」
エフは察した面持ちでそう言いスープを飲んだ。
その後ギルドへ帰還し報酬を受領後、パーティメンバーに別れを告げ帰路に着いた。静謐な環境は善い精神を保つために肝要ゆえ鉄筋コンクリートの賃貸を利用することに。
私は今日の素晴らしき冒険を振り返りベッドで幸福に眠るのであった。
「……!」
何だか眩しいな。
私が目を開けると、そこは美しい異空間だった。
「お目覚めですか。眠ったと形容することもできますが」
この世のものとは思えない美女が人差し指を顔の前で振りそう言った。
……あれ、この方見たことあるぞ。確か異世界転移する前に。確か女神様だったか、そんな感じの善い存在だった気がする。何で忘れてたんだろ。
「大半の人間にとって、記憶は世界を渡る時に忘却してしまうものです。貴方は過去地球で何度か転生しているのですが、お忘れでしょうね」
そう。心もお見通しなんだよね。
「エルの物語を思い出します。私の人間性は不十分ゆえ記憶が維持されないのですね」
「いつの日か必ずや心に刻印できることでしょう。神は善く在る者には相応の対価をお与えになりますから。逆に不正に生きれば相応の償いをしなければなりません」
プラトン著書国家に登場する「正義の報酬」は事実だったのか。そうすると人生で生じる不幸というのは過去の人生で犯した罪が精算されている自業自得ということになる。従って、苦痛が生じることは自分が望まないこと/不正ゆえ、避ければ新たに罪を犯さないようにできる。
「その通り」
美女はウィンクしてそう言った。
「それと、ソフィアは引き続き大切になさい。互いを善くし、より多くの人々を助けることができるから」
私はその後、能力の手解きを受けた。要約すると、都度必要なものが与えられるだけではなく、善意で何らかの願いを持つとその善意の強度を参照して物体を時限具象化できるらしい。




