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私はソフィアを一人の人間としてとても好きだ。助けを必要とする人を放っておけなかったり誰に対しても親切にする姿を見ると心が癒される。しかし、男女間特有の感情に意識を向けることは時間を浪費し助けられる人間を見殺しにすると知っているし、元より欲望に価値を感じないため、我々の間には存在せずただ友愛が有る。私は善を為すことで天上的な喜悦が生じるから。
そういえば、異世界へ来る時に【固有能力】を授かったのを忘れていた。ソフィアも忘れていたようで、異世界転移時のショックなのだろう。ソフィアは【聖女】で私は【勇者】の固有能力。聖女は善性を比例定数とし正比例して聖属性魔法の効果にブーストや特殊効果がかかる。例えばヒールは肉体への損傷を悉く回復するが、効能は対象の人間性に左右され善人は助かり悪人に効果は無い。この善人の定義は、一般的なそれではなく最善を尽くしている/欲望を排し己が望みを常に叶えようと努めているかで決されるから大半の人間には効かない。勇者は日々の善行でゲージが上昇し何らかの効果が起きる。雅な華束が発生したり麗しい水が発生したりと道中起きた不思議なことの連続はそれだろう。私の何となくそんな気がするという直観は、脳ではなく心の記憶に根ざしていたのかも。脳死状態の人が臨死体験をした事例は数多くあるわけで、現代科学は宇宙のごく僅かな真理を解き明かしたに過ぎないし。
そういえば勇者や聖女を国王が探してるなんて話をこちらへ来た当初小耳に挟んだものだが、忘れていたことでむしろ魔力を悟られず安全に異世界生活できたことは僥倖と言える。ソフィアのことだから誰かを助けようと奔走しただろうし、そこが彼女の善い部分であると同時に脆い部分なのだ。誰かを助けるには自分が何者にも拘束されない自由な生活を送らなければならないから。残りの人生常に彼女の側にいて導いてあげられればいいが、私が明日生きている保証も無いし、私がいつ死んでも悲しまず前を見て歩み続けられるよう指導しなくてはならない。そのために、私自身が常に望むことをし今日を精一杯楽しむ必要が有る。
ところで異世界にも魔法が有るわけだが、ファンタジーな都合で物理法則が歪曲されることはない。例えば、地、水、炎、風、雷、光、闇、聖属性のうち、炎・雷の基本攻撃力/単位魔力あたりのエネルギー効率は軒並み高い。これは炭素と酸素の結合による一千度の空気燃焼、空間を覆うような絶縁破壊を因子とした空気のプラズマ化による火花放電の致死性に依拠している。無論これは基本攻撃力なので、例えば魔法出力を拡張したり、水や光を超高精細に圧縮すればウォータージェットカッター・指向性エネルギー兵器となり物体を容易に切断できるほどの出力バースト/DPS向上を見込める。射程距離の相関で光属性魔法一強に思えるが、要求魔力が高い。総評すると、各属性は同程度の性能と言える。
魔法は意念で発動するらしく、試してみたら使えた。詠唱系は高位魔法なので鍛錬無しに使えない。もし使えたら暴発するだろうしありがたい親切設計だ。この宇宙に生命が誕生するのは物理定数を遵守する天文学的な確率ゆえ神の存在を措定する説ように、魔法の設計も人間にとって大変都合がよろしい。




