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 私は、自分の望まない仕事をするくらいなら死んだ方がマシだと思っている。それは、自分の望みを叶えるのが適性に合致するがゆえに最も公益且つ自らの福利になるという、道徳的理由ではない。というのは、そもそも道徳が正しいか否かは論理的に証明できない以上、単にそれは「自分がどうしたいか」という一点に尽きるのであり、自己満足の域を出ないから。しかしこうも思う。自己満足には善い自己満足と、悪い自己満足があり、前者こそが真の満足なのだと。そこに論理的整合性も妥当性も無く、一切の論拠と呼べる普遍的法則も無く、されど「心」があるゆえに。誰かを助けたいという想いがあるゆえに。

 従って、我々は何ら知に対して寄る辺が無く、月夜を飢えながら街を歩く孤児のように、真理に到達することは本質的に不可能と言える。もしそれができるとすれば、神以外に居ない。物事の本質――プラトンの言うイデアを知るのは創造主だけである以上我々の知的行為は総じて影絵の如くお粗末な真似事に過ぎないのだ。

「――ところで、これからどうするつもりなのかしら?」

 私の友人兼弟子・ソフィアがそう言った。我々に友愛以外の感情は存在しない。

「どうもしないさ」

「それでは死んでしまうわよ。この通り金銭は底を尽きてるんだから」

 財布をひっくり返しながらそう言った。

 現在の我々は戸籍無し住所不定無職であり、異世界転移時に獲得した少量の金銭は食事と水に使い果たした。

 地球では、私は幸運にも持病の診断書が有ったので生活保護で不労所得生活を満喫していたわけだが、ソフィアは自分の望む仕事をしていた。

「人生とは思いがけないところで何らかのサポートがあるものだ。我々は自分自身をより善くすることを心がけていれば良い」

「理由を聞いても?」

「何となくそんな気がするから」

 ソフィアは頬を膨らませたり口を尖らせたりと物言いたげな面持ち。

「自分がどうしたいか以外に、重要なことはないよ。君がそうして私を師と仰いでいるようにね」

「直観てこと?」

「そゆこと」

 私は人差し指を振ってそう言った。

「しかし、人間はしばしば論理で直観を押し殺してしまう。〜すべきだとか、こうするのが善いことだとか、ね。人知には絶対的な限界があるにも関わらず、人は自分が何かを知ったと思い込んでしまって道を外れるのさ。特に人間関係を上手くやろうというのは、奴隷のようにご機嫌取りする迎合であり数多の苦痛を生み出すから注意が必要で、自分が望むようにする以外に心が救われることはない」

「時に忘れてしまうものね」

 ソフィアは過去を追想するような面持ちで、胸に手の先を置いてそう言った。

「であればこそ、我々は想いを新たに決意を刻印しようと努め進歩するのだよ」

「すると、自分の望みを叶え、望みに反するものは全て棄却しなければならないということ? たとえ命に代えても」

「その通り。命あっての物種なんて言葉は、時代や地域で容易に変遷する臆見――常識 の中で生きている類人猿の戯言なのだよ。常識・マナーを主張する人間は、盲目的に群衆心理で同調圧力を掛けるエゴイストだ。例えば天動説や男尊女卑は過去の時点では常識だった誤謬。手で米を食べるのが主流な国が有るにも関わらず、日本では箸を使うのが正しいとされるのは誤った固定観念・迷信で、本当は箸でもスプーンでも手でも何でもいいのだ。ま、私は食器洗い・ハンドソープを使用した手洗いで時間とエネルギーを浪費したくないから割り箸を選択するがね。常に最善を尽くして善を為さない限り、神々と共に暮らすことはできないだろうし。無論、神が存在するかは知らないが、そう信じれば勇気づけられるし実践の糧になる」

 私は地球で独立した後、紙コップを使ったり使い捨て容器にラップをして器として使っていたので食器を洗ったことがない。乾燥機能つき洗濯機を使用してたので服を干したこともない。他人の評価に価値を置いてないから服を畳んだことも無い。

「なるほどね。……そうすると、アーサーの言う望みはきっと、常に善く在るよう心を尽くすことね」

「というより逆説的に、望むことが不可思議な引力によって善に結びついてしまうのだ」

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