2(ラテス)
僕にはアホな幼馴染が一人いる。
特に顔がいいとか、背が高く筋肉ムキムキとか、そういった特徴とはまるで無縁な幼馴染み。
名前はクライス。
背は僕と同等、白い髪で、性格はまあまあチョロいし、優しい。
四歳のとき、僕はおばあちゃんの葬式で、王都から産まれたこの村に帰ってたけど、彼とはこのときで知り合った。
「やれやれ、たかが一人が死んだくらいで泣くとか、ないわ」
おばあちゃんの葬式のあと、
僕は遊びにいくとウソをついて、
川辺で泣いてるところ、突然背後からそう言われた。
振り向くと、小生意気な表情な少年が焼き魚を加えて僕に指差した。
「えっと、誰ですか?」
「クライスだ、今後はクライスさんと呼べ」
小生意気なあの顔を見て、僕は泣くのを忘れ、
少しむかついた。
「クライス、、さん、ですか?」
「そうだ、クライスさん」
少年は僕に近づき、焼き魚を僕の前に突き出した。
「ほら、クライスさんが恵んでやったぞ、感謝しろよ?」
齧られた跡を見て、僕は「遠慮する」と答えた。
すると、彼は「うまいのに?」としつこく勧めてくる。
仕方ないので、騙されたと思って、齧られたところだけ、一口食った。
毒はない。骨もない。
調味料がしっかりしてて、普通に旨かった。
「どうだ、うまいでしょ?
この辺り、俺だけ知ってる釣りのポイントがあるんだよ」
「へえ、どこにあるの?」
僕は笑顔でそう聞くと、彼は面を食らった様子で、顔が赤くなった。
「き、聞きたいのか、じゃあ連れてやるよ、
ついて来い」
ただの池だった。しかも村長の私有地。
文字が読めないのか、それともただの馬鹿か、
私有地と書かれた木の板の標識を無視して、
彼は進んだ。
僕は呆れて彼に「ここは村長の私有地ですよ?勝手に入っちゃ駄目なとこなんですよ?」と教えると、
彼は急にびくっと肩が震えて、
「え?マジ?」って縋るような顔で僕を見た。
「お、俺、そんなこと、知らないんだけど、、、!」
彼は慌てふためく。
「一緒に村長に謝りにいこうか?」
「そ、それは、、、」
面白いくらいに汗が出てくる彼に、
僕はそっと彼の耳元でこう告げた
「どうしたんですか?
もしかして、叱れるの怖いのか?
クライスさん、もしかして、臆病者なんです?
ーーーないわ」
仕返しとばかりにそう揶揄うと、
彼は小さな声で、
「ごめんなさい、ひどいことを言って、、」
と僕にしょんぼりに誤った
「いいよ、その代わりに、
僕の友達になってよ」
「脅した相手に『友達』、、、?
コイツ、怖い」
その『怖い相手』の目の前でそう言える神経に怖いと思うが、、、
「僕はラテス、さんはつけなくていいよ?
あ、それとも、やっぱり村長さんのところーーー」
「友たち、友達になります、て、ラテスね、覚えた!」
まあ、こうして会って初日に上下関係が築けたわけだが、彼と遊んでると、
おばあちゃんのことがだんだんと忘れた。
三日間、この村に滞在して、僕はかつてほどに嬉しかった。
そして別れの日、彼は姿が現れなかった。
おもちゃにして気分を癒したわけだから、
きっと嫌われたと、僕は思った。
王都の家への帰り道の途中、馬車は何かに衝突して、停まってしまった。
ウマが倒れたようだ。
パパとママは外へ出て、そしたら、
いきなり悲鳴が聞こえた。
それに伴う、獣の唸り声と、ぐちゃぐちゃと、何かが引き裂かれる音が、耳元に届く。
体に震えが止まらず、薄々察した、馬車がマモノに襲われた。さっきの悲鳴の中に、雇った冒険者も含まれた。
僕は力なく、馬車の中で泣いた。
『なんだこれ?』
馬車の中に声が聞こえる。
僕は立ち上がって、声を探したが、座席のしたにその声の持ち主がいる。
急いで座席に上の荷物を退けて、木の板を開けると、けほけほと咳込む【クライス】の姿があった。
「く、くらいす、、、」
僕は彼の姿を見て、絶望した。
外はマモノがいる、
そしてクライスはたぶん僕を驚かすために乗り込んだ、
ああ、嗚呼
ーーー僕のせいで、クライスまでも、、、
「ーーー」
僕は泣いた、声を出せずに嗚咽した
クライスは座席から出て、窓の外を見る。
「ひ、ふ、み、よん、ご、
六匹か、、、」
「く、くらいすぅ、、、ごめん、ごめん、、、
ごめん、僕、僕のせいで、くらいすも、、」
僕は、とにかくクライスに謝るしかなかった。
どんな原因であろうと、
僕のせいでクライスも巻き込んでしまったから。
「大丈夫、大丈夫
いざという時は、俺が守ってやる」
そう言って、クライスは陽気に笑って、
僕を抱きしめた。
ぼうっとする僕は、そもそもクライスが何を言ってるか、それさえも、理解できずにいた。
「ありがとう、、、」
それから、マモノの声がした。
最初は唸り声、唸り、唸り、吠える音。
馬車の壁にぶつかってきた音。
僕らは声を止むまでずっと待っていた。
やがて声が徐々に止み、
クライスと僕はゆっくりと窓に近寄る。
外を覗いたら、
パパとママたち、護衛たち、みんな、
いなくなった。
「もう少し待ってから、逃げよう、、、
マモノは捕らえた獲物を食う、
その間は安全だ」
クライスの言葉の意味が分かる。
もう、助からないんだね
「もうすこし、ここで待っていたら、
パパもママも、、、
助かったのか」
僕らは馬車の壁に背凭れして、
マモノたちの声全てが消えるまで待った。
クライスは袖で僕の涙を拭いて、
僕の額に彼の額が当たる。
「お前だけでも助かったんだ、
これ以上望んでどうする」
クライスは僕の涙を拭いても、僕は泣き続けた。
「はあ、、、慰めることば、一つも出てこないとは、、、大人としては情けないや」
クライスは頭を乱雑に掻くと、
その手を僕の体に回し、僕を抱きしめた。
「、、、泣け、もっと泣け、
もう終わったんだから、泣いて寝ろ、後で俺がおんぶして帰るから」
何故泣くのか、親が死んだのか、怖がったのか、理由すらも忘れて、僕は泣いて、泣いて。いつの間にか寝てしまった。
クライスの村に戻って、おばあちゃんの家に一人で住んだ僕宛に、
王都からの手紙が届いた。
僕の親戚から親の死の追悼、それから遺産に巡る問題ーーーつまり僕の保護者について、書かれてた。
幼い僕はちゃんと読んでいなかったし、パパとママのことで凄く悲しかった。
だから放置していたのだ。
そのせいでパパとママの財産がほとんど親戚どもに取られ、保護者についてだけはちゃんとしていた。
「王都に住んでるナック叔父さん」が僕の保護者に指定された。が、彼もまた僕のことに関しては興味がなく、一定の金を手紙で村へ届いてくれるだけで、「王都にくるな」って僕を拒絶した。
だから僕はこの村でしか住めない。
王都の僕の家は、もういなくなったから。
でも、それもすぐに忘れた。
クライスは毎日僕のうちに遊んでくれる、それがたまらなく嬉しかった。
あるとき、知らない人から、学校に行かないかと書かれる手紙があって。
よく覚えてないが、パパとママが生きてる時に、約束を交わした元婚約者の家族だった。
一度王都に帰って欲しい、娘があなたの顔がみたいとのこと。
どうでもいい。
クライスが街へいくことに嫌悪してるがわかったから、帰れる場所もいない。
いく理由など、どこにもいなかった。
彼のそばより心地よい場所など、いない。
六歳の半ば頃、あり触れた日の午後、
クライスは彼が転生者だと"僕"に暴露した。
一瞬驚いたが、すぐにその危険に気づいた。
この国では、転生者ってだけで、死罪。
そしてそのことを、彼は僕に言った。
じゃあ、親には?他の知り合いには?
僕は危うく狂乱に陥るところだった。
クライスは馬鹿だから、もし無闇に言いふらすと、きっとあっさり掴まれて死んでしまう。
幸い、まだ僕にしか話してないようだ。
僕は彼に「これは僕らの秘密、他の誰にも言ってはダメだ、言ったら怒る、いいな?」と釘を刺した。
クライスは馬鹿で、意味も気づかずに、ちゃんと約束を守ると僕は信じてる。
——————
ラテスの日記
☆月
可哀想なクライス、親に追い出されるなんて、、、お陰でクライスと同居出来た。
良かったと言えばクライスは怒るだろうな
ただ友達の家に泊まって、ご飯を作った、一緒に風呂に入るだけだし、特に変なことはないな
■月
クライスの奴、女になったら惚れるとか馬鹿なことを、、、
いつも男とか好きなわけないと言ったわりに、
他の女の子と大して遊ばない
普通は許嫁がなくなれば、いろんな女の子と遊ぶのがこの村の人なのだが、
やはり異世界人は妙な価値観を持ってるようだ
にしても『俺はホモじゃない』ってどういう意味でしょうか、クライスの異世界語らしいが、
頑なに意味を教えてくれないし
♤月
クライスが自分家にいく頻度ががくっと減った。理由を聞くと、面倒くさいらしいですが、
目の周りに赤いから、たぶんまた追い出されたでしょう。
今夜も同じベッドで慰めるか、、、
最近のクライス暗くなってるな
◇月◇日
ああああああ!
クソクソクソ、コイツ!
よりによって自傷しやがって!
◇月◇日
どうやら自分自身を切るという自覚は持っていないみたい、ならば無意識でそうなったのか、、、、?
夢遊病だ。
この一ヶ月の観察でわかった。
この馬鹿、夜にナイフで自分を切りやがった
浅く切ったせい痛覚もないか、本人が起きない
□月
密かに医者に問いただすと、ストレスを感じて、精神的な疾患だったみたい
環境を変えばいいみたい
□
イグネットが応じたようだ。
後一ヶ月、もうすぐだ、もうすぐでこんな場所からクライスを連れ出せる。
◎月
よし!
こいつ、どうせテストが落ちると思ったんでしょうが、たとえ落ちても
執事入学すればいいだけだ。
これで夢遊病も治まればいいが、、、
ナイフも隠した、ここしばらく傷が増えてない




